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なうろう作家とメガミ様  作者: 昼熊


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書籍化とは

「しかめっ面して、どうしたの?」


 布団に入った状態で本を読んでいると、枕元に立つ天聖子さんがいた。

 読書用のライトに下から照らされた天聖子さんの顔は、日本人形のような髪型と相まって和風ホラーテイストだ。

 普通なら驚く場面なのだろうが、神出鬼没の彼女が現れるようになってから神経がかなり図太くなったようで、口から出るのは悲鳴ではなく……ため息だった。


「とうとう、人の寝ているところにも出るようになりましたか」


「お化けみたいな扱いやめてもらえる? 今日は残業で遅かったの。だいたい、まだ二十三時なのになんで寝てるのよ。電気つけるわよ」


 本当に仕事帰りのようで、着ている服がスーツのままだ。

 神の世界も残業有りなのか……。

 日本らしいなと笑っていい場面なのだろうか……。

 部屋が明るくなったので布団を端に寄せて、脚が折りたためる座卓を再び部屋の中心に配置する。


「お茶でいいですか?」


「炭酸飲料がいい! お酒でもいいよ! あとなんか甘い物も!」


「寝起きで酔っ払いの相手はきついので、コーラにしておきますね。甘いものはプリンと杏仁豆腐どっちがいいです?」


「どっちも!」


「はいはい」


 予想通りの返事に苦笑しながら、飲み物とスイーツを用意して戻ると、天聖子さんは自分専用のクッションに座り胡坐をかいていた。

 あのクッションもいつの間にか家にあったんだよな。犯人は言うまでもない。


「お久しぶりですね、かれこれ数か月ぶりでしょうか」


「リアル時間を持ち出すのやめてくんない? 作中ではほぼ毎日やってきている設定なんだから」


「これは失礼しました。てっきり他の作品の更新で忙しくて、メタ発言ばかりで書籍化になる可能性が皆無なこの作品の事など、作者はとっくに忘れているので構わないのかと」


「あ、うん。それはありそう。私も存在を忘れられていると思っていたわ」


「前の『小説家になろうが冒険者ギルドだったら』という作品も、ここで書いても大丈夫のような内容でしたよね?」


「私もそう思ったけど、これ以上危険な発言は控えないと。えっと、話を戻すけど何の本読んでいたの? 楽しそうには見えなかったんだけど」


 おっ、軌道修正をしてきたか。

 あまりに久しぶり過ぎてお互いのキャラを忘れかけていたが、なんとか前の調子を取り戻してきた。……とか思っても作品の裏側を口にしてはいけない。

 でもこの作品って初期の頃と設定や内容がかなり変化してきているような。

 漫画でも一巻と最新刊では顔が激変していたり、口調が変わっているなんてよくある話なので気にしないでいいか。


「読んでいたのは、なうろうから書籍化された作品ですよ。臨時収入があったので勉強のために書籍化された作品を数冊購入したのですよ。一巻だけ」


「そういうの大事よね。天才型の作家だったら人の作品を参考にしないでも、人気の出る小説書けるけど……どっちかというと努力型だもんね」


「一瞬言い淀んだようですが、無理して褒めていただきありがとうございます。私は考察してその情報を取り込むと見せかけて、その道から少しそれたところを全力で走っていくタイプですからね」


「ひねくれているわよね……」


 テンプレや流行を調べて売れそうな道筋を見つけておきながら、その道の上を歩かないという悪癖がある。リアルでも作家としても方向音痴なのかもしれない。


「読んでいた小説についてなのですが思った事は、驚くほど冒頭の展開が似た作品ばかりでした。ここは正直仕方ないのですけどね。異世界転生、転移のパターンは現代社会で死ぬか、異世界に飛ばされるシーンから始まるのが定番ですから。むしろ、お約束のようなものですし」


「そのシーンがなくても、転移直後から始まるパターンよね」


「まあそうですね。その後は冒険者ギルドに行くか、状況を説明してくれるキャラが現れるか、わけも分からずボッチプレイ開始でしょうか」


 序盤は妙に凝ったところで、逆に受け入れがたい人もいるだろうから、なうろうテンプレぐらいがちょうどいいのかもしれない。

 個人的には序盤から一捻りある作品を読むと嬉しくなるが。


「面白い作品はここから作者の個性が出てくるのですよ。ですが、面白くない作品はここからまたテンプレ展開が続きます……」


「すっごいうんざりした顔しているわね」


「いやね、数作品読んでいると似たようなセリフに似たような状況が多くて、たまに既視感を覚えるのですよ。あれ、これ前にどこかで……。って、リアルで口にしましたよ」


 何作も続けて読んでいると面白かった作品は心に残っているのだが、どうでもいい作品はびっくりするぐらい内容を覚えていない。キャラ名を誰も言えなかったりする。

 これは愚痴のように思われるかもしれないが、自分自身に言い聞かせていることだ。自分の作品はそういった点を大事にしようと。


「それはもう、しょうがないんじゃ。今じゃ、なうろうから書籍化される作品って、いっぱいあるんだし」


 天聖子さんの言い分はもっともだ。これだけ異世界転生や転移だらけになったら、完全オリジナル展開は難しい。


「そうですよね。昨年は、なうろうから書籍化された作品が千を超えたそうですし」


「えええっ!? そんなにあるの! すっごいわね。人気のあるサイトだとは思っていたけど、千作品以上も世の中に本として出回っているんだ……」


「ほんと凄いですよね。去年一年だけで、新作のなうろう作品が千以上もあるのですから」


 俺が感嘆して呟くと、天聖子さんは顎が落ちそうなぐらいに大口を開けている。


「えっ? 一年間で出た新作の数? 今までの総合計じゃなくて?」


「らしいですよ。去年は千以上の新作が書籍化されたそうです」


 信じられないと頭を振る天聖子さんの気持ちはよく分かる。俺も何かの間違いじゃないのかと目を疑った。

 だが、どうやら事実らしい。毎年増えているのは知っていたが、新規参入のレーベルも年々増えていって、今では月に百近くの新作が出版される。

 まさに『なうろうバブル』だ。


「凄いブームじゃないの! この波に乗り遅れるわけにはいかないわね!」


「そうなのですが、これだけ作品が乱立すると売れない作品も大量に出ますよね。商売でやっているのですから、当たり前なのですが」


 そう、そこが問題なのだ。

 なんでもいいから書籍化したい! と望む人には最高の現状だと思う。四万ポイントを超えなければ書籍化は難しい、と言われていた時期があったが、今は二万代でも作品によっては声がかかる、らしい。

