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中編-3

 踊り場を経て階段を上がり、二階通路に出た。この階段はおそらく建物の中程にあるのだろう、階段を上がりきると左右に通路が伸びていた。

 二人は左手に曲がると、階段から数えて4つ目の扉の前に立ち、ドアノブを回した。

「洋室だな。しかも割と綺麗じゃん」

 金髪は持っていたペンライトで室内を照らしていく。高さがあるからか、一階よりも微かに明るさはあるが、それでもペンライトの明かりはあった方がいい。

 金髪が呟いたように割ときれいな部屋だった。物が少なくて殺風景でもある。

 扉を開けて二人が入ってきたその真向かいには、大きな窓があった。ヒビは少し入ってるもののまだ綺麗に残っている方だろう。床はベージュの絨毯が全体に敷かれていて、泥の足跡が微かにあった。白い壁紙もそれほど汚れてはいなかった。天井は一階に同じく照明はなく取り付け金具だけが残されていた。

 そしてちょうどよくも、室内に一つだけあったのが壁に沿って置かれたベッド。薄汚れた白いシーツだけが敷いてあった。

「いい部屋が残ってるじゃねえか。ここに寝かせるぜ」

 金髪は不気味な笑みを浮かべるとトランクを開けた。そして少女を抱き上げると静かにベッドに寝かせた。

 少女を寝かせた瞬間、ウェーブの入ったセミロングの茶髪がシーツの上に広がった。薄緑のカーディガンがはだけ、レモン色のツーピースの水着だけを身にまとった少女の身体が露わになった。

 薄ピンクの色っぽい唇や、可愛らしいリボンの下にある小ぶりな胸、白く艶やかな太股を目の当たりにして萩尾はゴクリと唾を飲み込んだ。その横では獲物を前にした蛇のように舌なめずりをする金髪。

「改めて見るとかなりの美女じゃねえか。ムービー持ってくればよかったな」

「携帯のムービー機能で我慢だな」

 萩尾は少女とぶつかった時に持っていた携帯電話をポケットから取り出した。

 その時、ぽた、ぽた、と外から雫のたれる音がした。

 次第に雫の音は大きくなり、ザーッというテレビのノイズ音のように激しくなる。

「あ? 今日天気雨だったか?」

 金髪は窓の外を見て不思議そうに言った。

「いや、今日も昨日と変わらず晴天だって天気予報で言ってたけど、ざあざあぶりだな」

 萩尾はヒビと雨雫だらけのガラス窓に近寄ると、そこから外を見下ろした。

 萩尾の立っているちょうど足元の絨毯はほんの少しかびていた。おそらく雨が降る度に窓ガラスのヒビから入り込んだ雨滴が絨毯の上に水たまりをつくっていたのだろう。

「ここも一応は山の中なんだし、平地とは違い天気も変わりやすいんじゃないかな?」

「そうは言うが平地とそんな距離離れてないだろ? まあいい。雨が降ろうが降るまいが俺には関係ね――」

 ピカッと外で明滅した稲光に金髪は口をふさいだ。

「おいおい勘弁してくれよー。俺は雷が嫌いなんだ」

 辟易したように言う金髪。しかし思い立ったようにかっと目を見開いた。

「くそっ! こうなりゃ自棄だ」

 金髪は寝かせた少女の上に跨がり、水着に手をかけようとした。

 その時、二度目の稲光が室内を照らす。だが、

「黒田・・・? これ、どうなってる?」

 萩尾が呼んだ黒田とは金髪の名前だ。

 一方、黒田は少女の水着に手をかける寸前で硬直していた。

「俺に聞くなよ!」

 二度目の稲光の後、不思議なことに室内に明かりが灯っていたのである。まるで誰かがブレーカーのスイッチを入れたようにだ。

「ここ、電気通ってるのか?」

「だから俺に聞くなって!」

 二人とも眉間にしわを寄せた険しい顔をつき合わせる。その状態で、沈黙が数秒ほど続いた。

「もしかしてここを管理してるやつがいるんじゃないか? 萩尾、ちょっと見てきてくれよ」

「断る!」

 全力で拒否反応を示す萩尾。

「明かりがついたんだから誰かいるのはた・・・」

 少女の体から離れ、ベッドから下りて明かりの灯った室内を見渡していた黒田は、油の切れた機械のように動きが止まった。

「なあ? 明かりがつく前って部屋こんなきれいだったか?」

「い・いや、こんなきれいじゃなかったと思う」

 うろたえ気味にかぶりをふる萩尾。

「だよな? ていうか、照明もなかったはずだが・・・」

 天井には先ほどまでなかったはずの和風の四角い照明があり、そこからスイッチのヒモがぶらさがっていた。

 ベージュの絨毯はまるで新品のようにきれいだった。窓の直下にあったカビた部分もなくなっていた。窓は先ほどまでなかったアイボリー色のカーテンに覆われて隠れていた。奥にある窓ガラスは、もしかするとヒビ一つないのかもしれない。

 ベッドにはシーツだけじゃなく、新品同様の掛け布団までが敷いてあり、包み込むように少女の体をのせていた。

 あからさまに先程とは違う室内の光景。まるで部屋が入れ替わったかのようだ。

 黒田はペンライトを切るとポケットに収め、険しい顔で萩尾と向かい合った。

「おかしすぎる。外を見に行こう。俺と一緒なら大丈夫だろ?」

「わ・わかった」

 萩尾は頷くと、持っていた携帯電話をポケットに戻して、部屋の玄関へ移動した。

「さて、その前にだ。逃げられちゃかなわねえからな」

 黒田はベッドに近づいて両手を伸ばした。起きてるならなんらかの反応があるはずと、汚らわしい念いっぱいの両手が少女の胸へとのばされる。

 しかし、またも稲光と雷鳴が黒田を凍りつかせた。

「しつけえぞ! いいタイミングで光りやがって! もういい。まだ気絶してるだろうし、放っといても大丈夫だろ」

 黒田はベッドに背を向けると辟易しながら萩尾の待つ扉の方へ向かった。

 屈託顔の萩尾が扉を開け、二人は少女をベッドに残したまま部屋を出たのだった。



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