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前編-3(H25改)

 夕方、友人二人が戻ってくると前述した通り熟睡していた僕は起こされた。といっても、部屋はオートロック式で鍵は僕が持っていたから携帯電話の着信音で目が覚めたのだが。

 その後、旅館一階にあるレストランにて三人で夕食をとり、大浴場で入浴を済ませて三人一様に浴衣姿で宿泊部屋に戻ってきたのが夜八時半過ぎ。部屋に上がると漆塗りのテーブルと座椅子が端に寄せられて三人分の布団が敷かれていた。

 ちょうど部屋でくつろごうとした時、扉がノックされた。僕が扉を開けるとそこには和服姿の女性が立っていた。一目見てここの女将だとわかった。歳は三十代後半くらいだろう。薄い桃色の着物を着たとても綺麗な方だった。女将が深々とお辞儀をした際、後ろで髪を結ってあるのが見えた。

 あまりに突然だったのでお風呂上りでほかほかだった身体が緊張で強張ってしまった。そこへ背後から武と直之がやってきた。改めてお礼を兼ねて挨拶すると、楽しんでいってちょうだい、と優しく微笑んで女将は去っていった。

 部屋に戻ると僕と直之は布団の上に座り込んで背伸びをしたり携帯電話をいじったりしてくつろいでいたが、武はというと自分のカバンを引き寄せて中をごそごそとあさっていた。やがて、

「じゃあ早速おっぱじめますか!」

 と、景気よく両手で掲げたのは、ゲーム機の本体だった。室内の液晶テレビにゲーム機をつなげ始める武に、僕だけじゃなく直之までもが呆れ顔だ。武が持ってきていたのは、四人までプレイできる、相手を場外に吹っ飛ばして負かすことで有名な格闘ゲームだった。

「ただやるだけじゃつまんねえ。バツゲームアリだ。異論は許さん」

 無論、僕も直之も異議を申し出たが断言通り却下された。

 そして初戦で真っ先に敗北したのは僕。

「バツゲームの内容はこのアミダクジで決める」

 武は一枚の紙をテーブルに置いた。どうやら彼の言うアミダクジのようだ。事前に作っていたらしい。何もかもが準備万端整っていて計画通りことが進んでいるようである。

「一から十の中で適当な数字を言ってくれ」

「ちょっと待って」

 と、横槍を入れたのは直之だ。

「その方法は武にとって有利だろ?」

 言われてみればその通りだ。このアミダクジをつくったのは武本人、数字の中に入ってるバツゲームを全て把握していると言っていい。数字の中に一番楽なバツゲームを入れていれば、もし武自身が負ければそれを選べばいいことになる。

「そうだな。なら俺が負けた時はこうしよう。二人が数字を言い合って、それを足した数字のバツを受ける。もちろん『0』もありだ。そうすれば俺は『1』のバツだって受けることになる。あとは足して二桁になったなら、十の位を省いて一桁目の数字のバツを受ける。これでどうだ?」

 直之は無言のまま首肯した。

「それじゃあ仕切りなおしだ。どれにする?」

「……じゃあ、二番」

 僕が億劫そうに選択すると、武は二番の数字の割り当てられたアミダクジを辿っていった。やがて彼は、にやっと不気味に微笑んだ。

「よーし、じゃあ一発目のバツは、一階の売店で夜分の食糧を調達して来てもらおうか」

 というわけで、二人から五百円ずつ託された僕はなくなく一人部屋を出たのである。

 一階の売店に着くと、陳列棚から適当にスナック菓子とジュースのペットボトルを選び出してカゴに入れ、レジで支払いを済ませる。

 ため息をつきながら売店を出た時、僕の視界にある人物の姿が映り込んだ。

 コンビニで凝視してきた例の女の子だ。彼女は数十メートル程離れた通路の突き当たりにいたので、僕がいることに気づいてないようだ。奇遇にも泊まっていた旅館が同じだったようで、遠目で鮮明には見えないが、彼女もここの浴衣を着ていた。やがて彼女は通路の角を曲がって見えなくなったので、僕は気にせずに部屋へと戻った。

