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聖女のお仕事って大変なんですよ、そんなものをうらやむからそんな目に合うんです

掲載日:2026/04/20

いつものゆるっと、ふわっとした短編です。

お気軽にお試しください。

◇ ◇ ◇ ◇ side マドーラ


「聖女マドーラよ、貴様の聖女の任を本日をもって解除する。

 合わせて貴様と俺との婚約も破棄となる」


 王宮で行われる春の大パーティーの席上で、この国の王太子であるヨアヒム・メルカトル殿下が高らかに宣言しました。

 何を考えてるんでしょうか?


「合わせてこの場に居合わせる全ての貴族達に向け宣言する。

 次の聖女はすでに決まっているのだ。ここに居るミルテアが今日から彼女の代わりに聖女となる。

 合わせて私の婚約者もミルテアとなる。

 この国の王子妃は聖女が据えられるのが慣例だからね」


 大体わかりました。


 ヨアヒム殿下は見た目だけは良い王子です。女の子ならだれでもぼーっとなるかも? というぐらいには。

 でもよく知るとお勉強が嫌いで甲斐性はないんですよ。


 そしてミルテア。彼女は私の次の聖女を担う候補生です。

 何度か指導のために会ったことがあります。この娘もお勉強が嫌いで、人の話をまともに聞いていない娘ですね。


 ただ、美人ではあります。

 私の2歳下で15歳のはずなのにお胸とか大きいし、腰は細いし、お尻とか立派で、すごく女女(おんなおんな)しています。


 清楚可憐な表情で王子に縋り付いていますけど、体の動きが媚媚(こびこび)でエロいです。

 つまり見た目だけで頭空っぽな二人がそろってしまったわけですね。


「ミルテアさんに聞きますけど、あなた聖女の仕事をちゃんとわかってますか?」


「ふざけるな、わかっておらんのはお前の方だろう」


 王子が大きな声を出しました。

 一喝というほどカッコよくありません、顔中を口にして唾をまき散らしています。ちょっとよけちゃいます。


「ミルテアからそなたが聖女の役職をないがしろにして遊んでいると聞いているぞ」


 周りの貴族たちがざわめきました。

 はて、私はちゃんと聖女の仕事をしていたはずですけど…


「お前は日がな一日祈りの間でお茶をしているだろう!」


「はい、お茶はしていますね」


 またざわめきが大きくなりました。


「私もまさかと思ったのだ。だから確認に行った」


「・・・ああ! あの突撃取材はそれでしたか」


 あの日は朝からこまめに王子が祈りの間に突撃してきて、私と一言二言交わしてすぐに帰っていくというのを何度も繰り返していましたね。

 私が何をしているのか見に来ていたんですね。


「そうしたら確かにずっとお茶を飲んでいるではないか。しかも読書をしながら、ひどいときはソファーに寝そべってポテチを食べていた。

 貴様は聖女の仕事をなんだと思っているのか!」


「えっと、聖女のお仕事はですね…」


「うるさい」


 自分で聞いたのに。


「それなのに貴様は王太子である俺よりも高い俸給を受け取っているのだ。これが許されようか!」


「そうです、マドーラ様はいい加減すぎます」


「それに比べてミルテアはまじめだ。そなたの不誠実を私に告げ、この国の祈りを正したいと言ってくれたのだ。

 私たちはお互いを知り、彼女とならばともに国を支えていけるとそう確信するに至った」


「あっ、わかりました。エロエロですね?」


「なっ、何を言うか、信頼だ、信頼」


 とか言う割にはミルテアは自分の体を擦り寄せてもじもじしてますし、王子は何を想像したのか一部が反応してますよ?


 私より年下なんですけど、なんというか彼女は色々女性らしいパーツが実にエロいです。

 女の武器(エロ方面)総動員ですね。フルウエポンアタックです。


「それに貴様が遊んでいながら高い俸給を受け取っていたのは事実であろう。

 大概の貴族よりもずっと高給取りだ」


「それは当然です。私の仕事はオンリーワンなんですから、その分お給料がいいのは当然です。

 それが大概の貴族の収入を上回るとしても」


 あっ、なんか貴族の人たちのでこに青筋みたいなものが?


