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なうろう作家とメガミ様  作者: 昼熊


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書き手は必見 高ポイントの取り方

「明けましておめでとうございます。おせちはまだ~」


「はい、明けましておめでとうございます。お餅はいくつ入れますか?」


 神の世界も正月は休みなのか? 

 いつも通り、こたつの定位置で元日から当たり前のように、みかんを食べている天聖子さんを眺めながら小首を傾げる。


「こたつでとろけてないで、おせち運んでください」


「あっ、おせち買ったんだ?」


「いえ、作りましたよ」


 こたつから渋々出てきた天聖子さんが眉根を寄せて重箱を受け取っている。

 不意にすっぱい梅干を口に放り込まれたような顔しているな。


「えっ、お手製? わざわざ、おせち作ったの?」


「あー、本格的なものじゃないですよ。好きなものを放り込んだだけなので」


「そうなんだ。でもおせちって意味があったよね。黒豆は健康で数の子は子宝とか」


「よくご存じで。まあ、そういうのも大切だとは思うのですが、年始ぐらいは好きなものを食べたいじゃないですか。その方が本気で正月を楽しめると思うのですよ」


 本来のおせち料理も嫌いじゃないのだが、毎年同じ品目を食べ続けているとさすがに飽きてくるので、一人暮らしを始めてからは好きな食材だけをまとめた、なんちゃっておせちを作ることにしている。


「その考えいいわね。私もその方が嬉しいかな」


 賛同していただけたようだ。


「お餅もう少ししたら焼けますから、少し待っていてくださいね」


「あいよー、餅は三つねー。あっ、ふた開けて中見てもいい?」


「どうぞどうぞ」


 三つも食べるのか。そういや、父親は毎年必ず四つは食べていたな。懐かしい。


「おおおっ、結構豪勢ね。数の子と栗きんとんは入っているんだ」


「それは純粋に好きなので」


「ローストビーフ、ハム、エビもあるけど焼いてるわねこれ。更にチーズとか、ほんと好きなもの放り込んでるのね。まるで……なうろうの小説みたい」


 変な例えを口にした天聖子さんに視線を向けると、ドヤ顔でこっちを見ている。

 当人は上手く例えたつもりのようだ。


「もしかして、全然なうろうについて触れてないので、強引にそっちへ話を持って行ってくれたのですか?」


「うん。ここって、そういうのに触れる芸風よね」


「芸風って……まるで無機物転生芸人と思われている節がある、某作家みたいじゃないですか」


「あー、もう無機物転生しか期待されていない感があるわよね、あの人」


 誰のことを指しているのか理解したようで、天聖子さんが大きく頷いている。

 一度ついたイメージはそう簡単に拭えるものではないし、そもそもその作家は一度じゃなく二度やっているので、そう思われてもしょうがない。


「でさ、今回のタイトルなんだけど『書き手は必見 高ポイントの取り方』ってあるよね。期待して見ている書き手の人は、そろそろイライラしてないかな」


「おっと、そうでしたね。では、簡単にポイントを取る方法、その一。このようにタイトルで釣る」


 餅をオーブントースターに並べながら言うと、天聖子さんが半眼でこっちを見ている。

 なんという冷たい目だ。


「題名やタイトルが大事って話ですよ。これは以前にも触れているのでご存じでしょう」


「あの『サラリーマンの不死戯なダンジョン』の一件ね。実際、あれでポイントがかなり増えたのよね」


「そうそう、あれです。復習になりますが、題名をつけるときのポイントはなんでしょうか?」


「カッコイイ題名をつける!」


「……まったく覚えていないでしょ。あと、栗きんとんだけを食べるのやめてください」


 栗だけをほじくり出さない。まあ、対策として栗きんとんは大量に作って、タッパーに入れているのだけど。


「なうろうにおいて、題名の重要なポイントは内容がある程度伝わることです。長いタイトルは嫌いでもっとシンプルな題名が好き。という人はいるでしょうが、何万もの作品が溢れている『小説家になうろう』では、そんなタイトルつけても、誰の目にも止まらず埋もれていくだけですよ。どれだけ内容が面白くても、まずは読んでもらわなければ始まりません。タイトルだけをずらっと並べてみて、英語の単語だけやカタカナ表記のタイトルがあっても、内容は全く伝わらないですから」


 ごくまれに成功例もあるが、ここでは一般的な人気が出やすい方法を重要視していこう。


「そういうこと言ってたね。それと、あらすじが大切だったっけ?」


「そうですね。あらすじと一話で読者を掴めないと、逃げられちゃいますから」


 個人的に一番やってはいけない展開だと思うのは、序盤に説明をぶち込み更に登場人物を大量に出す。

 ただ、市販されている小説で、序盤に説明を何ページにも渡って書き込んでいる作品は存在する。それでも人気作は存在するのだが、それと『小説家になうろう』をごちゃ混ぜにして考えてはいけない。

