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オリジナル転生

「それでさー、上司(創造神)って無駄に長生きしているでしょ。昔は真面目一辺倒だったらしいんだけど、今はただ暇をつぶすだけの余生を過ごしているってわけよ。で、上司ってここ数十年ぐらい小説にはまっちゃって。それでね、ちょうど転生課や転移課があることを思い出して、部下に「ちょっと、転生とか転移したやつらのレポートだせや。面白かったら昇進させてやるぞ」ってな具合になったわけよ」


 すみませんが、寝転びながら俺のポテチを食って、油で汚れた手を絨毯になすりつけるのをやめてもらえませんかね。

 見た目は黒髪で前髪が揃えられていて、日本人形のような美しさがあるというのに、言動がな……。


「経緯はわかりました。それで、俺は何に転生すればいいかのアドバイスでいいのですか。目神様」


「あっと、女神なんて呼ぶのやめてやめて。まだ見習いだからね。天聖子よ、気軽に聖子ちゃんでもいいわよ」


「それは、別の人を連想させるのでやめておきます、天聖子さん」


「えーー、ちゃんづけじゃないんだ。ま、いっか。でね、何に転生するかも大切だけど、まずは死に方だと思うのよ。やっぱり、インパクトのある死に方じゃないと一話切りされちゃうし」


 あー、そういう考えか。俺も昔はそうだったが、今は考えが真逆と言ってもいい。


「いや、死に方はどうでもいいですよ。何なら死んだ時の描写は無い方が、話を盛り上げやすいです」


「えー、それは違うんじゃないかな。ほら、変わった死に方だと目につくでしょ。それに意味ありげな死を演出することによって、ストーリーに重みが」


「言いたいことはわかるのですが、インパクトのある死に方……例えば、間違えて女子トイレに入ってしまい、慌てて個室に逃げ込んだところに飛行機が墜落してきて、死んだとしましょう」


「おー、いい導入ね! それでそれで!」


 あ、食いついてきた。そんなに面白そうかなこれ。

 今適当に思いついただけなんだが。


「で、そうして死んだとして、これが今後のストーリーにいかされますか?」


「ふへっ? え、えーと、別に死んだ時が盛り上がればいいんじゃ」


「こんなギャグみたいな死に方をしたら、本編を真面目にできませんよ。ずっとギャグっぽいストーリーで通さないと、読者が離れていくだけです。それに惹きつけられた人は、ギャグを求めている読者です。シリアスな展開に持っていったら鼻で笑われてしまいます」


 目を見開いて驚いているな。

 小説書いていたら普通にわかるようなことなんだけど、この人たちは転生者の実生活を書いているだけなので、そういう発想にならなかったのか。


「じゃ、じゃあ、謎の人物に殺されてとか、因縁のある相手に殺されて、死の謎を抱いたまま――」


「シリアスな作品としてはありだと思いますが、その後、その相手は出てくるのですか? それとも、全く関わらないで話が進むだけなら、そんな導入いりませんよね。伏線をいかせるならいいのですよ。例えば、殺された記憶があり、争いごとに異常な恐怖心を覚えるとか。刃物が苦手だとか。実は殺した相手も転生していて、復讐劇が始まる展開もありですよね」


「うっ、ま、まあ、そうかな……」


 偉そうなことを口にしているが、今の事は全て昔の自分に聞かせたい言葉だ。

 何となく意味ありげな死に方をさせておけば、シリアスっぽく見えるし、後で伏線として適当に話を作ればいいと考えていました。はい。

 でも、テンプレ展開を書いていたら途中でストーリーにつまり、先に進まなくなって、序盤の死が全く意味不明な展開のまま、無理やり終わらせてしまった投稿作品が二作品ほどある。


