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第6話

「最近はよく目が合うな……」


恭子は心の中で小さく呟く。


最初は、ただ教授を遠くから観察するだけで満足だった。

声をかけるつもりも、近づくつもりもなかった。

お互いのことを知ってしまったら、この気持ちは消えてしまいそうで、誰にも知られたくなかった。


でも、今は違う。

目が合ったとき、教授に微笑まれたり、こちらに気づいて声をかけようとする仕草に、胸がときめく。

こんなに変なことをしているのに、嫌な顔ひとつされない。

まるで、私の全てを受け入れてくれているかのように……


次は教授のゼミの時間だ。

授業中、教授に気づいてもらえるだろうか——そんな期待を胸に、恭子は教室の席に座った。


すると、ゼミを取っていた藤堂和志がにこやかに声をかけてきた。

「隣、座ってもいいかな?」


「どうぞ……」

恭子はそっけなく答える。

藤堂は恭子に好意を持っていて、何とか会話を続けようと必死だった。

「君、いつもこのゼミ取ってるよね? 生物学、興味あるの?」

必死さの混ざった笑顔に、恭子は少し面倒だなと感じつつも、まったく興味はない。


藤堂は横目で優子の存在も気にしていた。

「ねえ、君の友達も一緒に取ってるんだよね?こんにちは」

優子は軽く会釈し、にっこり笑う。

「こんにちは、藤堂くん。恭子はちょっと変わってるけど、まあ、楽しい子だよ」

藤堂は優子にも会話を返しつつ、恭子との距離を縮めようと必死だ。


自然と、恭子の目は教卓へ向かう。


その時——教室のドアが開き、教授が入ってきた。

偶然にも、恭子の視線と教授の視線がぶつかる。


胸が跳ねるように高鳴る。

だが教授は、目を見開いたまま一瞬固まり、ふいっと顔をそらした。


恭子は心の中で戸惑った。

(……えっ、なんでそらしたの? 私、変なことした? 気づいたのに……?)

目が合った瞬間、ほんの少しでも微笑んでくれるかと思ったのに、顔をそらされたことが信じられず、胸がざわつく。


一方、教授の胸の奥には、少し複雑な感情が湧いていた。

(……隣の男子と親しそうだな。やっぱり彼女には、ああいう若い男の方が似合うのか……)

普段は穏やかで冷静な自分が、こんなにも心をざわつかせるなんて。

嫉妬と残念感、そして胸の奥に小さな落ち込みが生まれる。

隣に立ちたい——そう思う自分がいるのに、年齢差や自分の平凡さを考えると、やっぱり自分はふさわしくないのではないかと。


恭子はまだ気づかない。

教授が少し残念そうに顔をそらした——その理由が、嫉妬と戸惑い、落ち込みを伴った微妙な感情であることも。


優子は隣で、軽く笑みを浮かべつつ、恭子の気持ちに配慮してさりげなく見守る。

「今日もまた、先生と目が合ったんだね。恭子はほんと変な子だな」


恭子は自然と目線を教授に戻す。

胸の奥がドキドキと跳ねるのを感じながら、心の中で小さく呟いた。

「また、目が合うかな……」


教授は、心の奥で、あの変顔や不器用な仕草を思い出す。

そして、知らず知らずのうちに、彼女の隣に立ちたいと願いつつも、自分にはそれが許されないのではと落ち込むのだった。



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