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なうろう作家とメガミ様  作者: 昼熊


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19/39

小説の書き方

「最近ネガティブな話が多いので、今日はポジティブな話をしようと思います」


 誰もいない筈のこたつの中に向かって語りかける。

 これだけだと頭のおかしい人だが、俺には確信めいた自信があった。


「なんでわかったの……」


 そう言ってこたつの中から、ひょっこりと顔を出したのは天聖子さん。

 最近では何処からどのタイミングでやってくるかわかるようになってきた。人は進化するものだと実感したよ。


「なんとなくですかね」


「もしかして気配察知スキルとか習得しているんじゃ」


 そんな不審人物を見るような目をしない。

 もし知らぬ間に覚えていたとしても、天聖子さん限定の気配察知スキルなんて使い道のない無駄スキルだ。


「で、ポジティブな話ってなあに?」


 剥いたミカンに指を突っ込んで遊ぶのは行儀悪いよ。


「ミカンの指輪~」


 無邪気な子供か。ちょっとだけ可愛いと思ってしまったので、負けた気がする。


「ええとですね、今日は小説の書き方、カッコ我流カッコ閉じる、の話でもしようかと」


「あー、いいわねそれ。私もいまいち書き方ってよくわからないのよ。参考にさせてもらうわ」


「参考にはならないと思いますよ。所詮は我流ですから。おまけに気持ち悪い自分語り入りますから、苦手な人はここで戻ってくださいね」


「でもまあ、一応」


 メモ帳を取り出して、真面目に聞いてくれるようだ。

 ミカンを大量消費しながら話半分で聞いてくれた方が、気が楽なんだけどな。


「では、これは本当に私なりの書き方なので、おそらく誰の参考にもならないと思います。それを踏まえたうえでお願いします。ためになる文章の書き方とかは全く触れませんよ。そもそも、人に胸を張れるほどの文章力ありませんから」


「それは私に話しかけているのか、またいつものどこか別次元の人に向けているのか、判断が難しいわね」


 両方だけどね。こんな風に小説を書く人もいるのだと、小馬鹿にするぐらいで丁度いい。


「まず、私は小説の書き方について本格的に学んだことは一度もありません」


「……どういうこと?」


「ほら、小説を書くための専門学校やら、参考書というか手引書みたいなのありますよね」


「あー、大学ではライトノベル科があったり、現役ラノベ作家の講師が来て教えたりするところがあるみたいね」


 そうそう。一応言っておくと、そういうところで学ぶことを非難するわけでも、無駄だという気もない。基礎を学んでおくことがマイナスにはならないだろうから。

 正直、好きなラノベ作家さんが教えてくれるなら、話だけでも聞いてみたいと思っているぐらいだ。


「私はそういうのとは全く無縁ですからね。それどころか、小説の基本ルールも危ういですよ。文法とか5W1Hとかもね」


「その5W1Hって何? たまに目にすることあるけど」


「いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、なにを(What)、なぜ(Why)、どのように(How)ということです。このことを頭に置いて、小説を書いた方がいい……らしいですよ?」


「らしいって……」


「実際、小説を書いていて、これを参考にしたことが一度たりともないので。それに文法とか倒置法とか、一応意味はわかっているつもりですけど、結構怪しいところがあります」


