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なうろう作家とメガミ様  作者: 昼熊


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ジャンル

「あーなるほど、そうだったのか。勉強になるな」


 投稿した小説のコメントを見て、思わず声が漏れた。

 読者から指摘されるまで考えもしてなかったのだが、言われてみれば確かにその通りだ。


「そんなに感心して、どうしたの?」


 俺の肩越しにノートパソコンを覗き込んでいる女性――天聖子さんがいる。ほのかに漂う柑橘系の香りに思わず俺は……眉をひそめた。


「うちのミカンを何個食べました?」


「えっとぉー、山ほど?」


 小首を傾げて何を可愛い子ぶっているのやら。見慣れてなければ魅了されていたかもしれないが、日頃の言動と慣れのおかげでほんの少しだけ心が揺れる程度で済んだ。


「って、そんなことはどうでもいいのよ。パソコン睨んで何をうんうん、唸っていたのよ」


「あー、投稿している作品にコメントがありまして。この作品はジャンルが違うのではないかという、ご指摘ですね」


「それってどんな作品で、ジャンルは何にしていたの?」


「まず、ジャンルは「エッセイ その他」です。内容は、心優しく人気のあるweb作家の元に、美人だけど傍若無人な女性が現れ、流行のネット小説の考察をしたりして語り合うといった作品です」


「へえー、そんなの書いていたんだ。美人だけど傍若無人って、人気なさそうなキャラね」


「ソウデスネ」


 天聖子さんは転生転移物しかチェックしていないようなので、この作品の存在は知らないようだ。ここでの会話を元に描いている作品なので、バレると色々ヤバい。


「で、それってエッセイじゃダメなの?」


「基本的にエッセイというのは、自分の意見を語ることらしいので、自分の考えを作ったキャラに語らせてストーリーが存在すると、エッセイかどうかは怪しくなるみたいですね」


「へぇー、そうなんだ。でも、それってどうでもよくない? どうでもいいことのように思えるけど」


 俺も指摘された時はそう思ったのだが、調べている間に考えが少し変わった。


「いえ、ジャンル分けというのはとても大切なのですよ。特に投稿している【なうろう】ではジャンルごとにランキング分けがされていますので、ランキング上位にジャンルの違う作品が居座っていると悪い印象を与えますからね」


「まあ、ホラーランキング一位にコメディーがいたら……荒れそう」


「このジャンル分けって少し前にサイトの変更があって、ジャンル分けが細かくなって、全ての作品のジャンル設定をやり直さないといけなくなったじゃないですか」


「あー、あれね! よくわからないから放置していたら、読者から注意されたわ」


 天聖子さんも心当たりがあるようで、大きく頷く。

 自分はその日の内に変更したのだが、結構面倒だったのを覚えている。


「あれって、一作品しか上げてない人だと変更もささっと終わらせられるのですが、多くの作品を上げていると、意外と手間がかかるのですよ。他にも新たに入れなおさないといけない項目や、キーワードがありましたから」


 これは読者にはあまり関係ないことなのだが、作者は共感してくれるのではないだろうか。


「短編含めて十五作品も上げていると、ホントにね……」


「まだいいじゃないの。私たちなんて数多くの人を送って小説にしているから、幾つ訂正したと思っているのよ……はああぁぁぁぁ」


 当時の苦労を思い出したようで、天聖子さんが肩を落とし、魂が抜け出そうなぐらいのため息を吐いた。

 今までの話だと何百人も送っているようだから、訂正する苦労は俺の比じゃないな。


「それにさ、何であんなにしつこく「異世界転生のキーワード入れてませんよ」ってツッコミがくるのよ! どうでもいいじゃないのよ!」


 憤慨していらっしゃる。何百もジャンル分けした後にその指摘をされたら、イラッとするのはわからなくもないが、ルールはルールだから守らないといけない。


「まあ、キーワードに関してのツッコミは理由があるのですよ」


「理由?」


「ええ、キーワードには二種類ありまして、そのうちの【登録必須キーワード】というものがあります。R15、残酷な描写あり、ボーイズラブ、ガールズラブ、異世界転生、異世界転移の内、当てはまるキーワードを選ばないといけません」


「うん、それは知ってるわ」


 これは作者であれば誰もが一度は目を通しているが、読み専の人は【登録必須キーワード】の存在を知らない人も多いのではないだろうか。


「それで異世界転生か異世界転移に印を入れると、ランキングが別になるのです。ページのトップからランキングをクリックすると、ジャンル別日間ランキングがずらっと並びますよね」