 そしてジュースとお菓子をテーブルの上に広げながらの二回戦が開始された。

 それから直之、武、直之、僕、という順番でバツゲームが進行していく。テーブルの上に置かれた、なんのジュースを混ぜたのかもはや不明な飲みかけの液体の入った湯のみに、ゲーム中ずっと正座させられて悶えている武、両の頬にシップを貼られた直之。そして僕の頬には狐のようなヒゲの落書きが黒マッキーで入っている。無論、シップも黒マッキーも武が準備したものだ。

 そして、六戦目に敗北を喫したのは直之だった。

「五番だ」

 して、アミダクジの結果は、

「ナンパ……?」

 アミダクジを見下ろしていた僕は、そこに書いてある通りのことを呟いた。

「ほう」

 と、反応の薄い直之はいつも通りの無機質な表情。

「なら、これには一つ条件をつけさせてもらう。今の時間は午後十一時を少し回ったところ、ナンパしようにも人を見つけるのは困難かもしれない」

「ああ、そういえばそだな」

「だからここから一階までを往復して人一人みつけられなかった場合はバツゲームはなしにしてもらおう」

「まあ、いいだろう」

 直之の的確な物言いに言い包められたようで、武はあっさり納得した。

 そして僕らは部屋を出た。ちなみに直之の両頬に貼ってあったシップは、そのままでナンパするのは酷だということで既に剥がしてある。

「よし、じゃあ第六回バツゲームいってみよう」

 午後十一時を過ぎているためか、通路の中は先ほど売店に向かった時とは違い、薄いオレンジ色の補助灯と緑の非常灯だけで照らされていて不気味な薄暗さだった。だから武の開始宣言も囁き声だ。

 人気は全くない。階段を下りて一階につくもやはり誰もいなかった。先程の罰ゲームで訪れた売店には横網状のシャッターが閉まっていた。フロント、レストランにも同じシャッターが閉まっていた。ロビーにも人気はない。柱の前のアンティークを思わせる振り子時計は午後十一時十五分を指していた。

「やれやれ、このバツゲームは無意味だったな」

 武が悄然と肩を竦める。しかし、とある通路の角を曲がろうとしたところで会話が聞こえてきたのである。

 僕たちはなぜか反射的に慌てて引っ込んだ。聞こえてきた声は二人分、どちらも女性の声だった。

「さあ。バツゲームスタートだ」

 武はにかっと笑うと、直之の耳元で囁いた。

「さ、行ってきなよ」

「ああ」

 躊躇いもなく直之は角を曲がっていく。僕と武は壁に張り付くと耳をそばだてた。

 それからすぐに直之の声が聞こえてきた。

「突然ですいません。よければ明日僕と一緒に行動しませんか?」

 女性の会話はピタッとやみ辺りは静寂に包まれた。程なくして、一人の女性の声が聞こえてきた。

「それはつまり、私たちをナンパしてるのかしら?」

「その通りです」

 直之が即答すると、再び静寂が辺りを包み込む。

 やがて、

「……いいわ。こっちは三人、あなたたちも三人でちょうどいいもの」

 一人がそう返答した時、僕の身体は瞬時に硬直した。

 隠れてるのに、どうしてこっちの人数を知られたのか?

 僕ははっとして背後を見やった。そこにあったのは、外が闇夜のために鏡と化していた窓。その窓には直之の後ろ姿と女性二人の姿がくっきり映っているではないか。つまりそれは、向こうからもこちらが丸見えということだ。

「そういえばさっき『このバツゲームは無意味だったな』って聞こえたんだけど。これって、彼が今私らにやってるナンパがバツゲームだという認識でいいのかしら?」

 もしかして、彼女さんたち、怒っていらっしゃる?

 隣を見やると武が苦笑いを浮かべていた。

「後ろの二人出てきなさい!」

 怒声にもとれる声色だったので、僕はまた凍りついてしまった。

「仕方ない。行くぜ」

 ぽんっと僕の肩を叩いた武は潔く彼女の前に姿を現した。

 なんでこんな目に……。

 僕も落胆しながら、角から足を踏み出したのだった。


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