「えーーー、小説書いてお金を得ている人とは思えない発言よね」


「ごもっとも。漢字も読むのはある程度自信がありますが、書く方はあまり……パソコンって素晴らしい」


 文明万歳だ。たぶん、手書きの時代に生まれていたら俺は小説家になれなかった。字も汚いから、サインとか苦手だったりするし。


「じゃあ、どうやって小説書いているの?」


「自分が読みやすいと思う書き方や表現を使っているだけですよ。昔読んだ本を参考にして、自分が読みやすくわかりやすい文章を心がけてはいます」


「いや、それで小説書くのって難しくない? やっぱり、ちゃんとした知識が」


 天聖子さんの言い分は正論で間違っていない。あれば役立つだろうし、小説を書いていてもっと少し語彙力を鍛えておくべきだったなと思うことが多々ある。


「知識……と言っていいのかは微妙ですが、ちょっと昔話を聞いてください」


「う、うん、いいけど」


「我が家はお世辞にも裕福な家庭ではなく、尚且つ母が漫画やアニメが大嫌いだったので、娯楽が小説ぐらいしかなかったのですよ。子供が漫画も読めないアニメも見れない、家にあるおもちゃはブロックぐらい。暇な時間はどうしたらいいのか? 小説を読むか、ひたすらブロックを組み立てて崩すぐらいしか、することがなかったのです。学校の図書室で毎日本を借りて家で読んで、返却してはまた別の本を借りる。というのを小学一年からずっとやってました」


「それって漫画とかで見かける真面目キャラよね……」


「いえ、真面目じゃないですよ? 漫画の代わりになるような作品を求めていたので、海底二万里とかトムソーヤ、ファーブル昆虫記、シートン動物記、シャーロックホームズ、少年探偵団、わくわくするような内容の子供向けの本を毎日読み漁っていました。真面目な文学書は一度たりとも読んだことがありません!」


「胸張って言うことじゃないよね……娯楽がないなら勉強しようとか思わなかったの?」


「まったく、これっぽっちも」


「うわぁ……」


 普通なら娯楽がないなら勉強をしようとかなるのかもしれないが、勉強するぐらいなら本を読んだ方がいいという子供だったので、ひたすら本を読んでいた。

 子供向けの本というのは文字も少なく内容も分かりやすいのだが、何故か海外の作品を翻訳したものだけは子供向けなのに結構難しい表現があったりして、辞書を片手に読んでいたりもしたな、懐かしい。


「どれぐらい本を読んでいたの?」


「一日に一冊は読んでいたような。面白い作品で続きものは一日で五冊ぐらい読むこともざらでした。子供向けはすぐ読めるものが多かったですから」


「それっていつぐらいまで?」


「うーん、小学校での六年間はずっと本読んでいましたね。といっても、一応外でも遊んでいましたよ」


「その小説を読む時間を勉強に費やしていたら……」


「天聖子さん。読書家がみんな勉強できると思ったら大間違いですよ?」


 穏やかに微笑みながら語りかけたのに、何故か天聖子さんの頬が引きつっている。


「小学校の高学年ぐらいになると、サスペンスやショートショートにはまりましたね。一話完結で想像もしなかったオチのある小説には感動したものです。人はこんなにも面白い話が書けるのかと」


「わかるわかる。ショートショートの内容が全て面白い作家は、頭の中どうなっているのか見せてほしいぐらいよ」


 ほんと、俺が尊敬するショートショートの大家である先生には、一生どう足掻いても敵わないし、追いつけないだろう。比べることすらもおこがましいぐらいだ。


「さっき、小学生までと言っていたけど、中学生以降は?」


「中学生になるとライトノベルの存在を知りまして、ライトノベルを読んでいました。カバー外したら普通の小説に見えるので、母親の目も誤魔化せましたからね。漫画に飢えていた自分にとって、ライトノベルは神のような存在に思えたものです」


「それで、ライトノベル作家を目指したわけね」


「いえ、別に」


「えっ? この流れはそういうことじゃないの?」


「好きで読んでいただけですよ。ただ、子供の頃から本を読んでいると妄想力が鍛えられて、読んでいる最中に主人公になりきって、俺ならもっと考えて敵を倒す、俺ならヒロインにこう話しかけて、俺ならもっと上手くやってみせる……とラノベを読むたびに毎回妄想していました」


「痛い子だったのね……」


 失敬な。主人公が男性だと妄想がはかどりすぎて、読書スピードがかなり落ちていたなぁ。ページを開いたまま読み進めることなく、それまでの展開を頭でおさらいしながら、自分を主人公に置き換えて妄想して、三十分ぐらい時間が経過したことだってある。