「ゆえに貴様は解任とする」


「でも、私の後にミルテアさんが着任したら同じじゃないですか?

 聖女のお給金は王国法で決められているはずですよ?」


 その額なんと王様の次。王妃様と同じなんですよね。


「心配はいらない。ミルテアは私の妃になれば王子妃の歳費だけで聖女の手当てはいらないと言っている。

 法は改正するためにあるのだ。聖女の歳費は王国上層部で再分配を考える」


 ずざざっと王子の後ろに人が並びました。王国の重鎮たち、大臣たち八人です。油ギッシュなおじさんとか陰険眼鏡とかいます。みんなお腹周りが太ましい感じです。


「なるほど謎は全て解けました。

 エロエロに目がくらんだ王子と、お金に目がくらんだおじさんたちが王様のいない間にええいやっちゃえ。だったわけですね」


 王様がいれば必ず反対されますからね。


 自分でいうのもなんですが、聖女は謎の多いお仕事なんです。

 聖女の真実を知っているのは王様と聖女本人と神官のほんの一握りの偉い人。

 聖女の仕事にそれだけの価値があることを知っている人たちです。


 聖女のお給料は彼らが決めました。でも半分は慈善事業に回してますよ。主に子供たちのために。


 どうせ聖女なんておしゃれとかとは無縁な生き物ですし、暴飲暴食だってできません。健康管理もお仕事のうちですからね。


 だから、私は結構貯金もってます。今のところ使い道ないですから。


 引退したら孤児院でも作るつもりです。

 なのに…


「やややややーかましいわ。とにかく貴様は追放だ!

 これは決定である。

 とっとと出ていけ。

 衛兵どもつまみ出せ」


「あーれー」


 なんかお神輿な私。


「あっ、まて、聖女の指輪を取り上げろ」


 王子の命令で私がしていた指輪が抜き取られました。

 あー、すっきりした。


「ミルテアさん、指輪の取り扱いはちゃんと神官さんたちに聞くんですよーーーっ」

「よーーー」

「よーー」

「よー」


 私は表にペイってされました。まっ、いいですけどね。あの王子、嫌いでしたし。


◇ ◇ ◇ ◇ side ヨアヒム


「ふっ、うまく行ったな」


「はい、ヨアヒム様。私嬉しいです。これで私はヨアヒム様のお嫁さんになれるんですね」


 俺の言葉に嬉しそうにミルテアが抱きついてくる。相変わらず女性らしい柔らかい感触が素晴らしい。


「うむ、聖女には別に処女性は求められていない。結婚もできるのだ。それなのにマドーラは結婚までは指一本触れさせないなどとぬかしやがって…」


「そのぶんわたくしが慰めてさしあげますわ」


 ふっ、かわいいやつだ。


「それにしても聖女の仕事がこんなにいい加減なものだとはな…あきれてものが言えぬわ…」


「はい、全くです。わたしも研修と称して何度か見学に伺いましたが、ずっとお茶を飲んでいて仕事なんかぜんぜんしていませんでした。

 そのくせ、なにか難しいことを言うんですよ」


 ミルテアの言葉に俺はうなずく。


 聖女の仕事は繊細で、余人を交えてはいけないと教えられていたので俺も聖女の仕事っぷりを確認しようなどとは思わなかった。

 だが、ミルテアの進言で確認してみればあの体たらくだ。


 なぜあんなものに高い俸給を支払うのだ?


 聖女を大事にしているというポーズなのだろうか。確かにそのほうが民衆に受けはいいが…

 そもそも王太子である俺より手当が上というのはどういうことだ? 

