題名変更の効果と流行のジャンル
「そういえば、題名変更をした作品って、どうなったの?」
バスタオルを巻いただけの格好で天聖子さんが、そんなことを口にした。
ご飯どころか、勝手に入浴剤を浴槽にぶち込んで、一番風呂に入ったことは追求した方がいいのだろうか。
「日に日に図々しくなっていきますね」
「もう、本当は、ぐへへへ、あの天聖子さんのエキスが滲み出た風呂に入れるぜええ。とか思っているのでしょ。今回は特別に残り湯を好きにしていいわよ」
「天聖子さんの中で、俺はどんなキャラ設定になっているのですか」
一応女神候補で、そんじょそこらのアイドルや女優なんて太刀打ちできない容姿なのは認めよう。スタイルも着痩せするんだなと感心するぐらい、凹凸が凄い。
だが、何と言うか性的魅力を殆ど感じない。日頃の言動って大切だよな。
「もう、厭らしい目でじろじろ見て。女神と人間でそういうのはご法度なのよっ。でも、いつもご飯頂いているし……仕方ないわね、この姿を目に焼き付けて、今晩は私をおかずにしていいわよ!」
頬に手を当てて体をくねらせているな。普通ならそんな動きをしたら、バスタオルが解けるなり、裾が翻って大事なところが見えたりするものなのだが謎の重力が働いているようだ。ちっ。
「そんなオヤジギャグはどうでもいいので、早く着替えてください。風邪ひきますよ」
「そ、そう? じゃあ、着替えるね……」
何でそっちが残念そうなんだ。こっちが変な気持ちになる前に、早く何とかしてほしい。
「よっし、いいわよ」
「えっ、一秒も経っていません……何ですか、その格好」
「風呂上がりにスーツってのも変でしょ。なので、いつも着ているパジャマにしたわ」
ウサギの着ぐるみのようなパジャマを着込んでいる。ふかふかしている材質のようで、温かそうだ。完全にくつろぐつもりか。
「でよ! 題名の件はどうなったの?」
「そういや、そういう話でしたね。では、結果を伝えますと一気に伸びました。効果は目に見えてありましたよ」
「へえええっ、そうなんだ! ええと、元の題名が『終わらない隣人トラブルを越えて 死の遊戯王で勝負しろ』だったっけ?」
「何ですか、その物騒なご近所トラブルは。『終わらない輪廻を超えて 死の遊戯を制覇しろ』ですよ。それを読者から応募いただいた『サラリーマンの不死戯なダンジョン』に変更しました」
「その題名になったんだ。うんうん、つい、覗いてみたくなるような良い題名ね」
前の題名も悪くはないと今でも思っているが、冷静に見比べると変更後の方が受けが良さそうだということがわかる。前の題名は堅苦しいというか、内容がわかりにくいし、漢字が多すぎるので目が滑るんだよな。
「で、どのくらい効果があったかと言いますと日間ランキング圏外から91→74→60→46→39→25→22位までいきましたからね。アクセス数も3000から最大10万までいきましたよ。ポイントで言うなら3000ちょいで伸び悩んでいたのが、今は13000ポイント越えています」
「うおおおおぅ、凄いじゃないの! 内容は全く同じなのよね?」
「内容の変更はしていません。題名を変えただけで、ここまで伸びました。本当に、今回の一件は良い勉強になりました。題名を考えて選んでくださった読者の皆様には、感謝の言葉しかありませんよ」
実際の話、題名変更で少しでも伸びたらいいな、程度の目論見だったのだが、予想外の結果となった。
「ふえええ、やっぱり題名って重要なのね」
「そうですね。内容ももちろん大切なのですが、どんなに中身に自信があっても読んでもらわなければ始まりません。わかりやすく、なうろうの読者が好みそうなキーワードが入っていると効果的なようです。あと語感でしょうか」
今回の題名で例えるなら、サラリーマン と ダンジョン。この二つが大切だと思う。それに加え不死戯という造語も目を引く。とまあ、偉そうなことを語っているが、俺の考えた題名ではないけどな!
