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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

この赤い華に名前を

作者: 米ぬか
掲載日:2026/01/02

冬の夕暮れ、雪が降り積もり、マンションの脇には小さな雪だるまがちょこんと据えられている。

彼の部屋に入ると、閉ざされたカーテンから、僅かに夕日が差し込んでいた。


私を抱き寄せて迎え入れてくれた彼の体温は、いつも通り温かくて、けれどその瞳は、ぼんやりとどこか遠いところを見つめているように見えた。


「自分、さ。人、殺しちゃったんだよね」


冗談を言うようなトーンではなかった。

テレビのニュースで連日流れている、犯人の見つかっていない事件の犯人が自分であると告げた。


私は、言葉を失った。

私を抱きしめるその腕が、誰かの命を奪ったものだなんて、信じたくなかった。

なぜ殺したのか、それを後悔しているのか、何か理由があったのか。

全てを語ることなく、彼はただ、私の目の前に、雪のように冷たい事実を、据え置いた。



彼の腕がそっと解かれ、彼は立ち上がって、コートを羽織って、部屋の外へ出ていった。


あれ以上何も言わなかった。

彼は、すべてを、私に委ねた。



私の愛に「正義」という名のナイフが突き立てられたたような気がした。


彼を隠し通せば、私は彼の共犯者となり、二人だけの薄暗い世界で、世界に怯えながら、永遠を生きていくことになる。

しかし、警察に言えば、私の手で、彼を地獄へ送り出すことになるだろう。



葛藤の末、私はコートを手に取った。

私は彼を、深く愛している。

だからこそ、彼が立派な「殺人犯」として完成してしまうのを止めたかった。


警察署の冷たい空気の中で、私は震える声で、すべてを話した。

彼の住所を教え、彼が犯人だと、警察官に伝えた。

彼の罪を認め、彼を待ち続けること。

それが、私の正義であり、私なりの愛の儀式だった。



警察署を出ると、暗闇に雪が降りしきっていた。

彼の部屋に戻る気には到底なれず、どこかで暖を取ろうと、コンビニにでも入ろうと歩いていた時だった。

街灯の下、私を待っていたのは、他でもない、彼だった。


「…いっちゃったんだね」


彼は悲しそうに、でも、どこか満足げに微笑んだ。


その瞬間、私は悟った。

彼は、私が「正義」を選ぶことを知っていたのだ。

そして、それこそが、彼が望んだ「私による審判」だった。


彼の手が私の首筋に触れた。

冷たいはずの指先が、なぜかひどく熱く感じられる。

彼がナイフを突き立てていることがわかったのは、私のコートに血が滲み出していたときだった。

痛みよりも先に、熱の篭った圧倒的な一体感が私を包み込む。


「…ごめんね。でも、これでずっと一緒だから」


彼の顔が近付き、瞼を落とす。


遠くでサイレンの音が聞こえる。

崩れ落ちる私を抱き抱え、彼は自分自身の胸にも同じナイフを突き立てた。

意識が遠のく中で、私は、胸の中に溢れる暖かな幸せを感じ取っていた。


彼は最後まで理由を語らなかった。けれど、そんなことはどうでもよかった。


自身の命をかけて、私の下した審判に従い、私という人間を、彼の人生のすべてとして受け入れてくれたのだ。



真っ白な雪の上に、二人の朱が混ざり合い、鮮やかな華を咲かせていく。

正義も、罪も、すべてが雪に溶けて消えていく。



最後に残ったのは、残酷で甘美な、事実であった。

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