 そもそも、お小遣いが少なかったのでラノベをそんなに買うことができなかったので、自分なりにそうやって小説を何度も楽しんでいたのかもしれない。

 あれ? ……痛い子という言葉に否定ができんぞ。


「でも、そのおかげで妄想力が鍛えられましたからね。こんな話があります……某有名な国民的RPGゲームが好きでして、子供の頃それを父が買ってくれたのはよかったのですが、私には兄がいたのですよ。ゲームをする権利は兄が一番というのが世の中のことわりですので、私はいつも兄がやるのを後ろで見ているだけでした。だが、そんな中でも兄は私にコントローラーを譲ってくれる時があったのです」


 テレビゲームも時間が決められていたから、一人でゲームをやる時間がほとんどなかったんだよな。


「おー、お兄さん優しいじゃないの」


「……雑魚敵を倒してレベル上げをするときだけ……レベル上げやっといて、ってね」


 あっ、天聖子さんが優しい目になって、こたつの天板の上に体を伸ばすと、俺の肩を優しく撫でるように叩く。

 どうやら同情して、俺を憐れんでいるようだ。どこのご家庭も弟の立場なんてこんなもんだ。それに、ただのレベル上げでも苦痛ではなかった。

 兄は俺がいない間もストーリーを進めていたので、途中の話が不明なので内容を勝手に妄想で補完しながら、レベル上げ中も敵との戦いを脳内で派手に描写して楽しんでいたな。


「まあ、つまりは妄想力を鍛えること。それが小説を書くための一番の近道かもしれません」


「小説なんて妄想の塊だもんね」


「あとは、何かしらのコンプレックスがある方がいいですね。リア充なら小説を読まなくても、もっと楽しいことが現実に山ほどあるでしょうから。現状に不満があるからこそ、妄想がはかどるわけです」


 コンプレックスはどんなものだっていい。他人からしてみれば、そんなことで悩むなよってことでも、当人にとっては重大なことだったりするのだから。

 普通に生きる分には家柄がよく、容姿も優れ、金に不自由していない、これが理想的な人生だろう。だが、小説を書くのならそういったものと無縁の方が、面白い作品を書けるのではないか……と勝手に思っている。いや、そうあって欲しいと願っている。


「つまり、貴方はコンプレックスの塊だと」


「はっはっは、何を仰っているのですか。この物語はフィクションですよ。実在する作家とは何の関係もありません。ましてや、ヌーンベアーさんの過去を語っているわけでもありません」


 そう、これは妄想力で書かれた架空の過去話であって、この作品を書いている作者の経験談ではないことを強調しておきたい。


「そういうことにしておくわ……妄想力ね。あれっ? 本当に文章についてのアドバイスとか一切なかったわね」


「それは原稿を出版社に提出して校正が……今は校閲といった方がわかりやすいでしょうか。赤字で添削され真っ赤になった原稿が返ってこなくなったら、文章に対して偉そうに語っても許されるかもしれません」


「最近、ドラマでやっていたもんね。校閲する人の話」


「ええ、でもまあ文章のことに少しだけ触れておきましょうか。文章の出だしは頭を一文字分空ける。三点リーダは一つではなく二つ繋げる。!? の後に文章を続けるときも一文字分空けるってことですね!」


「初歩の初歩だよね、それって」


「言い換えれば、その程度の知識でも書くことはできるということです。書きながら学べばいいのですよ。そして、初めて書いた小説を数年後に見直して、赤面するまでが基本的な流れです」


 まずは書いてみる、踏み出してみる。これが一番大切だ。

 書きあがった作品を読み返し、自分の文章力に絶望してから学んでも決して遅くはない。


「それを経験したのね」


「黙秘権を行使します。これを読んでいる皆さんも、一度小説を書いてみるのはどうでしょうか。そして、ポイントがもらえずに落ち込むまでがセットです」


「勧めたいのか、書かせたくないのかどっちよ」


「執筆の楽しみと苦しみを知ってもらいたい気持ちもあるのですが、これがきっかけで書き始めてプロの作家になられたりしたら、ライバルが増えるので嫌だなぁ、と」


「うわぁ……人としての器が極小……」


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― 新着の感想 ―
[良い点] とても参考になります。 そして、あなたは私ですかw?←第19「小説の書き方」を読んで
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