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第一回「パラドックスの恋文」研究報告書

第一回「パラドックスの恋文」研究報告書


1.序論

 これは、『パラドックスの恋文』という現象を扱った少年少女に対するレポートである。


2.実験方法

 時空の歪みで生じる現象『パラドックスの恋文』について、二名の少年少女にこの現象を体験させ、その経過を見る。


3.実験の意義

 二〇三七年、科学者ジョン・エドワードが発表した、「時間の歪みを体験した人間に生じる現象」のことを、「パラドックスの恋文」という。これによって、例えば死んだ人間に恋文を送ることすら出来るだろうと考えられていた。

 しかし、当チームはこれが間違った理論であると考えている。

 たとえ、科学が発展したとしても時間遡行など出来る訳がない。光より速い物質は、未だに発見されていないからである。

 この理論が正しいか否かを証明する。

 ただし、我々はここでこれが理論的に証明できないと明記する。しかし、理論と実験は均しい結果を生み出すものではない。よって、今回の実験は大いに行う必要があるといえる。



4.被験者

4-1.高遠 縁(被験者1)

 市民病院にて統合失調症と診断され、親族が今回の実験に参加しても良いと許可してくださったため、今回の被験者となる。


4-2.イブ・エドワード(被験者2)

 エドワード氏の実の娘である。エドワード氏はこの実験に娘を使ってくれと提言されたので、被験者となる。病弱であり、今回の実験をクリア出来るかが難題である。


5.実験経過

5-1.事前

 センターに運ぶと、被験者1は楽しそうにしていた。よっぽど家族と仲が良くないのだろうか。チームリーダーを「センセイ」と慕っていた。統合失調症の症状はかなり軽いものであり、我々も安心していた。

 被験者2もそこまでではないが、もともとの病弱な身体からか呼吸器を身に付けなくてはならなくなった。この実験、初めから骨が折れる。


5-2.接触

 接触は次の方法で行った。


1.エドワード氏の論文通り「パラドックスの恋文」を知らせる。

 これは、単純に、「パラドックスの恋文」について知らせるだけでよい。エドワード氏の論文でも、そう述べられているためだ。


2.経過を待つ

 「パラドックスの恋文」現象は、まさに果報は寝て待てと言わんばかり、待つしかないだけである。


 これにより、被験者自身が「パラドックスの恋文」を実行するまで、待機する。


5-3.実行後

 パラドックスの恋文を知らせるのは授業で行うこととした。被験者2が身体の弱体化が進んだために試験管内で授業を受けさせた。なお、確認したところ、授業の内容は聞き取れているようである。問題はない。

 ここで、被験者1の統合失調症の進行について述べる必要がある。

 被験者1はこの数日で自らが作り出した妄想を現実としたようだ。実験にはなんの関係もないと判断したため、放置することとする。症状は以下のとおり。


 ・架空の友人「ジョン」を作る→名前がエドワード氏と同じだが、関連性は不明。

 ・被験者2が五年前からこの姿であることを思い込んでいる→そんなことは有り得ない。彼とともに数日前からいたのである。

 ・被験者2はリーダーの娘を生き返らせたものである→そもそもリーダーは未婚である。


5-4.実行から一週間

 パラドックスの恋文を知らせてから一週間。彼らは実行するときの各々の思いを考えているようである。


5-5.実行から二週間

 知らせてから十二日を経過し、ここで事態が動いた。

 被験者2の症状が急変したのである。

 病弱であった彼女だったが、まさかここまでなるとは思いやしなかった。

 被験者1は幻聴の症状が出るようになったらしく、リーダーとメンバーのやり取りが「ジョン」とリーダーのやり取りに聞こえたのだという(これはあくまでも彼から後に聞いた話である)。

 被験者2は二週間後に回復したが、其の間に被験者1は「パラドックスの恋文」を実行した。


5-6.被験者1の「パラドックスの恋文」実行

 被験者1の「パラドックスの恋文」実行は以下のとおりである(詳細は添付したビデオをご覧いただきたい)。

 被験者1は授業内で学んだ霊量子学の理論を用いたコンピュータのアプリケーション「ボトルメールサービス」を利用した。ボトルメールサービスとは、簡単に言えば海にボトルを流す「ボトルメール」をインターネットの海に流すものだ。しかしながら、そのコンピュータはセンター内のサーバにしか行くことはできない。そのため、流れるのはセンター内のみだった。

 彼の「ボトルメール」は被験者2への愛情をしたためた。これには私たちも予想外であったが、「パラドックスの恋文」を実行しようと試みたのである(実際には失敗している)。


5-7.被験者1の実行から

 被験者1の実行から二週間、被験者2は命を取り留めた。ようやく状態も安定し、被験者2は普通に動くことが可能となった。被験者1は「ジョン」とともに被験者2と再会する。被験者2は症状が急変したとき、「パラドックスの恋文」を送信したらしい。しかし、サーバのトラブルによって、そのままネットの海を徘徊していた。つまりはこれも失敗に終わっていたわけである。


6.結果

 結果として、「パラドックスの恋文」理論を証明すること以前に、エドワード氏の提唱したパラドックスの恋文を実行するまでに至らなかった。理由として、彼らがパラドックスの恋文を理解していなかった可能性を挙げる。


 以上、報告を終える。

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