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なうろう作家とメガミ様  作者: 昼熊


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主人公選び

「失敗した、失敗した、失敗した、失敗した、失敗した、失敗した、失敗した、失敗した!」


「有名な作品のパロは下手すると読者に冷められますし、万が一書籍化された際には、出版社のしがらみが発生する可能性もありますから危険ですよ?」


 昨日出したばかりのこたつの中から現れた天聖子さんを眺めながら、俺は冷静に返す。

 もちろん、さっきまで彼女は家の中にいなかった。


「それなら大丈夫、こんな場末のエッセイ風コメディーが出版される可能性は皆無だから」


「まあ、そうですね。これを書籍化しようとする出版社様がいらっしゃったら、神のように崇めるかもしれません」


「なんで、チラチラあらぬ方向を見ながら話しているの?」


 さあ、何故でしょう。もしも、出版するとなったら内容の書き直し九割超えるので、無理ですが、ええ、無理ですが。

 問題発言てんこ盛りなので、出版社は自分のところは後ろめたいことがないという証明にはなりますけど。

 いやまあ、それでも、出版したいという心の広い――


「心の声がウザい。って、そんなあり得ないことより、私の話を聞いてよ」


「宝くじの一等が当たるぐらいの確率はあると思うのですが……まあ、話を戻しましょうか。何を失敗したのですか?」


「主人公選びよ!」


 力を込め過ぎて手の中のミカンを潰すのやめてもらえませんかね。いつの間にこたつの上の籠からミカンを取ったとかは、聞くだけ無駄なのでしないけど。


「主人公選び?」


「異世界転生とか転移させた人で、小説にしたら読者にビックリするぐらい嫌われる人が多いのよ」


 ああ、それはわかる。特に、なうろうではコメントが誰でも書けるので――設定をいじっていなければ、ちょっと気に喰わないキャラがいたら批判がすぐに集まる。


「ちゃんと、人を選んで送ればいいのでは?」


「どんな人が嫌われるのか見抜けないのよ。異世界に送られる人って変な人が多いから、もう、何が正しくて何が悪いのかわからなくなって……」


 珍しく落ち込みながらミカンを消費している。

 これも立派な職業病なのかもしれない。


「じゃあ、なうろう限定ではありますが、どういった主人公が嫌われるのかアドバイスしましょうか?」


「えっ、わかるの! 是非、教えてくださいませ、先生!」


 今日はビックリするぐらい食いつきがいいな。手帳まで取り出してメモを取るつもりのようだ。真剣に悩んでいたのか。


「先生は止めてください、むず痒くなるので。ええと、これはあくまで個人的な考えなので、これを参考にして書いたのに人気が出なかったと言われても困ります」


「私以外にここを参考にする人なんて、いないでしょ。自殺志願者じゃあるまいし」


 酷い言われようだけど、反論ができない。


「さて、話を戻しましょう。まず、主人公として選んではいけないのは――モテまくりや金持ちのイケメン。つまりリア充は主人公にしてはいけません」


「えっ、でも、小説内でモテまくりのハーレム展開になるか、権力や地位を手に入れて、しゅごい、しゅごいですぅぅぅ、って言われるのが大半よね?」


「ああ、言い方が悪かったですね。異世界転生、転移前の主人公がリア充だとダメだって話です。転移転生後にモテまくるのはありです。むしろ、人気を取りたいのなら推奨します」


「んー、何が違うの? どうせモテるなら、初めからイケメンでリア充の方がコミュニケーション能力も高いから、モテるのも納得いくわよ? いじめられっ子や不細工やコミュ障がモテる方が変でしょ? 異世界での矛盾に突っ込む読者も、こういう主人公なら理にかなっていると納得してくれるよね」


 また答えにくい質問を。言いたいことが理解できるだけに言葉を選ばないと。


「ええとですね、元から幸せな人間が異世界でもっと幸せに暮らすより、弱い立場の人間がリア充になっていく過程の方が感情移入しやすいのです」


「あっ、小説を書いたり読んだりする人はリア充じゃないから、元からのリア充見たらイラつく法則ね!」


「わああああああああああああああああああっ! な、何を言っているのですか。え、ええーとですね、テレビだって芸能人の結婚式より不倫騒動の方が盛り上がるでしょ。人は本能として不幸な話の方を望むのですよ。だから掴みは不幸設定の方が好まれるのです。だから主人公が普通でも逆境スタートとかですね」


「だったら、ずっと不幸な展開でもいいじゃないの……」


「ずっと暗い話なんて誰が読みたいのですか……」


 我ながら何を言いたいのかわからなくなってきた。話を強引に戻そう。


「わかりやすい例を出すなら、骸骨の人も、女神連れていった人も、何度も死ぬ人も、転生転移前はリア充だったとは言えません」


「それって、なろう出身でアニ――」


「ストーップ! あくまで、架空のなうろうというサイトでの話なので、それを踏まえて発言してくださいね。ごほんっ、そのように一般的には転生転移前は不幸な方がうけるのです」


「じゃあ、不幸ってどの程度?」


 お、良い質問だ。そこは的確な答えを返しておきたい。


「そうですね、学生なら……モテない、いじめられっ子、引きこもり、不登校、女性恐怖症、幼馴染にイケメンがいて比べられる、コミュ障。まあ、このうちのどれかは必須でしょうか」