 まったくもってけしからん。


 そんなことに金を使うのならもっと俺の方に回すべきだろう。


 だがそれも今日で終わりだ。


 大臣たちに話をしたらこの現状には開いた口がふさがらなかったようだ。


 父上は昔から聖女をすごく大切にしている。父上に相談しても相手にされないことは分かり切っている。

 なので父が外遊に出るこの機会に事を起こしたのだが、うまくいった。


 父上も聖女を交代しても何の問題もないと証明すれば俺の英断をほめたたえてくれるに違いない。

 聖女に使っていた金を取り上げ、大臣たちの俸給増額を約束したら彼らも気持ちよく協力してくれたし、さらに貴族家に対する減税を打ち出せば俺の支持率も上がるだろう。

 これで俺の治世は安泰だな。


「あ、ここです。着きました」


 俺たちはミルテアを先頭にして祈りの間に到着した。


 ミルテアにつけさせた指輪がきらりと光る。これがこの部屋の鍵なのだ。


「どうだ調子は?」


「はい、問題ありません。でも不思議な指輪ですね。最初小さくて入るかなと思ったんですけど、つけてみたらぴったりくっついているんですよ。

 それにすごく綺麗ですよね。くるくる色が変わって。

 この指輪を付けられるだけで聖女になったかいがあるというものです」


 うむ、それならば良い。


 俺とミルテアと大臣たちは、今まで一般人は遠慮すべきと言われていた祈りの間に足を踏み入れる。

 そして大臣たちのあきれたような声が上がった。


 そこはなんというか一言で言うとくつろぎの空間だった。


 一人でのんびりまったりと時間を過ごすのに適した空間。お茶の用意も万全だし書籍などの娯楽も整っている。


「まったくこれが聖女の祈りの間だと言われて誰が納得するだろうか、こんなものはただの自室なのではないか」


「あっ」


 ミルテアの装備していた指輪がきらきら輝きだした。


「おお、これはなかなか興味深いですな…この後いったい何が起きるのか…」


 大臣の一人が声を上げた。

 しかし、この時は何も起きなかった。ただ、きれいな光を放っているだけだ。

 だが俺はその光を見たとき、得も言われぬ不安に襲われた。

 うまく言葉にできない、だが、不安だ。大丈夫なのか? 危ないのではないか? そんな気持ちがわいてくる。


 だが、俺の周りはみな楽しそうにさざめいているだけだ。


 何処にも異常はない。


「気のせいか…」


「どうかなさいましたか?」


「いや、大丈夫だ」


 実は大丈夫でなかったとわかるのは三日後の事だった。


◇ ◇ ◇ ◇ sideマドーラ


「追放ですか…しかし、どこから?」


 私の報告に偉い神官さんが眉根を寄せました。私は答えます。


「さあ?」


 追放だと言われましたが、どこから出て行けとは言われませんでしたよね。

 でも、王都にいるのはまずいような気がします。


「なので取り合えず地方に向かおうかと、南の保養地は風光明媚でご飯がおいしいそうですし」


「あはははっ、観光ですな」


「もちろん観光です」


 だってお金だってそれなりに持っていますしね、私は孤児の育成に力を入れる聖女でした。できればそれをもっと充実させたかったんですけど、仕方ありません。

 よその町だって孤児院は必要でしょう。


「なるほど、それも神のご意思なのかもしれませんな」


「はい、私は地方の実情など、この目で見る機会はありませんでしたしね」


 私は神殿に所属していますけど、神様というのはよくわかりません。だって聖女のお仕事は神の奇跡ではなくちゃんとした魔術なんですから。


 いえ、神様を否定するわけではありませんよ。魔術を与えてくれたのも神様ですから。

 ただ、神官さんの様に無条件で『神様凄い』とは思えないんです。


「では新しい聖女様をよろしくお願いしますね」


「あははっ」


 神官さんが、妙に乾いた笑いを漏らしました。


「まさか! あのミルテアさんという人、聖女の資格を持ってないのですか?」


