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 手紙を書いている時間はあっという間に過ぎ去っていった。なんというかそれは恐ろしい程に。どっかの誰かが言っていたっけ。時の使い方によって、金にもなるし鉛にもなるってのを。それはその通りだと思うし、非常に正しいことだと思う。


「……出来たか?」


 訊ねたのはジョンだった。僕はそれにイエスと頷く。


「それじゃー、コンピューターに打ち込むぞ。お前の手紙は……っと……ほうほう。なるほどねえ。そういうことだと」


「何見ているんだよ」


 僕は恥ずかしくなってしまい、ジョンに強く言ってしまった。恥ずかしいものは恥ずかしいが、だがそれを文字にしたのは自分の意志であるということに変わりはない。


「……よし、打ち込んだぞ」


 そう言って、僕は一息つく。これで『パラドックスの恋文』は送信された――ということだ。これで、届くのだろうか。少なくとも、その時の僕には、まったく想像もつかないのだった。



 ◇◇◇



 そして、時はもどる。


 イブは僕に近づいて――言う。


「……ねえ、パラドックスの恋文は、あなたに届いていないというの?」


 イブはシニカルに微笑んだ。こういう時、どんな顔をすればいいのか解らなかったが――天から「笑えばいいと思うよ」とか聞こえてきた――だが、僕はカミを信じていない――ので、それに従って見ることにした。


 イブは微笑みを返し、さらに言った。


「……やっぱり、ダメだったのかな」


「……やっぱり?」


 初耳だった。


 やっぱり、とはどういうことなのだろう。


「パラドックスの恋文は……受信者か送信者の何れかが『死ななくては』成功しない。だけれど、私たちはどちらも生きている。だから、実験の成功は愚か、実験が実行されてすらいない」


「何を言っているんだよ、イブ。なあ……ジョンもどうにか言ってくれよ」


「……」


 だが、ジョンは答えなかった。それはおろか、見るとジョンの身体は人形のように無機質な塊と化していた。


「うわああああ!?」


 僕は驚いて、それを自分の場所から強引に引きずり剥がした。どうしたかといえば、蹴った。


「あれ? 友達でしょ? いいの?」


「こんなの……友達じゃない」


 そこに転がっていたのは、ジョンなどではなかった。


 ただの人形だった。


 ジョンは何処へ消えてしまったのか?


 いや、それとも――。


 『ジョン』という存在は、本当に存在していたのか?


「プロフェッサー。実験は失敗よ。どうするつもり?」


 イブは中空に訊ねた。しかし、返事はない――ように見えたが、イブが「うんうん」と頷いているのを見ると、どうやらイブだけに返事が返ってきているらしい。


「決まりね。この世界はデリートされることが決定したわ。そして……別の世界が形成される。あなたの命も、あと数分といったところね」


「ここは……いったい……」


「そうね」


 イブは長い髪をたくしあげて、言った。


「もうどうせ、あなたとはあわないのだから、教えてあげましょう。この世界が、どのような仕組みを経て成り立っているのか、を。ただしそれは『今回限りの特例』ということを、お忘れなく」


 そうもったいぶって、イブは説明を開始した。


「十年前、人類は画期的な研究を開始した。その名も――『ヒューマン・ストレージ計画』。この計画をざっくばらんに言えば、『増えすぎた人類をネットの世界に住まわせる』こと。そして、ここはその実験場ということよ」


 はっきり言って、イブが何を言っているのか解らなかった。


 知識が足りなかった、と言った方が正しいのかもしれない。


「そのために、人間は様々な実験を行った。まずはストレージ化した場合において、人間の倫理はどこまで保たれるのか――ということ」


 イブはそのあとも、どんどんと様々なことを言ってくれた。


 例えば、ストレージでも人間は感情が存在できるのか、とか。


 例えば、ストレージ上でも人間が発見した法則通り物理法則は成立するのか、とか。


 そして、僕たちはその実験体ということらしかった。


 そして、僕たちの実験甲斐あってヒューマン・ストレージ計画は成功、現在は人類の殆どがストレージ化されているらしい。


「ただ、まだ管理とかに問題があるけれど。概ね成功はしている」


 そこで、イブは時計を見た。


「……さてと、そろそろお別れの時間となったようですねえ」


 イブはそう言うと、左手に持っていた小さいボタンを取り出した。


「それじゃ」













 ――さようなら。










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【第77実験箱庭のデリートが完了しました】

<エピローグ>


「さて……次はどうしましょうかね」


 スマートデバイスの画面を指でスライドさせながら、白衣の博士は呟く。


 しばらく画面との格闘を繰り広げていた彼女だったが、


「……よし」


 シニカルに微笑んだ。その画面にはだれかのプロフィールが書かれていた。


「再試験を受けるために夏休みに登校する。……よし、これでいこう」


 そのだれかの名前は大鷹シノと言った。





To be continued.




<最後の2進数について>


その言葉の意味を、僕ははじめ理解できなかった。


だが、これだけは解った。


ああ、人は死んでしまうのはこれほどにも呆気ないものなのだな、と。


おや、待てよ?


けれど、僕はストレージ化された存在だったっけ。


だったら、それって人じゃないのかな?


……解らない。


どうせ、消えてしまうのに。


どうせ、考えることも出来なくなるのに。


どうしてこんなことを考えるのだろう。


僕にはそれが解らな

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