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「先生、どうしてイブを救えなかったんですか……!!」


 そう言って先生に食ってかかったのはジョンだった。僕だって、出来ることならそう言いたかった。


「……先生も、手を尽くした。だけれど、助けられなかったんだ。君たちにはほんとうに、ほんとうに申し訳ないと思っている……」

「どうして!!」

「いいかげんにしろ、ジョン!!」


 僕はもう我慢ができなかった。

 これ以上話していたら、彼女にかわいそうな気がしたから。彼女が泣いてしまいそうな気がしたから。

 彼女が死んでしまった。なくなってしまったことを、僕は心の中で受け入れていたのかもしれない。そう考えると、不思議と涙は出なかった。彼女が泣いちゃダメだと言っているみたいだった。

 だけど、いや、だからこそ。

 彼女のことを思うと、苦しくて、涙が止まらなかった――。



 ◇◇◇



「なあ、パラドックスの恋文を覚えているか?」


 僕はジョンからそう言われてなんだったけかなとポーズをして――すぐに思い出す。ああ、あれかと頷く。


「それを、思い出したんだ。確か、イブの居た水槽はコンピュータと繋がっていただろ?」


 その言葉に僕は頷く。しかし、ジョンはいったい何を言っているのか、僕にはさっぱり訳が解らなかった。


「君は……『霊量子論』ってのを覚えているか?」


 ジョンに言われた単語は小難しくっていったい何を言っているのかさっぱり分かりはしなかったけれど、少し考えたらそれは先生が授業でちょろっと言っていた事だということを思い出した。


『――まあ、今は霊量子論というのが仮説であってね、その仮説が正しいと証明されれば、きっとこういうことも出来るだろう』

「……『死んだ人間に手紙を送ることができる』……!」


 僕が思い出したように言ったその言葉に、ジョンは小さく頷いた。ああ、そうか。つまりは、そういうことだったわけだ。


「パラドックスの恋文ってのは死んだ人間から届くメッセージだ。だけれど、こういうことも可能じゃない? 死んだ人間に生きている体で送るとどうなるんだろう、って考えたことはない?」


 ジョンのその言葉は難しくて、理解するのに時間が掛かってしまった。

 けれど、理解してしまえば早い話。

 つまり、霊は量子と化している説――この説を応用して、ここにあるパソコンから施設の量子コンピュータへ接続する。量子というのは一九〇〇年、マックス・プランクが提唱した物理学の最小単位であって、人間はこれの塊で出来ているとも言われている。それが幽霊というのは、量子がバラバラとなって存在しているだけであって、実際に目の前にいるわけでもないけれど、目の前にいるように見せかけて、そこには居る(よく解らないけれど、先生曰く『人間の不可視化』)――これが『霊量子論』というモノらしい。

 もし、彼女に届くのなら、なんて僕は送ればいいのだろうか?

 そして、ジョンは彼女に何を送るのだろうか?

 僕はもう『成功するかしないか』じゃなくて、『なんてメッセージを彼女に贈ろうか』、ただそれだけしか考えていなかった。


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