 そうなんですね、わー、なんてことでしょう…それでは、この国は…この国は…

 あっ、たいして困らないか。

 うん、ちゃんとやりようはあるんです。


「まあ、そういうことでしたら、あの大臣たちと王子に責任を取ってもらうということで」


「あっさりしてますね」


「だって仕方がないじゃありませんか、あの指輪、一度譲渡した以上もう二度とつけられないんですから。

 私はお役ご免ですよ。

 今からでもミルテアさんを教育した方がいいのじゃないですか?」


「まあ、それはそうなるでしょう。

 ほかに道などありませんから、すぐに泣きついてきますよ。

 それでも最低で3年は頑張ってもらいませんと」


「そうですね、それが決まりです」


 聖女の任期は最低3年と決まっていますから。


 頑張れミルテアさん。

 とか言いながら、私は旅行に…じゃなかった。王都から追放されたのでした。


 待っていてね、おいしいご飯たちーっ。


◇ ◇ ◇ ◇ side ヨアヒム


「なぜ、なぜこんなことになったのだ…」


 俺はベッドに横たわるミルテアを見て悲嘆にくれる。


 ミルテアは見る影もなく窶れ、やせ細っていた。

 あの豊かな胸も、柔らかいお尻も見る影もない。


 最初はすべてが順調に行っていると笑いが止まらなかったのだ。


 時期的には今年の聖女の歳費が支払われる直前だった。つまり聖女に渡るはずのお金がそのまま浮いたことになる。


 もう少し時期が早ければ予算案から編成しなおすところだったので、絶妙なタイミングと言えた。


 受け取る聖女はすでにいないのだ。

 いや、ミルテアが受け取ることになるのだな。


 俺もミルテアを粗末にするつもりなど無いので三分の一を彼女の手元に残し、残りの半分を俺が、もう半分を大臣たちで分けさせた。


 その金額は想像以上に大きく、俺の予算は潤沢になった。


 ミルテアもそれなりに金を持っていることになるが愛する女への贈り物は男の甲斐性。俺の予算から彼女にドレスや装飾品を手配した。


 このころが幸せの絶頂であったのだろう。


 ドレスなどはすぐにとはいかないがアクセサリーのたぐいはすぐに選ぶことができる。王宮に出入りしている宝石商を呼び出し、その日はミルテアに似合うアクセサリーを二人で選ぼうと約束をしていたのだ。


「宝石商は午後一番で来ることになっている。昼食の後に一緒に選ぼう」


「はい、うれしいです」


 それまでは祈りの間で祈りをささげる。ミルテアは真面目で交代した後も穏やかに祈りの時を過ごしていた。


 その日、最初にそれに気がついたのはやはりミルテアであった。

 ころころと不思議に色の変わっていた指輪が一つの色に落ち着いたのだ。

 これはどういうことだろうか、そう問いかける俺に


「これは指輪が正式に私のものになったということだと思います。私が聖女として認められたのです」


 そう嬉しそうに微笑むミルテア。


 そして彼女は祈りのために部屋に進み、そして絶叫が響き渡った。

 部屋に入ったとたんにミルテアが苦しみだしたのだ。

 俺はすぐに医者を呼び、彼女を部屋に運ばせる。それでも彼女の苦しみは治まらず、どんどんやつれて行ってしまう。


 たった一日で、彼女は長年まともな食事をしていなかった人の様にやせ細ってしまった。


 俺は気が付く、怪しい妖光を放つ指輪、これが原因かと…


 だがその指輪は外すことができなかった。

 いったい何が起こっているのだ!


「殿下、陛下がお戻りになりました。殿下をお召しでございます」


 いつの間にか部屋に人がいた。ノックに気づかないほど俺は…


「今はここを離れたくない」


「…では陛下のお言葉をそのままお伝えいたします。

 聖女を追い出した愚か者よ、その報いについて話がある。直ちに来い。とのことでございました」


 俺ははっとした。


 聖女の…報いだと…

 俺は慌てて部屋を飛び出した。


◇ ◇ ◇ ◇

 

