14話 【戦の前】
出発してから三日。
明日の昼には目的地の草原に辿り着くという場所で野営をしていた。
狩猟部隊が率先して狩りをしてくる為ご飯には困らない。
持ってくる肉は魔獣や普通の獣だ。
この森には魔獣じゃない獣も少なくはない。
だがそのほとんどは魔法が使える云々に限らず魔力を持つ魔獣達の高い身体能力になすすべなく狩られる。
なので、獣はいるがあまり目立たないように生きている。
その目立たない獣すら狩猟部隊は簡単に狩ってくる。
さすがと言うべきだろう。
魔獣よりも獣のほうが肉が柔らかいので俺は好きだ。
今日は串焼きメインのバーベキュー。
うんうん、うまい!!
食事を終えて野営の中心、そこに張られた大きなテントにクロは幹部達と集まっていた。
今後の作戦などを聞いている。
が、ツッコむこともないので頷くだけだ。
ちなみに隠密の報告ではあちらはこっちが先に出陣しているのにまだ気付いていないそうだ。
軍議を終えて幹部達が出ていくと、そこには俺とソラだけが残る。
軍事活動中であるのに、ソラは寝るときはかならず俺の所に来る。
「部下達ほっといて良いのか?」
「アクアに任せているので問題ないです」
「………」
「一緒に毎日寝てるので一緒じゃないと寝れません。支障が出ます。」
「そんな真顔で言われても…」
「クロ様も一緒に寝たいでしょ?」
「………お、おう」
次の日草原に辿り着いた。
情報通り広大で、ここに街を築いてもよかったな思うレベルだった。
まぁ湖のあるあそこのほうが断然良いが。
そこで、オーガが来るまで待機。
暇な日々と野営疲れが続く。
草原に寝そべり青空を見る。
異世界に来て、色々あったなーと思う。
最初は肉団子で、本当に詰んだと思った。
そこからゴブリンを倒し、ホーンウルフを倒し、地道な日々の中でゴブリンキングを倒して王となった。
今でも王と呼ぶには街の領主程度の規模しかないが、それでも王と呼んで慕ってくれる者らがいる。
数十のゴブリン達から始まり、今や複数の魔物、1200にものぼる配下がいる。
野宿からホームレスのような暮らしになり、今やそれなりに文化的な生活も出来ている。
皆に感謝されるが、こっちがしたいくらいだ。
皆の頑張りには本当に驚かされる。
「なにをお考えなのですか?」
「ん?セバスか……いや、俺らの生活も発展したなーって」
「そうですね。昔では考えられませんでした。陛下は……この先どうしていくのですか?」
「どうしたいか……か。この森から始めて巨大な王国でもつくってみるか?魔物と魔獣の王国………あれ、なんか不穏な雰囲気だな」
「良いですね……王国ですか」
「そうしたらちゃんと王と名乗れる。」
「今でも陛下は我々の王様ですよ。」
「いや、規模感がな。まだまだだろ?」
「今まで我々はこの森で1200もの他種の魔物や魔獣を率いた王を見たことがありません。この雄大な森の中で陛下は間違えなく唯一無二の王ですよ」
「……確かにな。もっと街を発展させていずれ国にしよう。もっと多くの種族を集め、皆が平和に暮らせるように」
「陛下は本当に魔物らしくないお方です」
「そうか?」
「魔物は己の事しか考えません。力があれば弱き者を駆逐していくことしか考えません。しかし陛下は弱き者を守る強者。我々はそんな陛下を心から尊敬しています。」
寝そべる俺の傍らに立って、微笑む偉丈夫…セバス。
その顔には確かに尊敬の気持ちが表れていた。
「なので……そろそろ子供を」
「……はい?」
「後継ぎがいるのは我々にとっても安心感があるのです。魔物や魔獣は多く子を成します。陛下も子供を作るべきですよ?」
「いや………そもそも俺…どう………いや」
「ソラがいるではありませんか。陛下も嫌いではないのですよね?」
「いや、それはそうだが。じゃなきゃ一緒に寝たりしないさ」
「では、なぜ」
何故なのだろうか。
鬼人となったソラは前世的に見ても角はあるが相当に可愛い。
魅力的なのも間違えない。
だが、元が人間であり魔物となった俺には魔物と子を成すという気持ちがピンと来ていない。
身体組織的にも、ステータス的にも鬼人として過ごしている俺と、鬼人であるソラとでは子供は作れると思う。
そんな確信がある。
が、まだその時ではないと思う。
ソラを大切にしたいと思った日から、覚悟もないのに子を成すのは嫌だと考えている。
もし、俺が胸を張ってこの世界で魔物として生き抜くと決めた時……その時は必ずソラを嫁に貰おう。
「自信を持って魔物の王だと言えるようになったら……ちゃんと子供を作るさ」
「楽しみにして待ってますよ陛下」
「………お前もそろそろ嫁を貰えよセバス」
「なっ!?」
ゴブリンやオークは正直オスもメスも性欲が強い。
ので、割りと早いうちに嫁を貰う。
のだが、セバスも他の幹部達も人寄りに進化した者らは何故かまだ皆が子を成していない。
それは元の魔物とは異なる進化をしたからなのだろうか…と思う。
生物学的に違う生き物というのが生理的にある、という予測はつく。
例えばだが前世でいえば人間と猿が子供を成す、みたいな話だ。
確かにそれはない。
系統は同じだが全く違う。
「ゴブリンで優秀なメスを鬼人に進化させるように動いてみるかー」
「え?」
「鬼人同士の方がよさそうだろ?子供作るなら」
「それは……確かに」
「あ、まぁあれだ。他種族でも俺は良いと思うぞ?」
「へ?」
間抜け面でぽかんとするセバス。
実はセバスが蜘蛛人のルルシアを意識しているのは知っている。
確かにルルシアはとてつもない美人さんだが、セバスは意外とクールでサバサバした感じが好きなのだろうか?
「この戦が終わったら……とか無駄なフラグは立てるなよ?ただまぁあれだ俺は応援してる」
「………はい」
いつも紳士な雰囲気を醸し出しているセバスのあんな間抜けな顔を見れるなんて……なんて良い日なんだ。
「えー?そうなんですか??セバスさんが……ルルシアさんを」
「ここだけの話にしとけよ?そっとしてやってくれ」
寝る前にどうしてもセバスのその初なエピソードを話したくてソラに言うと、とても驚いていた。
「確かにルルシアさんは頭も良くて綺麗ですよね。胸も………大きいし」
「あー、確かにルルシアは胸もでかいな」
「クロ様も、胸が大きいのが好きですか?」
「んーあんま気にしたことないな」
「ほっ………」
「だがまぁあの二人が結ばれたらどんな子供が生まれるのか気になるな」
魔物としては特殊な進化をした新たな種族である鬼人と蜘蛛人。
どういう子供が生まれるのだろうか?
角が生えていて身体能力の高い、糸と毒を操るサラブレッドか?
いや……実に気になる。
ぜひとも上手くいってほしい。
「でも、よく気付きましたね。私なんて全然分からなかったですよセバスさんの気持ち」
「あー、あいつはそういうの出さない方だからなー。でも、目線がちょくちょくルルシアに流れてるんだよ。話関係ないとこでも!」
「なるほど……ふふ…良いですね。幹部同士で夫婦になるのはめでたいです」
「もしそうなったら盛大に祝ってやろう」
「はい!!」