第4話
今日も彼女は、教授を観察するために大学内をうろうろしていた。
普段は友人・優子と一緒にいることもあるが、今日は一人。
優子は別の講義に行ってしまい、恭子は孤独に教授の動向を追う。
教授の歩き方、指の動き、咳のタイミング、メガネの位置――
全てが愛おしく、胸がぎゅんと締め付けられる。
今日のターゲットは、裏庭のベンチでタバコをふかす倉持教授。
落ち着いた大人の雰囲気をまとった姿が、恭子には宝物のように見えた。
(あぁ……尊い……今日もその背中を見られる幸せ……!)
教授はふと視線の違和感を覚えた。
数日前から、なんとなく誰かに見られている気がしていた。
振り返ると、そこにいたのは大学内で有名なミスコン出場経験のある女の子。
「えっと……君、いつも僕を見ているよね? ……どうして?」
落ち着いた声だが、目元にわずかに動揺の色が見える。
恭子は一瞬、言葉を詰まらせた。
目を伏せ、頬に赤みを帯びさせながらも、小さくうなずく。
「はい……す、すみません。ただ、見ていただけなんです……」
教授は少し眉をひそめる。
「ただ……? 僕を見て、どうしたいのか……」
言葉を選ぶようにゆっくり尋ねる。
恭子は深呼吸し、少しだけ笑みを浮かべた。
「……見ていると、幸せなんです。あなたを見ているだけで、胸がぎゅんと熱くなって……」
教授は絶句する。
「……ぎゅんと? 胸が……?」
頭の中で「夢でも見ているんじゃないか」と考えるが、どこか嬉しい気持ちも芽生える。
恭子はさらに続ける。
「あなたの動作、歩き方、飲む水の音、ハンカチで汗を拭く仕草……全部が、尊くて愛おしいんです。好きだから、ただ見ていたいだけで……」
教授はゴクリと喉を鳴らす。
“こんな美人が……こんな自分を……?”
思わず頭をかきながらも、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「……それって、僕に好意があるってこと?」
思わず聞いてしまう自分に戸惑う。
恭子はうつむいたまま小さく答える。
「はい……でも、付き合いたいとか、そういうのではないんです。ただ、見ていたいだけで……」
教授はさらに理解できず、
「つまり……好きだけど、僕に好かれるのは嫌、ということか?」
「はい! お嫌でなければ、これからも観察させてください。大学内だけで、変なことはしません……」
教授は一瞬、静かに考えた後、
「別に、構わないけど……」とつい答えてしまう。
恭子は目を輝かせ、パァっと天使のような笑顔を見せた。
「ありがとうございます✨」
こうして、奇妙で純粋な二人の関係が静かに始まったのだった。
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