「父上…」


「ふむ、相変わらず公私の別のわからぬ子よ、陛下と呼ぶがいい」


 俺は父の、いや、陛下の眼光に射すくめられて身を縮めた。

 陛下は昔から厳格で、その身からはどんな貴族も圧倒させるほどの力を放っていた。まるで人間ではないかのように…


「なぜ呼ばれたかわかるか?」


「はっ、はい、あの、マドーラの…」


「聖女マドーラの! だ。たった今公私の区別をせよと言ったはずだ。

 王族に本当の意味でのプライベートなどない。だが、公務中はより厳しく公私を区別せねばならぬ。

 マドーラは『聖女』であり、お前は『王太子』である。

 そのような区別もつかぬから聖女との婚約と聖女の担う仕事の意味を取り違えるのだ。愚か者め」


「うぐぐ…」


 陛下の威圧に押しつぶされそうになりながら、後ろに並ぶ者たちが身じろぎしたのが分かった。

 そう、俺の後ろにはやはり呼び出された大臣たちが控えさせられているのだ。


「それで、なぜこのような勝手なことをした…という話はいい。もはや手遅れだ。

 だが、やってしまったことには対応せねばならん。

 お前たちにはその埋め合わせをしてもらうことになる」


「は?」


 陛下の話は驚愕に値した。


 この国は古く、古代から続く魔導王国の流れを汲む由緒正しい国だった。

 そして、それゆえに、魔導王国期から受け継がれる秘事がいくつも存在するというのだ。

 聖女もその一つだった。


「この国は国土全域に魔導線という巨大な魔法陣が埋め込まれている。

 この魔法陣はそこに暮らす全ての国民から少しずつ魔力を徴収しているのだ。

 ひとりひとりから徴収される魔力は微々たるものだろう。日常生活に全く影響はない。

 十分間体操するよりも負担としては軽いだろうな。

 だが国民すべてからとなればその総量は積もり積もって莫大なものとなる。

 聖女のお役目というのはその徴収された魔力を整え、細かく分配し必要なところに割り振り、国を豊かに健やかに整えることにある」


「そんなバカな!」


 俺は声を上げずにはいられなかった。


「だってマドーラはいつもお茶を飲んでいたんですよ」


「それは彼女が天才だからだ。普通は…」


 普通聖女は神殿で勉強と訓練を受けて聖女の資格を取る。

 子どものころから訓練を受けて、そして15歳ぐらいでその技を身につける。その中から最も優れたものが聖女としての任に就く、短ければ3年ほど、長ければもっと。


 勤めを終えた聖女は王子や、貴族などに嫁ぎ、その後の生活を保障される。


 でもマドーラは10歳で聖女の技を身に着けた天才だったらしい。


 それから7年間、お茶を飲みながらでも楽々仕事をこなし、昼寝していても揺るがない。

 逆にろくに技術を身に着けていないものが聖女になるとミルテアのようになってしまう。


「お前の連れてきたあの小娘は神殿でもまれにみる劣等生だと言っておったわ。

 真面目に訓練をしない。人の話は聞かない。他人をうらやんで騒ぐことしかしない。

 実にくだらん。

 どうせ聖女の仕事など理解しておらなんだのだろう」


「うっ」


「聖女というのは集めた魔力をうまくシステムに流さねばならない。

 この時、自分の魔力をしっかりと掌握しておかねば、流れ込む魔力に引きずられてどんどん自身の魔力も吸い取られ、ミイラのようになってしまうのだ」


 そうか、そういうことだったのか…


「そっ、それならマドーラを元に戻せば…」


 ギロリと陛下に睨まれた。


「あの聖女の指輪は一度人に譲るともう二度と戻すことはできない。

 あの指輪は制御ユニットなのだ。

 そして一度はめると聖女のシステム上、一年から三年ほど外すことができなくなる。

 指輪が外せないうちはあのミルテアという娘に聖女をやらせるしかない」


「そんな…」


「まあ、そのころには新しい聖女が育っておるだろう。

 ちゃんと技術を身に付ければ、それほど危険な仕事ではない」


 そうか、この国の繁栄を支える仕事だからあんなに俸給が高かったのか…


「それではそれまではミルテアに頑張ってもらうほかないのですね…

 可哀想なことをしました…」


 それでもやってもらうほかあるまい。


 俺は自分が被害を受けなかったことにほっと胸をなでおろす。

 もともと、あいつが俺をそそのかしたために起こったことだ。俺にはどうすることもできない。

 だが、陛下の次の言葉を聞いて俺の背筋が凍った。