 数年前に比べるとかなりハードルが下がっている。そんな状況で書籍化をして、どれだけの作品が、作者が、生き残れるか。

 さっきは『なうろうバブル』と表現したが、実際は『なうろう戦国時代』だと思っている。今年は『なうろう』産の作品が続々とアニメになり、更にブームに火が付く可能性も高い。

 そして益々、書籍化作品が増えることだろう。

 どの国(出版社)に属して、この戦乱を生き抜くのか。一つの国に絞るのではなく多くの国に雇われる傭兵も多い。一芸に秀でた者もいれば、多芸な者もいる。

 そんな猛者たちと競い合い俺は……。


「ほんと、生き残りたいですね……」


「今、びっくりするぐらい感情がこもっていたわよ」


 そりゃ、本音の呟きだから。

 作品の人気が出た場合、それは実力もあるが運の要素も多分にある。

 ヒット作を生み出した人でも、二作目、三作目は売れずに駄作だった。という展開は小説でも漫画でもよく聞く話だ。

 何作もヒット作を生み出している人は、きっと本物の天才なのだろう。


「っと、話を戻しましょうか。今読んでいた作品は驚くほど、なうろうテンプレの詰め合わせなのですよ。なうろうの教科書にしたいぐらいに。ただ……少し前の、と付きますが」


「どんな内容なの」


「これはあくまでフィクションなので、実際に作品に対しての感想じゃありませんからね? 私の作り出した理想のテンプレ作品をいじるだけであって」


「はいはい。もういい? この下り必要ないんじゃないの?」


「こういう保険って大事なんですよ。これがあるかないかで、批判の数が変わりますし」


「この作品って読んでいる人が変わり者ばっかりだし、全て理解している読者だから批判なんて滅多に来ないわよね?」


「しーっ! この作品の読者は寛容で心が綺麗な人ばかりなのデスヨ」


 とフォローも完璧だ。

 これで何を言っても批判されることはないだろう。


「その内容なのですが、死んで異世界に飛ぶ。初めから強くて綺麗で状況を説明してくれる便利な女性がいて、惚れられてすぐやっちゃう。冒険者ギルドで能力を驚かれる。奴隷を買う、そしてやっちゃう。仲間として一緒に冒険をする。美人を助けて惚れられて、やっちゃう」


「もうやめてっ! その展開反吐が出るわ!」


 実際に異世界に人を送り込む天聖子さんからしてみれば、何度も何度も見てきた光景なのだろう。


「いやね、この展開はなうろう全盛期に多かったので今更なのですよ。はやったということは、需要があったという事です。だから作者の考えとしては間違いではありません。書籍化という一点だけを極めたらこうなるのでしょうね。ただまあ、そこにオリジナルの要素は皆無ですが」


「まあそうよね。でも実際の話、異世界に行ってとんでもない力を手に入れたら、性欲むき出しでハーレムってのは男の願望なんでしょ?」


「一緒にされるのは心外ですが、分からなくはないですよ。そういう人が多いからこそ、ハーレム漫画や小説が何だかんだ言われても人気なわけですし。男女問わず理想の相手をはべらせることができたら嬉しいでしょ?」


「う、うーん。まあ、そうかな」


「ある意味、この作品は異世界に行った人の実際の行動に近いのかもしれません。欲望に忠実なだけですからね。少なくともホストやホステスにはまったり、お金払って性処理をされている方は、力か金の差があるだけでそういう願望が……」


「それ以上は危険よ! あと十代の健全な青少年が読んでいるかもしれないのだから、そういう発言は良くないと思うわ!」


 今のは極端な例えなので批判もあるだろう。だが実在した権力者を見る限りでは、強く否定はできない。

 あと健全な青少年がこんな作品を読んでいるのかは、若干疑問が残る。


「とまあ、そのような作品なのですよ。俺がしかめっ面になるのも理解いただけたのでは」


「それは、しょうがないわね」


「それが処女作ならいいのですよ。初めて書く小説なら好きな作品を模倣したりするのはよくあることですから。ですが、その作品の作者は何作も――」


「ストーップ! それはダメ! それ以上は本気で怒られる!」


 鬼気迫る表情と大声に体がびくりと縦に揺れる。

 つい感情が高ぶってしまい、取り返しのつかないことを口走るところだった。


「すみません、助かりました。あれですよ、ほら、いっぱい書籍化している偉大なる先生に(ひが)んだのであって、羨ましさが爆発してしまった結果のひねくれた意見ですから」


「そうよねー。うんうん、(ねた)み僻みはしょうがないよねー」


「ですよねー」


「「はっはっはっはっ」」


「でも案外、あんたの作品も似たようなことを読者から思われていたりしてね。どれも初めの発想が変なだけで、中だるみして飽きるとか」


「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ」


「ご、ごめん! 光りの消えた目で虚空を見つめながら笑い続けないで! 怖いから! ねえ怖いからやめて!」


「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ」


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