「でも、それだと、ベストな死に方って何なのよ」


「あくまで、あくまで、個人的な見解ですが。今までの内容も私の個人的な意見なので、実際はどうなのかは知りませんよ。苦情を言われても困りますので。あくまで個人的な」


「何で、そんなに強調しているのよ……」


「失礼しました。ええとですね、死んだところは描写をしないでいいと思うのですよ。いっそ、死の描写は無しでいくのが一番です。どうせなら、死んだ時の記憶を失っている設定にしておけば、後で意味深な台詞で思い出させてやれば、本編にもからめやすいですよ」


 記憶を失わせておけば、後々、そんな話をでっち上げることも可能になる。というのは、言い方が悪いか。話を広げやすくなる。

 本編がある程度進んでから、あ、この話を死んだ時の状況と絡めると、話が深くなるんじゃ? 何て閃きは、作者あるあるだと思う。初めに死に方を決めつけてしまうと、後で替えが利かなくなる。


 その点、記憶を失う設定は結構使いやすい。何かがあると「この感じ何処かで……」と意味深な台詞を吐かせることも可能となる。

 あと、ある程度昔の記憶を失っている設定だと、知り合いに会った時に「おいおい、俺だよ忘れたのか? ほら、冒険者成り立ての頃に一緒にチームを組んだ」とキャラ説明が楽になったりする便利な設定だ。


「むむむ、じゃあ、死に方は別にいっか……」


 天聖子さんは神に近い存在で、人の死に関してあまり思うところが無いのだろう。

 俺としては、人の死で遊んで欲しくないという思いが強い。さっきの説明も本音ではあるが、死を都合でいじって欲しくないから誘導したというのもある。


「となると、何に転生すればいいかだよね。これが、いっつも悩むのよ。やっぱり、オリジナルの転生がいいわよね。誰もやったことのない転生!」


 力が入っていたのだろう。握りしめた拳の中でポテトチップスが粉砕されている。


「ちなみに、今までの転生先は?」


「まあ、王族、貴族、平民、領主、奴隷、達人の息子、ああ、賢者のま」


「あ、そこまでで。その転生の基準はランダムなのですか?」


「そうね。でも、ムカつくやつだったら、低ランクのところに放り込まれる可能性が高いわ!」


 ……転生課職員の心一つなのか……もし、転生する機会があれば丁寧に接することを心掛けよう。


「人間に転生はもう殆どやり尽くされた感がありますね。ちなみに、人間以外だと?」


「竜人とか獣人とか……エルフもやったわ」


「そこら辺も出尽くしていますよね。もっと変わった転生は?」


「ボウフラぐらいかな」


「それは小説にして投稿したのですか?」


「したわよ。それがね、驚くほど序盤伸びて、コメントもいっぱいもらったんだけど……」


「おお、凄いじゃないですか。それでそれで」


 じっと俺を見つめていた瞳が横に逸れた。

 それだけではなく、油まみれの指が胸前で合わさり、忙しなく動いている。言いたくなさそうだな。


「うんまあ、強いボウフラでしょ。水の中で昆虫無双している間は良かったんだけど、最終的に蚊になって、調子に乗った転生者が人間の血を吸おうとして潰されて、完」


 何か、色々と惜しい設定だな。

 俺なら血を吸うことにより、相手の能力を少し奪える強奪系と呼ばれるスキルを与え、更に進化していくストーリーにするんだが。


「オリジナルにこだわるのなら、少し変わった転生先を考えてみましょうか。どんなのが思いつきます?」


「そうね、じゃあ、ゴブリンとか」

「既にありますし、人気もあります」


「うーん、スライムは」

「あります。ランキング上位ですよ」


「ラスボスの魔王とか新しくない?」

「定番中の定番ですよ、それ」


「じゃあ、芋虫とか」

「あります」


「む、なら、生き物じゃなくて思い切って武器とか」

「あります」


「じゃ、もう、木の棒はどうよ!」

「あります」


「何であるのよ!」


 俺に怒られても。

 『なうろう』には何十万もの作品がある。誰もがアイデアを捻り出し、面白い作品を書こうと必死なのだ。全くネタが被らない作品は存在しないだろう。

 しかし、天聖子さんは他作品を殆ど読んでいないみたいだ。なうろうの知識が少なすぎる。その程度の認識で……何で俺の事を知ったのだろう。自慢じゃないが、俺の作者のしての知名度は殆どない。