 読者の求めているものが違うからだ。

 漫画雑誌だってジャ〇プ、マガジ〇、サ〇デーでは好まれる作風が違う。各社の看板作品が別の雑誌で連載をしていたら打ち切られていた可能性だってある。

 どんな場所であっても、少数ではあるが人とは違うものを求めている人がいるのも確かだ。

 ここではポイントを得る方法に触れているので、大多数に好まれる話となると需要を真剣に考えないといけない。

 書きたいものを書いてポイントを得る。これができれば最高なのだろうが、最低限のポイントだけでも押さえておくべき……じゃないかなと、個人的には思っている。


「題名とあらすじが大事なのは思い出したけど、肝心なのは内容よね」


「そうですね。人を引き付ける題名とあらすじが書けたとしても、内容が面白くなければ伸びません」


「そこで大切になってくるのが流行りのジャンルね! あっ、ハム美味しい」


 おっ、わかってきているじゃないか。ここまで何度も話をしてきたかいがあった。あとは食べながら話すのを止めてほしい。


「って、今は何が流行っているの?」


「う、うーん、ちょっとよくわからないのですよ。転生転移が減って現地人が増えてきているのは確かなのですが……これが定着するかどうかも、ちょっと怪しいのですよ」


「そうなの?」


「なうろうって流行りが定着しないで、過ぎ去ることが多々あります。そもそも、流行る時の流れって、とびぬけて人気が出た作品が現れ、それに続くように似たような作品が大量に発生するのです」


 そこまでの説明を聞いて、天聖子さんが腕組をして唸っている。

 納得しているような、そうでもないような複雑な表情だ。


「例えばとある有名な骸骨が主人公のアニメが流行った年は人外転生の作品が大量に出てきましたからね。骸骨が主役の作品もそりゃわんさかと」


「でも、以前から人外転生って結構あったような?」


「確かに。でも、あれ以後に人外転生ブームが来たのは確かですよ。それ以前から累計ランキング上位に居座っていた人外転生作品ももちろん存在しますので、そこは勘違いされないように」


「でもさー、そんなに人外転生って増えてる?」


「増えてますよー。その後、蜘蛛の人外転生が流行って、またもブームを巻き起こしましたので、数年前と比べたら一気に増えました……それも、奇妙な転生先が」


「あっ、そうね。前までなら、魔法、エルフ、竜、ゴブリン、動物、魔物というのが定番だったけど、人と違うものを求めてなんでもありになりつつあるわよね、ふぅ」


 ため息交じりに何故こっちをじっと見つめているのだろうか。

 そう言えば、私の知り合いのヌーンベアーさんは、自動販売機という頭のおかしい転生先を選んでいたな。きっと変な人なのだろう。


「人外転生の作品数もそうですが、転生先の種類も増えすぎて、もうなんでもありの状態ですからね。確かまとめた資料がここら辺に……あったあった」


 ノートPC付近に置いていた紙を天聖子さんに渡すと、お餅の状態を確認するために戻る。


「これねー。こんなの調べていたんだ。えーと、何々……順位の高いのはスライム、蜘蛛、人狼、魔王いっぱい、骸骨スケルトン(いっぱい)、ドラゴンの卵、骸骨騎士、キツネ、鬼、エルフ、邪神、剣、ゴブリン(いっぱい)、自動販売機、地龍、白猫、魔族、ドラゴン(いっぱい)、悪魔……まだあるのね。【その他】ツボ、指輪、ゴーヤ、毛玉、畑、オーク、ブラックバス、シャチ、うさぎ、ダークエルフ、寄生生物、フェレット、草、獣人、ヤドカリ、触手、カカシ、パグ(犬)、薬草、ゴーレム、植物、たぬき、キノコ、うじむし、蛇、呪いの人形、燕、カブトムシ、イモムシ、パンツ、鎧型魔物、卵、エアコン、杖、飛行機、ヒトダマ、神獣、布の防具、巨人族、枕、亀、犬、精霊、虎、鯉、正八面体、オオサンショウウオ、掃除機、等」


 読み切った天聖子さんは疲れたようで、こたつの天板に顎を載せながら伊達巻を次から次へと口へ放り込んでいる。


「ナニコレ。これだけやられると、新規ネタはもうないわよね」


「いやー、あるにはあるのですが、残されたもので面白い作品が書けるかと言われると、難しいかもしれません。なうろう外も含めると、かなり厳しいことになりますし、まだ全部調べたわけじゃないですから」


「でもさー、別に被ったっていいわけでしょ。ドラゴンとか骨とか魔王とかは山ほどあるんだし」


「山ほどはないです。ですが、確かに被ったらダメってことはないですね。ただね、被っている作品は定番化しているので許されますし、魔王とかドラゴンだとさまになります。ですが、畑に転生する話が幾つも被ったら変でしょ。個人的にはむしろ見てみたいぐらいですが」


 奇抜な転生先は奇抜であるが故に重なると人の目につきやすく、どうしても比べられる。手を出すには勇気が必要だ。


「うーん。じゃあ、もう人外転生は流行らないのかなー」


「それはわかりません。また突出した作品が現れたら、ブームが再燃するかもしれませんよ」


「じゃあさ、もしもの話だけど、人外転生を書くとしたらどんな題材にしたい?」


 俺に話を振ってきたのか。そうだな、今、この状況で人外転生ネタで勝負するなら――。


「天聖子さんを、おせちに転生させたいですかね……」


 半分以上も食べつくされたおせちを、じっと半眼で見つめながら呟くと、天聖子さんが三つ指ついて土下座をしていた。


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