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かの有名な絡繰り人形師は言った


「儂の最後の作品は、最早人形ではあるまい」と。


そんな彼の最後の息子(さくひん)を、民衆はこう呼んだ。


“最後の逸品”、と____



これは、そんな“人形”と魔法の物語。








とある国、とある町の片隅、起こったのはただの引ったくり。

治安の悪いこの町じゃああまり珍しいことでもないらしく見向きもしない住民たちに、薄情なヤツらだと内心吐き捨てる。

あれにはそこそこ大事な食料やらとにかく全財産が入っている。

どうしても取り返したいが、足はあまり速くない。


___だから、仕方ない!


(ウェントゥス)、集まれ!」


自分の声に呼応して膨らむ魔力と魔具である水晶。

アタシを取り囲むように、風が集まる。

周囲の好奇の視線には慣れ始めている。伊達に特訓しちゃいない。

ざわつき始めた民衆の音が引ったくり犯に伝わった。

こちらを振り向き驚いたように目を見開くその姿を視界に収めて、にまりと一笑。

十二分に溜めた魔力を込めて、魔術を発動する。


旋風(ウェルテクス)!」


先ほどよりずっと大きな風の塊が水晶を押して、犯人へと一直線にアタシを届けた。

セーブし損ねて勢いよくそいつにぶつかる。

その衝撃で目を回したらしい犯人を他所に、アタシは自分の荷物を引っ掴んだ。


「よっし、確保ォ!」


意気揚々と中身を確認していると、静まっていた周囲がいきなり大きな歓声に包まれる。

「ブラボー!」「すっごーい!」「なんで“魔術師”様がこんな町に!?」なんて叫ばれて、いい気にならないアタシではない。

・・・本音を言えば、“魔術師様”と言われる程の腕前ではないのだけれど。


「なーんだ、大したこと無いじゃん」


そうそう、アタシは修行中のへっぽこ魔術師・・・って


「な、アンタ誰よ!」

「うわ、気配にも鈍いとか終わってるね。僕そっちの男に用があんの、どいてくんない」

「はぁ!?なんで初対面の人間にいきなりそんなこといわれなきゃいけないの?アンタ何者よ!」


生意気な口を叩くネズミ色の少年相手に啖呵を切る。

まだ年若い、特に目立った特徴もない、そんな没個性的なヤツ。

怒りをなんとか押さえて観察してみるが、あまり強そうにも見えない。ひょろっとしている。

少年は特に意にも介せず引ったくり男の持ち物を漁り始めた。

頭に血が上ったアタシは早口で捲し立てるようにもう一度彼の素性を尋ねる。

___もう、イライラするなあ!


「レイフ・イーズデイル。しがない旅人だよ」

「アタシはカティ、魔術師よ!あんだけ言うんだからアンタ相当強いんでしょうね!?」

「__ハッ、トーゼン。」


今まで一切動かなかったレイフの表情が、挑発するような笑みに変わる。

向こう(・・・)じゃよく見た表情。一人旅じゃ見られなかった顔。

思わず懐かしくなって、慣れ親しんだ人でもないのにアタシはこう言ったのだ。


「模擬戦闘、しようよ!さっきの暴言はそれでチャラにしたげるわ!」

「・・・相手になるわけ?」

「っな、なんですってぇぇえええ!?」








斯くして、レイフとアタシの模擬戦闘は始まった。

とある知人から借りて来た魔術結界装置(これが荷物に入ってることをついさっきまで忘れてて冷や汗をかいた。あの子は怒らせたくない)を取り出して、アタシと彼の丁度間くらいに置く。

これは使用者の魔力を与えることでシールド魔法___極東の地では結界と呼ぶらしい___を発動し、魔力の持ち主を感知してその人物のみを取り囲むという優れものだ。もとはそれぞれの魔術師が持つ魔具だったものらしい。しかもあの子は更に改造して時間を計る機能まで付けていた。心底有能なヤツである。

この装置の使い方、仕組みを無い頭で必死に理解したぶんだけ伝えると、どうやらそこそこ頭の良いらしいレイフは納得して魔力を送ってくれた。そしてアタシの説明の仕方を罵った。

___どこまでも一言多いヤツめ!

腸の煮えくり返りそうな状態から冷静に、と心がける。


___頭に血が上って冷静さを欠くのは、カティの悪い癖だよ


その言葉を復唱していると、落ち着きを取り戻していくのを感じた。

制限時間は10分だ。それ以上とるのは目立つし、というわけ。


「10分も持つの?」

「こっちの台詞よ!」


ポン、ポン、ポン、ビーーーーーーッ!

始まりの合図が鳴り響く。

先手必勝、と言わんばかりに魔力を展開する。レイフはまだこちらの様子を見ているようだ。

___そんなヒマ、あげないから!

魔具へと魔力を集中。一人前になればこのくらい意識せずにできるけど、きちんとしておくに越したことは無い。魔力を暴発させて消費しないためだ。

頭の中で立ちこめる風をきちんと思い浮かべて、魔具の中で形作る。

準備、OK!


突風インペトゥス・ウェンティー、吹き飛ばせぇッ!」


レイフへと向かって一直線。彼は少し目を見開いたあと、納得したように表情を変えた。

まっすぐ彼へと向かって行く強い風の塊をスルリと避ける。

当然彼に当てるために軌道をかえる・・・のだが。


「あ、あれー・・・?ま、まがれぇ!」

「ほんっと大したことないね、風の魔術師さん?」

「うるさいなぁ、もう!そっちこそなんもしてこないじゃん!」

「____じゃ、いくよ?」


その声を皮切りにレイフの手の中へと光の粒が集まって行く。

魔具はどれ?___手袋、だろうか。

十分に集まったのを確認して、レイフは呪文を唱える。


(ルーメン)

「ッ!(ウェントゥス)、取り巻け!」


下位の術といえど光属性の魔術は強力だ。アイツの魔力が多いだけかもしれないけど___そんな気配は、しなかった。うっすら感じられるくらい。だから、違和感が拭えない。

風の膜を張り巡らせて盾を作る。

___間に合わない!?

鋭い閃光が迸り、風の盾をいとも容易く突き破る。

目の前の防壁を取り払ったそれは当然こちらへ一直線だ。

身を翻して避けようとするものの、弾くつもりでいたのだから避ける準備なんかしているはずもなく。

腹部に当たって強い衝撃を放つ光を最後に、アタシは意識を手放した。

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