「うんうん、ジャンル別のランキングトップ5がずらっと並んでいるわ。私もランキングチェックして面白そうなのがあると読んでいるから」


「そのランキングって下までずらしても、異世界転生と異世界転移のランキングが存在しないのです」


「えっ、そうだっけ」


 気づいてなかったのか。俺が操作してランキングのページを開いて実際に見せた。


「え、あるじゃないの。ハイファンタジーとローファンタジーに異世界転生、異世界転移ネタだとわかりやすい題名のが」


「それって、【登録必須キーワード】設定してないのですよ、異世界転生、異世界転移の。だからジャンル分けしたランキングに乗ることができる訳です」


「へーそうなんだ。って、じゃあ、キーワードに異世界転生とか入れた作品のジャンル別ランキングはどうなるの?」


「一番上にあるランキングという文字の隣に ◇ジャンル別◇総合◇異世界転生/転移 ってありますよね。その一番右端をクリックしないと現れません」


「……なんで、そんな面倒なことしてるの?」


「さあ、それは運営に聞いてもらわないと。ただ、勝手な憶測で良ければ話しますが」


「教えて教えて」


 天聖子さんは興味津々のようだが、今回の内容って読者には楽しくないような気がする。

 ここまで書いて消すのももったいないから、このまま突っ走ろう。


「あまりにも異世界転移、転生物が多すぎて人気のあるジャンルが限られていたので、新しい風を吹かせたかったのではないかと。もっとも、ワンクリックするだけで総合ランキングや異世界物のランキングがわかるのですが、そのワンクッションを面倒に感じる人が結構いるのではないでしょうか。もしくは気づいていない」


「前まではランキングクリックしたら、直ぐに総合日間ランキング出たよね。その癖でそのままランキング見る人もいるのかな。うーん、ってことは、初めのジャンル別ランキングに載りたいから、異世界転生、転移のキーワード入れない人がいるってことか」


 単純に入れるのを忘れている人も多いのだが、第三者目線だと「あいつ、わざと異世界転生キーワード入れないで、ランキングに載るつもりだ!」と思う人もいるようだ。


「でもさー、それって効果あるの? みんな、最終的には総合ランキング見て終わりじゃないのかな」


「普通そう思いますよね。では、ここにハイファンタジーとローファンタジーのトップ5の作品があります。題名を軽く覚えておいてください」


「ん、だいたいは覚えたわ」


「それでは総合日間ランキングのトップ5をご覧ください」


「……一個だけ恋愛ジャンルで、残りはハイとローファンタジーのランキングにいた作品ね……」


「次に異世界転生、異世界転移ジャンルランキングのトップ5を見てから総合ランキングのトップ10を見ると……8,9、10位に三つ並んでいます」


「で、でも、これってたまたま日間ランキングがそういう日だっただけじゃ」


 そう言うのはわかっていた。それに対する俺の答えはこうだ。


「週間ランキング、異世界転生転移ジャンルは3、8位だけで、ハイ、ローファンタジーは1、2、4、5、6、7、10位です」


「あう……」


 結果に驚いているようだが、実は話したことは嘘ではないが真実でもない。


「とまあ、じゃあ異世界転生、転移は必須キーワードで入れない方が、ランキング上位になるんじゃないかと思いませんでしたか?」


「う、うん。そういうことよね」


「実は、日間だと異世界転移、転生している作品が四作品だけなのですよ。あとは現地人の主人公。週間ランキングもそんな感じです」


「あれ? 今までのランキングって殆どが異世界転移、転生じゃなかった?」


「そうですね、その割合が多かったのですが、何故か最近は現地人主人公が巻き返しているようです。とうとう、転移転生ブームの終焉が近づいているのかもしれませんよ」


「へええ……って、そんなの困る! 異世界に人を送っている私たちの作品の人気が落ちるじゃないの! こんなことはしていられないわ! 仕事場に戻って対策を練らないと!」


 慌てて玄関から飛び出していった天聖子さん。

 開けっ放しの扉を閉めて、こたつの前に座り込む。

 異世界転移転生は根強い人気があるので、直ぐに廃れるということはないだろう。こういった流行廃りは、もう少し様子を見ないと判断が難しい。


「あっ、結局、あの作品のジャンルどうするか決めてなかったなぁ」


 エッセイのままでいくか、それともジャンルを変えるか悩んでいたのだが、この騒ぎでどうでもよくなってきた。

 こういう時は、丸投げするのもありかな。


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