「となると、内容には自信があるけど伸び悩んでいる作者の人は、題名変更を本気で考えた方が良さそうよね。私も勉強になったわ」
天聖子さんが大袈裟に頭を上下に振るので、ウサギの耳がぺちぺち顔に当たっている。ちょっと萌えてしまいそうになった。
真面目な話、題名がかなり重要だということがわかってもらえたと思う。ポイントが増えないから、急にハーレムやチート系を盛り込むより、題名の変更の方が効果的だろう。
「ぶっちゃけると、題名とあらすじで読者を掴み、序盤がそれなりに面白ければ読者とポイントは増えます。伸びてから面白くもない展開になったとしても、ポイントが減ることは殆どないので」
「思い付きだけで書き始めた感じの作品って多いわよね。特に最近流行の楽してレベルアップ系は、見ていてうんざりするレベルよ」
「ああ、寝ているだけとか、授業出ているだけとか、歩くだけとかで強くなる系の作品ですか」
「そう、それそれ! どんだけお前ら異世界舐めてんだ! って怒鳴りつけたくなるレベルよ。何処まで苦労したくない輩ばかりなのよ」
おぅ、天聖子さんが憤慨していらっしゃる。
実際に転生者を送り込む業務をしている身としては、ああいった甘い考えの人を見ていると腹立たしいようだ。
「でもですね、実はあれって初めからチートもらえたり、高レベルから始まる系バージョンの亜種のようなモノでして、チート系とさほど変わらなかったりしますよ」
初めからチートもらって楽な展開になるか、初めは弱いけど急激に成長して楽になるか、その過程があるか省かれているかの差しかない。ただ、楽して強くなる系は下手したら初めにチートもらう系よりもたちが悪い場合がある。
この主人公たちはずっと強くなり続けるのだ。チートと特に序盤からカンスト高レベル系はそれを貰ってからはレベルが上がり辛く、それ以上の伸びは期待できない。まあ、経験値軽減や能力アップ系を貰っている、チート系も多いが――何処まで欲張りなんだろうと、個人的には理解しがたい。
「つまり、最終的には同じなの?」
「途中で挫けずにストーリーを読み進めてください。たぶん、似たような展開が待っていますので……というのは失礼な発言ですね。そんなことを言えるほど、私の作品もオリジナリティーに溢れているわけではないので」
本当、偉そうなことを言える立場ではないのに、たまに上から目線で語りそうになるのは自重しないと。
「あと、最近出てきた新しい異世界系のジャンルって何かある?」
「そうですね……ガチャ系でしょうか。スマホとかのゲームで良くある課金してガチャやって、良いアイテムをゲットするという流れですね」
「あー、あるわね。実際、ガチャってお金が湯水のように減るから、妹から禁止されているのよ。ああ、回したいっ!」
駄目だこの女神候補。ガチャにハマって貯金が底を突く典型的な人だ。天聖子さんの妹について非常に気になるが、これ以上は厄介ごとに巻き込まれたくないので、聞かなかったことにしよう。
「でも、ガチャ系って結局はチートを与えられるのと同じ……」
「天聖子さん、それは言ってはいけません。結局物語というのはテンプレがあって、それをどう捻って、個性を出すかなのです。何処かで見たことある内容や、えっ、序盤と題名が違うだけで後は〇〇〇と同じだ。とかは言ってはいけません」
そこを突かれると自分も辛い。異世界ものはポイントを集めやすいが、作品が多すぎるので全く被らないストーリーというのは、ほぼ不可能。って前も、同じことを思った気がする。
流石に露骨にパクっているのは咎められるべきだとは思うが。
「つまり、最近の流行はガチャ課金か楽して強くなる系ってことね」
「そうやってまとめると……なうろうの闇を感じてしまいそうになります」
「典型的なダメ人間って感じが……でも、それが好かれているってことはつまり――」
「それ以上はアウトです。素直に考察すると、最近はPCよりもスマホで読んでいる人の方が多いので、スマホのゲームが身近に感じられるのでしょう。なのでガチャのシステムが受け入れられやすい」
「あーなるほど、じゃあ楽して強くなるは?」
