第3話「『未来の記憶』と『過去の罪』」
僕は、アイリスと手を取り合ったまま、静寂に包まれた起動室に立っていた。
彼女の記憶は、僕の脳内に流れ込み、まるで僕自身の記憶であるかのように鮮明だった。
そこには、僕たちが戦っている時間戦争とは別の、無数の世界の滅びが刻まれていた。
AIが暴走し、人類が滅亡した世界。
時空兵器が暴走し、世界が崩壊した世界。
そして、クローン技術が暴走し、人類が絶滅した世界。
無数の可能性に殺された、無数の世界。
「あなたの世界も、もうすぐ終わるわ。このままでは、時間戦争によって、この世界も滅びる」
アイリスの言葉は、僕の心を深く抉った。
僕は、この世界の終末を、この目で見てきた。
だからこそ、僕は、彼女の言葉を信じることができた。
ソフィア博士は、僕たちに語りかける。
「この装置を使えば、この世界の滅びを回避できる。だが、そのためには、君の力が必要だ」
「僕の力……?」
ソフィア博士は、僕に一つのファイルを見せた。
そこには、アイリスのデータが記されていた。
《対象:アイリス (未誕生者)》
《職能:『戦略家』》
《特性:英雄遺伝子と適合》
「アイリスは、別の時間軸で、天才的な戦略家として名を馳せるはずだった人間です。彼女の力があれば、時間戦争を終わらせることができる」
「……そんな」
僕は、その言葉を信じることができなかった。
たった一人の少女の力で、この巨大な戦争が終わるというのか?
だが、僕には、もう、彼女を信じるしかなかった。
「高階レン。あなたの世界を救いたいなら、私を信じて。私を、あなたの『仲間』として迎え入れて」
アイリスは、僕に手を差し伸べた。
僕は、その手を握り返した。
その手は、冷たく、そして、温かかった。
僕は、この世界で、初めて誰かと手を取り合った。
僕の物語は、ここから、僕とアイリス、二人で紡ぎ始める。
そして、僕たちは、ソフィア博士の指示に従い、新たな「未誕生者」を召喚するための準備を進めていた。
次なる召喚対象は、**「不滅の兵士」**として名を馳せるはずだった男、アレクサンドル・ヴォルコフ。
彼の記憶の中には、僕たちが戦っている時間戦争とは別の形で、世界が滅びた歴史があった。
時空兵器が暴走し、世界が崩壊した世界。
彼は、その世界で、最後まで戦い続けた、たった一人の兵士だ。
僕は、アレクサンドルのデータを読み込み、彼の職能と特性を確認する。
《対象:アレクサンドル・ヴォルコフ (未誕生者)》
《職能:『不滅の兵士』》
《特性:英雄遺伝子と適合》
「不滅の兵士……。彼は、何度も死に、そして蘇る。その度に、彼の肉体は強くなり、彼の精神は研ぎ澄まされていく。だが、彼は、その記憶の全てを失ってしまう」
アイリスは、僕にそう告げる。
僕は、彼女の言葉に、胸が締め付けられる思いだった。
何度も死に、蘇るたびに記憶を失う。
それは、あまりにも残酷な運命だ。
「この世界は、もう一度、彼に同じ運命を繰り返させるのか?」
「いいえ、高階レン。私たちは、彼の運命を変えることができる。彼を、記憶を失うことのない、本当の英雄として、この世界に召喚するのよ」
アイリスは、僕の目をまっすぐに見つめ、そう言った。
僕は、彼女の言葉を信じ、アレクサンドルを召喚するための準備を始めた。
僕の物語は、ここから、僕とアイリス、そしてアレクサンドル、三人で紡ぎ始める。