「何を関係ないような顔をしている。お前たちもやるのだ」


「は?」


「?」


 俺も大臣たちも顔を上げた。


「当然であろう、様子を確認したがあの小娘。あのままではひと月と持つまい。

 自身の魔力を掌握する技能を全く身に付けていない。

 あの娘が死ぬのは自業自得としても、その尻拭いをできる者がいないのだ。

 であればバックアップを付けるほかない」


 ば…ばっくあっぷ…まさか…


「おう、珍しく勘がいいな。

 その通り、お前たちに儀式を施し、お前たちの魔力で聖女を守るのだ。

 なに、難しいことはない。

 ただ、あの部屋でお茶でもして居ればいいのだ。

 楽しかろ?」


 俺達は全員言葉をなくした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ sideマドーラ


「あら、神殿からお手紙だわ」


 私は夏の光、輝く避暑地で神殿から届いた手紙を広げた。


 周りには子供たちがいっぱい。

 私は念願の自分の孤児院で、たくさんの子供たちに囲まれて過ごしている。


「あらあら」


 思った通り、あの愚か者たちは全員祈りの間に放り込まれたらしい。

 聖女ミルテアも何とか持ち直して聖女のお役目を果たしているみたい。


「まあ、8人もバックアップが付けばね」


 その八人の魔力がミルテアさんを守るから命に別状はないでしょう。

 とか思ったらそうでもないらしい。

 コロコロと丸かった大臣たちは全員一様にもっのすごーくスレンダーになってしまったらしい。

 おまけにやせ細ったのはそこだけじゃなくて、髪の毛とかもとても薄くおなりだとか。

 

 王子は太っていなかったから大変ね。

 

 バックアップがこのままでは足りなくなるということで大臣たちの財産が差し押さえられて高額報酬のアルバイトを設定したみたい。

 つまり臨時のバックアップとして魔力をささげる人を募集したのね。

 それなりに高い報酬を設定して。

 無理がないように交代制。

 今人気のアルバイトだそう。


 陛下はここら辺ちゃんとわかってますからね。


 それに神殿の神官たちもミルテアさんをビシバシ教育しているみたいだわ。

 これなら次の聖女が育つまで、問題なく国も回るでしょう。


 それでも反抗的なのは変わらないみたい。

 本当におばかちゃんなんだから、やらなきゃいけないことは泣いてたって解決してくれないのに、なんでああいう人って〝努力すれば解決することなのに努力を厭うのかしら?〟不思議だわ。

 苦しみが長引くだけなのに。


 王子もご同様みたい。


 隙を見つけて逃げ出そうとするんですって。

 本当にやせてしまって、スケルトンナイトと間違われてるって…ふふふ、まさか!


 まあ、手紙によるとあと一年ぐらいで新しい聖女が育つみたいだから、頑張ってね。


 私は結構長い事聖女をやっていたからこれからの人生、心配はないし、楽しく過ごさせてもらうわ。


「せんせー、ごはんできたってー」

「はやくいこー」


 ちっちゃい子たちが呼びに来てくれたわ、ここは天国ね、あら、そしたらこの子たちは天使だわ。

 皆良い子たち。


 まあ、お勉強よりも遊んでいる方が好きって子もいるけど、まだ小さいから、遊びの中にお勉強を混ぜて、学ぶことの楽しさを教えましょう。


「てんてー」

「マドーラ様」

「ねーたん」


 子どもたちや一緒に働いてくれる女性たち、お手伝いの男の人たち。

 みんないい人。

 素晴らしい日常ね。


 王子様、ありがとう。あなたのことは嫌いだったけど、素直に感謝はできます。


 皆さんの幸せを遠くから祈ってますね。


 おしまい



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― 新着の感想 ―
聖女がいなかったら国は回らないけど、大臣は必要ないみたいですね。 聖女辞めたら段々ダイナマイトボディになってたりしてw 本人気付いてないだけで、実はイロイロ吸われてたと思うんで。
別に聖女の仕事は国王と神官だけの秘密である必要はなさそうだけどね 王子や大臣達はなんで知らなかったんだろ?
王子だけじゃなく複数の大臣も愚かなの珍しい。余程王がしっかりしてたんでしょうね、子育て以外。
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