「誰しもが抱いている願望ですかね。少なくとも宝くじを買っている人は馬鹿にする権利は無さそうです」
「あー、なら私に権利は無いわ!」
「右に同じく」
楽して強くなる、楽して金を儲ける、楽して頭が良くなる、誰もが一度は願ったことがあるのではないだろうか。だからこそ、こういった作品が受ける。というのは穿った物の見かた過ぎるだろうか。
「これも一時的な流行なのかな」
「おそらくは。このサイトは結構流行り廃りのテンポが早いですからね。便乗しようと思ってある程度書き溜めたら、既に別のモノが流行り始めている何てこと良くあるみたいですよ。だからブームに便乗した作品を書く人は、勢いだけで書いているのでエタる人が多いとも言えますが」
それでも完結までいく作者だってちゃんと存在する。これはストーリー構成が得意な人か、書き手のタイプによるものも大きいと勝手に思っている。
ある程度プロットを作ってから書くタイプと、思いついたことを書きながら世界とストーリーを構築していくタイプ。後者の作者だと流行り物に便乗する方法が最もポイントを稼げたりする。
前者だと投稿し始める頃には下火になっていて、残念な結果になったり……ま、まあ、人から聞いた話なので、俺は全く関わりのないことだが。
「あのさー、いっつも、なうろうの考察しているけど、ポイントを取りやすい方法があるなら、自分で実践してみないの? 最近は、テンプレから外れた作品ばかり書いているイメージがあるけど」
「あー、気づきましたか。実はランキング上位や流行のジャンルを調べている間に、飽食気味になりまして……書く気力が」
「そんなこと言って、実はテンプレ満載を書いて人気が出ないのが怖いだけじゃないのぉー。偉そうに考察しておいて自信がないだけじゃー。本当に小説家を目指したいなら、なりふり構わずポイントが取れる作品書くのが正解じゃないのかなぁ」
ぐぬぬぬ、珍しく正論をっ。正直、なうろうで小説家になる為の一番の近道は、なりふり構わずポイントを取りに行くことだ。5万以上のポイントを得ることが出来れば、なにかしらの問題が無い限り、書籍化の声がかかるらしい。
「まあ、私の手に掛かれば、異世界、チート、ハーレム、勇者、テンプレのタグが付くような作品を書いて、一気にランキングを駆け上がる自信はありますけどね」
「そうなんだ、じゃあ、次回作楽しみにしているわね!」
目を爛々と輝かせテーブルに身を乗り出して迫る天聖子さんの顔は……完全にからかって反応を楽しんでいる顔だった。
俺が書かないとわかっていて口にしているな。あのにやけた面を見ていると、沸々と闘志が湧いてきた。
「ええ、書いてやろうじゃないですか。日間ランキング上位に居座っても驚かないでくださいよ。もう構想は練ってありますからね」
「へえええー、そうなんだ。じゃあ、題名も決まっているの?」
「も、もちろんですよ」
「どんな題名なの! 教えて、ねえ、教えてよぉー。題名も今日の話を踏まえた上で、すっごく素敵な題名をつけてくれるのよね!」
ど、どうしよう。何も決まってないぞ。くそ、この女神候補わかっていて俺を煽ってやがる。からかい半分なのだろうけど、天聖子さんに言い負けるのは癪に障る。
「そ、そうですね。題名は……異世界弾丸ハーレムです!」
「へっ? 異世界とハーレムはわかるけど弾丸って何?」
「そ、それは投稿してからのお楽しみですよ。あははははは」
こうやってとぼけて誤魔化しておけば時が解決してくれるだろう。
「楽しみにしているからね。一日三回、活動報告チェックしておくから、投稿日時が決まったら書き込んでおいて」
くっ、逃げ道を防がれた。そ、そこまで言うのなら書いてやろうじゃないかっ!
日間ランキングの定番マンネリネタを混ぜ合わせて、魔改造した序盤だけ全力を尽くす作品を!
その結果どうなったのかは、ここでは触れないでおこうと思う。
世の中そんなに甘くないとだけ言っておく……ほんっと甘くないなぁ……。
題名変更に関わってくださった読者の皆様に、改めて感謝の言葉を。
本当にありがとうございました。
また、何か読者参加型の企画でもしたいですね。




