第4話「『不滅の兵士』の召喚」
アイリスの言葉は、僕の心を深く揺さぶった。
何度も死に、蘇るたびに記憶を失う。それは、あまりにも残酷な運命だ。
それでも、彼は戦い続けた。別の時間軸で、世界が滅びたその日まで、たった一人で。
「この世界は、もう一度、彼に同じ運命を繰り返させるのか?」
「いいえ、高階レン。私たちは、彼の運命を変えることができる。彼を、記憶を失うことのない、本当の英雄として、この世界に召喚するのよ」
アイリスは、僕の目をまっすぐに見つめ、そう言った。
僕は、彼女の言葉を信じ、アレクサンドルを召喚するための準備を始めた。
僕とアイリスは、ソフィア博士の指示に従い、再び『エグゾダス・ゼロ』の起動室へと向かった。
アレクサンドルの召喚には、アイリスの『戦略家』としての能力が必要不可欠だった。
彼の記憶を保持したまま召喚するには、時空の歪みを巧みに制御する必要がある。
アイリスは、まるで未来の戦場を俯瞰する将軍のように、淡々と僕に指示を出した。
「高階レン。時空の歪みを、プラス1.22秒に調整して。その間、エネルギー供給を35%に抑えて」
「わかった」
僕は、彼女の指示通りに装置を操作する。
アイリスの指示は、僕がこの世界の物理法則を完全に理解していたとしても、到底たどり着けない、高度なものだった。
彼女は、まるで未来の出来事を全て見通しているかのように、完璧なタイミングで僕に指示を出す。
「今よ、高階レン。起動!」
アイリスの言葉と同時に、僕は起動ボタンを押した。
カプセルが光り輝き、その中に、一人の男の姿が浮かび上がった。
たくましく鍛え上げられた肉体。鋭い眼光。
彼の顔には、無数の戦いを生き抜いてきた証である、無数の傷跡が刻まれている。
彼こそが、アレクサンドル・ヴォルコフ。
『不滅の兵士』だ。
彼は、ゆっくりと目を開けた。
そして、僕たちを見て、驚きを隠せない様子で言った。
「……ここは、どこだ?俺は、あの時、確かに死んだはずだ……」
彼の言葉は、僕たちの胸を締め付けた。
彼の記憶は、消えていない。
彼は、自分が死んだ瞬間のことを、鮮明に覚えている。
僕たちは、彼を記憶を失うことのない、本当の英雄として、この世界に召喚することに成功したのだ。
「アレクサンドル・ヴォルコフ。君は、別の時間軸で、何度も死に、蘇り続けた兵士だ」
アイリスは、彼にそう告げる。
「だが、この世界で、君は二度と記憶を失うことはない。君は、この世界の運命を変えるために、ここに召喚された、**“存在しなかった英雄”**だ」
アレクサンドルは、僕たちを見て、静かに微笑んだ。
その笑顔は、僕がこの世界で見てきた、誰もが諦めと絶望に満ちた顔とは、全く違っていた。
僕の物語は、ここから、僕とアイリス、そしてアレクサンドル、三人で紡ぎ始める。
新たな仲間と共に、僕たちは、この世界の運命を変えるための第一歩を踏み出したのだ。