「必須なんだ……じゃあ、いっそのこと全部まとめたら」


「既にいますけどね。殆どが当てはまる主人公」


「あるんだ……凄いわね」


 それも、そういう設定の主人公が一人や二人じゃないところが面白い。

 なうろうの闇は思ったよりも深いのだ。


「それじゃあ、主人公が学生じゃない場合は?」


「ニート、ブラック企業、彼女無し、未婚ですかね」


「夢も希望もありゃしないわね。本当に初めからリア充な主人公っていないの?」


「いるにはいるのですが、あまりお勧めできません。ああ、そうです、学生であろうが社会人であろうが、一つ共通して与えておく特徴があります」


「何、何、それ教えて!」


「童貞」


「……えっ?」


「女性主人公、ヒロインは処女」


「……ん?」


「ちなみに男性向けである作品限定ですが。女性はあまり気にしていないようなので」


「ええと、でも、異世界に行ったらやりまくりだよ?」


 それは言われると思った。そろそろ、言葉を濁さずにハッキリ言った方がいいか。


「まあ、つまり転生転移前は自分に似た特徴を一つは持つ主人公。転生転移後は自分の欲望を満たす主人公を好むという訳です。まあ架空のなうろうというサイトでの話ですが! 実際の【小説家になろう】の世界ではどうなのかは知りませんがっ」


「あ、はい」


「とまあ、極論を口にしましたが、そういった作品を毛嫌いする人も、もちろんいらっしゃいますので、ニッチな読者層を狙うというのもありです。最近では奴隷を買うという定番のパターンも少なくなっているそうですよ。今も根強い奴隷人気はあるみたいですが」


「あ、そうなんだ。昔はランキング上位に目を通したら、必ず何作品かは奴隷を買うか強奪していたのに」


「流行廃りがありますからね。特にこのサイトは読者の声が直接届くので、読者が何を好み何を嫌うのか勉強になりますよ」


 ポイントが伸びない人は、ランキング上位のコメント欄を覗いてみると結構参考になったりするのでお勧め。

 ですが、心の弱い方だと飛び交う罵倒に怖気づき、自分の作品が書けなくなる恐れもあるので、ご注意ください。

 あと、コメントで批判が多くても、コメントをしていないもっと多くの人が好んでいるから、その作品はポイントが高いという事実も踏まえておきましょう。


「でもさ、日刊ランキング上位の作品のコメントって、罵詈雑言が多いってイメージがあるわよ」


「それは否定しません。人の目につくと批判が増えるのが世の習わしですので。矛盾した設定があると鬼の首を取ったかのように叩かれますよ……架空の話ですが」


「そうよね、架空の話よね。じゃあ、架空の話としてランキング上位になる方法って何があると思う? 主人公以外の要因で」


 また難しい質問を。それがわかるなら苦労しないが、まあ、フィクション世界の話なので、勝手な考察を口にしても何の問題もないだろう。


「そうですね。数か月以内に飛びぬけて人気の出た、月間や四半期ランキング上位の作品を読んで、それをパク……オマージュ……参考にしてアレンジを加え、書くことでしょうか」


「えっと、それだと元の作品より面白くなくて人気が出ないような」


「それは一概には言えないのですよ。二次創作の方が本編より面白い作品ってありませんか? 原作より面白いアニメとか同人とか」


「あ、うーん、ええと」


「一つ前の話や、以前テンプレについて話したことがありましたよね。予め世界観や道筋が出来上がっていると、楽なのですよ。多くの作品は異世界なのに既存のモンスターや武具や設定をみんなでパクって使いまわしている訳です。言い方は悪いですが」


「なんとなくわかるかも」


「で、ランキング上位の面白いアイデアやキャラを参考にアレンジを加えると、アイデアを練る努力や発想力を必要とせず、アレンジに集中できるので美味しいとこ取りができて、元作品より面白い作品が稀にできたりします……まあ、アレンジに失敗して目も当てられないことになる作品もあるのですが……」


「あーえーと、大丈夫なのかな今回の話……」


「何を仰っているのですか、架空の話ですよ架空の。小説だけじゃなく漫画でも、あれ、この作品どっかで見たことあるようなというデジャブを――」


「も、もうやめた方が」


「失礼しました。妙に盛り上がってしまいました。面白いアレンジができる人も、それはそれで立派な才能なのですけどね」


 こういう話はつい盛り上がってしまう。架空の世界だから許される発言だが、公の場では言えないことばかりだ。


「つまり、異世界転生転移させる人材はリア充ではないこと。そういうことね」


「はい。ですが、全く逆の要素で主人公を書いてみるというのも面白そうではありますね。リア充でチャラくて、イケメンだが髪は金髪、耳と唇にピアス。三股をかけていて美人の許嫁がいる。大企業の三代目社長の高校生」


「うわぁ……男性読者に絶対人気でないよね、このキャラ。でも、今日は勉強になったわ。今後、異世界に人を飛ばす時に参考にさせてもらうね。非リア充でモテなそうな主人公か……あっ」


 なんで天聖子さんは、俺をじっと見ているのでしょうか。

 特に深い意味はないと思うけど、手元のメモ帳と俺を交互に見ながら確認するのを止めてもらえませんかね。


あくまで架空の話ですよ?

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