表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

短編

最終電車 約束の二人

作者: 月蜜慈雨




 最終電車の空気は少し独特だ。

 1番最後の車両ならなおさら、人は少なく、終点の駅が近づくにつれ、どんどん人々は降りてゆく。



 遂に、その車両には僕ともう一人、黒髪ロングの少女だけになってしまった。

 電車が左右に揺れながら、線路を走る。



 それまで気にも留めなかったのに、その少女を認識した瞬間、僕は目が離せなくなった。

 涼やかな目元、少し丸い小鼻、形の良い唇、黒のキャミソールワンピースに薄手のカーディガンを羽織っている。

 足元には細いストラップのサンダル、何より印象的なのが、長い髪から覗く、雫型のピアスだった。

 電車が揺れ動くたびにピアスも左右に揺れる。

 少女は自分の手元をじっと見つめていた。敬虔な信徒が神に祈るかのように。何かをそこに、僕は神聖めいたものを感じた。



 ふと、少女がこちらを見た。

 僕の頭が確かならば、少女は真っ直ぐ僕を見つめている。



 不安に駆られ、周囲を見渡す。

 誰も座っていない座席と、少し汚れた床が目に映った。

 それだけだった。

 少女はそんな僕の様子を意に介さず、ただこちらを見続けていた。

 歯に海苔でもついているのか?

 僕はスマホをインカメにして、急いで歯を確認した。

 歯どころか、僕の顔には何も異常は見当たらなかった。

 アナウンスが流れる。


「えー、まもなく石抱駅に着きます。お出口をお降りの際は、お足元にご注意ください」


 程なくして、電車は止まった。

 ドアが開かれる。



 少女は僕を見つめたままだった。

 その視線から逃れるように、ドアから覗く駅のホームに意識を逸らした瞬間。


 少女が、僕の目の前に立った。


 グルリ、世界が廻った気がする。

 少女は僕の目を見つめていた。

 妙に黒い瞳に、吸い込まれそうになる。

 お互いの息遣いさえ、感じられる程の距離に、僕たちはいた。


 少女は片手を差し出す。

 僕は咄嗟に、何故か自分の片手を差し出して、少女の片手を覆った。


 少女は一息吐いて、言った。


「約束は果たされなきゃいけない」


 僕はまるで茫然自失として、同じ言葉を繰り返した。


「や、約束は、果たされなきゃ、いけない」


 少女がふと、微かに微笑んだ。

 僕はビクッと肩を振るわせた。


「海で待っている」

「君は……」


 瞬間、強い風が吹いて僕は目を瞑った。


 奇妙なことに、君は消えてしまった。

 君の長い髪が、風に吹かれて、扇のように舞った、一瞬の出来事だった。

 僕はなんだか狐に化かされたように、しばらくの間座り込んでいた。



 やがて目的の駅に着くと、フラッと降りた。

 駅のホームは閑散としていた。

 ただ、最終電車行きのアナウンスが耳を突くように繰り返し聞こえる。



 君はどこに行った?

 まるで何かを辿るように一歩ずつ足を踏み出す。

 改札を出ると、まばらな街灯が辺りを照らしていた。



 耳を澄ませても、もう君の声は聞こえない。遠くで車が道を走り去る。

 ほとんど掠れて見えない星空を見上げながら、君がさっき言った言葉を呟いた。


「約束は果たされなきゃいけない」


 海鳴りの幻聴がする。

 幻の潮の匂いが鼻につく。

 湿った風が細波を運んでくるようだ。

 なんでだかは分からない。信じたいだけかもしれない。

 でもそこへ行けば君に会える気がした。

 石混じりの砂浜に、今日と変わらない姿で。



 僕と君は約束した。

 手を重ねたあの時に。

 生温い追い風に後押しされて、僕はもう一度、脳味噌に刻みつけるようにして言った。


「約束は果たされなきゃいけない」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「約束は果たされなきゃいけない」 この後、どうなるのでしょうか?? ちょっと恐ろしい……(^^;)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