 累計ランキング800位以内に入ってはいるがギリギリのラインだ。熱心なファンの方もいるが、それ以外の人は俺の作者名を覚えている人もいない筈。だというのに……これは、回収されない伏線臭がするな。


「じゃあ、何があるのよ。こうなったら石にでも転生――」


「それが、あるのですよ」


「うそ……でしょ……」


 わかる、わかるよ、その気持ち。異世界転生物を考えた時に、内容が被らないよう事前に調べて驚愕したから。


「いっその事、地面に転生ってどうかしら……」


 声から元気が失われている。

 地面転生は見たことないような、一応調べてみるか。

 調べた感じでは見当たらないな。これだけの作品が乱立していても、まだ触れられていない転生先があるのか。


「天聖子さん。地面転生ありませんよ」


「やった、これで完全オリジナルの展開で始められるわ! ありがとう、助かった! テレビの方は繋がるようにしておいたから。じゃあね!」


「え、いや、ちょっ」


 あっ、目の前で光に包まれた天聖子さんが消えた。

 いつもの俺しかいない部屋だな……何だろう、未だに実感が湧かない。

 俺は転生を担当する神見習いと話をして、小説のアドバイスをした。

 誰も信じないよな、こんな話。

 でも、あれは嘘じゃない。夢でもなく、実際に俺が遭遇した本当の出来事。


 それを確かめる方法はある。そう、テレビだ。

 実際に異世界転生をした人の映像がリアルタイムで見れるらしい。

 ええと、リモコンリモコンは……あった。でも何チャンネルかな。順番に見ていったらわかるか。っと、あれ、リモコンに大きなボタンが追加されているぞ。

 何々――『異世界生放送』とあるな。わかりやすくて助かる。

 異世界の映像から、実際の生活、魔物や魔法を学び吸収する。そのことによって、作品の幅が広がるのは間違いない。これは、日刊どころか累計上位も夢じゃないかもしれない。

 転生に選ばれたのではなかったのは非常に残念だが、異世界の映像をこの目で確かめられるだけでも、かなり恵まれたことだ。


「よっし、じゃあ、見てみますか。異世界の映像を!」


 テレビをつけ、異世界生放送のボタンを押す。

 画面に広がるのは――ぬるっとした赤黒い世界だった。


「えっ?」


 何だこれ……暗くてわかりにくいが、赤い肉のようなものが見えるな。それにこれは液体だろうか。肉のようなもので覆われた水の中にいるのか。

 これって確か、転生者の目線がそのまま映像化されているのだったよな。

 もしかして、巨大なモンスターに転生者が食われた場面なのか!?

 おいおい、初異世界映像が胃の中とかやめてくれよ! いきなりグロ画像とか勘弁してください!


「何で、抵抗しないんだよ。少しは暴れるなりなんなりしろよ!」


 テレビに怒鳴ってみたが聞こえるわけもなく、何も変化が無いまま……一時間が過ぎた。

 特に何もない。溶かされているのかと思ったが、そんな様子もない。ただ、肉の壁らしきものが映っているだけだ。


「これって、もしかして……母体の中か。てことは、転生者は胎児かいっ!」


 俺が異世界の光景をこの目で確かめるには、まだ数か月の時間が必要なようだ。

 詐欺……ではないが、何だろうこのお預け状態は。

 ま、まあ、楽しみができたと思っておくか。

 しかし、天聖子さん。オリジナルの転生はいいとしても……地面に転生した作品が面白いとは思えないんだけどな。

 俺の呟きは誰に聞かれることもなく、急に静かになった部屋に虚しく響いていた。

この物語はフィクションであり……以下略

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