13話 【出陣】
屋敷の一階にある幹部との会議用の大部屋。
そこには大きな円卓のテーブルがあり、その周りに椅子が10脚置いてある。
一番奥にある椅子だけ大きく豪華な造りなのはそこに王であるクロが座る為である。
「セバス、今日はどんな会議なんだ?」
「報告を聞いていないのか?そっちにも報告が言ってるはずだが」
「すまん、最近忙しくてな」
「オーガとの戦だ」
「ほぅ、戦か!!」
セバスに少し気の抜けた感じで質問した男は元オークナイトにして赤髪の人間のような見た目の筋肉と脂肪に包まれた戦士となった…第一部隊長のタンクである。
強さで言えば王を除けば一番とされている強者で第一部隊長であり第一・第二の合同の戦の際は軍団長を務める男である。
幹部には全員報告してるんだがな…とため息を吐きつつそれに答えたセバスは黒髪に切れ長の黒目を持つ筋骨隆々の鬼人。
鬼人の中でも一番の大きな角を生やし、最近は髭を整えて生やしているので風格が増している。
鬼人に進化して会得した固有スキルの身体強化を使えば強さもタンクに並ぶとされている。
セバスは近衛部隊長兼参謀である。
「敵の数はどうなんです?シャドーさん」
「数は百、長はオーガキングで側近達は進化している戦士だな」
「なるほど……それは大規模な戦いになりそうですね」
情報を集めるのを担っているシャドーに、そう話しかけたのは薄い緑の髪にスカイブルーの綺麗な瞳をした少年…狩猟部隊長の鬼人、エルである。
狩猟部隊は通常は肉などを集める為に狩りを行う部隊だが、弓や罠、索敵などに優れ戦になれば必要な部隊であった。
ちなみにエルの弓は凄まじい性能であり、百発百中と称賛されている。
エルの質問に答えたシャドーは、男にしては長めの黒髪に、漆黒の切れ長の瞳を持つ線の細い美少年の鬼人である。
最初の頃、ゴブリンアサシン時代から隠密を任せられ今では森の中だけではなく、森の外にも部下を送って情報を集めている。
彼は幹部はもちろん王よりも色々な最新情報を持つ。
「全員呼ばれてるってことは今回陛下はかなり本気だな」
「大きな戦はここに来てから初めてだが、陛下への恩を返す為に尽力しよう」
そう語り合うのはこの中では割りと新しめな幹部である。
先に声を出したのが紺色の髪にコバルトブルーの瞳を持ち、身体の複数の箇所に綺麗な青い鱗を持つ第二部隊長の竜人…クルードである。
拠点移動のときにぶつかり王と一騎打ちをして亡くなったリザードマンの長の一人息子であり、その槍の練度はかなり高い。
そして竜人になりポテンシャルも高く、実力で言えばセバス、タンクに勝るとも劣らぬ猛者である。
その次に声を出したのは灰色の癖っ毛に黒い瞳の隻眼の細見の男。
遊撃部隊長の人狼…ウル。
狼形態になった時には魔狼の王とも呼ぶべき風格を持ち、その速度は王に次ぐとまで言われていて遊撃として活躍しているが、普段は物静かな細見の男であり一番不思議な雰囲気を持っている。
「妾も参加するのだろうか…」
「我々は街に居残りだと思うが…」
そう語らうのは新たに幹部になった二人。
一人目はサラサラの長い髪に、紅の瞳を持つクール美女。
新たに王が新設した研究局の長を任せられている蜘蛛人のルルシア。
身体的にはかなり人に近いが、そのおでこにはダイヤ型の紫の石のようなものが埋め込まれているのが特徴的であり、毒に精通し巧みな糸使いでもある。
たまに、エルに頼まれ狩猟部隊にも協力しているが基本的には毒や薬草で薬を作る仕事を担当している。
二人目は、焦げ茶の肌に木のような細い痩せ型の老人。
緑の長髪と長い髭を蓄え、この中でも最も長く生きているため知識量も多く、王の知識もすぐに理解する博識。
主に街での学問を教える先生を努めている…学問長の木人、モクジンである。
風魔法の使い手でもあり固有スキルは木を操るというもので搦手も得意だ。
「そろそろ陛下来るかな〜」
最後に一番気の抜けた雰囲気を出しているのは白髪のボブヘアに毛先がグラデーションで水色の美少女…魔法部隊長兼王の秘書である鬼人のソラである。
王に最も寵愛を受ける女で、その意味でも幹部の中で一目置かれた存在である。
九人の幹部が集まる中、少し遅れてこの拠点の王……クロが現れた。
それによって会話をしていた皆が黙り、背筋を正す。
「相手の出方を伺いたいけど、あまり街に被害を出したくないから中間くらいで迎え討とうと思ってるんだけど……良い場所ある?シャドー」
「それでしたらここから3日程オーガの拠点に進んだ所に木々が途切れている大きな草原がありますね」
「そこで戦えそう?」
「大きさ的には問題ないかと…」
「んじゃそこにしよっか。えっと…今回はルルシアとモクジンは街に残って拠点の守りを任せたい。他のメンバーは参加で軍団長はタンク。補佐にクルード。参謀にセバス。って感じかな。シャドーのとこの隠密は自由に動いていいよ」
「「「「「はっ!!!」」」」」
「ソラ、魔法部隊は総数どんな感じ?」
「ファイアメイジが60、ウォーターメイジが40、それと副官のアクアと私って感じですね陛下」
「なるほど……セバス、魔法部隊と狩猟部隊はしっかり作戦に組み込んでね。あ、俺は今回も参加するからオーガキングは俺の獲物ね」
「すでに我が街の戦力は整ってきています。今回は……陛下が出なくても…」
「駄目だよ……ここで俺が出ないとさ、王としての威厳に関わるじゃん?それに興味あるんだよね…オーガキング。最近これといった強いやつと戦ってないしさ」
「……分かりました。オーガは好戦的な為、一騎打ち等にはならないと思われますのでキングとの戦闘以外は我々にお任せ下さい」
「わかった、任せるよ皆に」
「出発はいつ頃にしますか?陛下」
「んー、道中の食料を削って狩りをするとして……タンク、どれくらいで準備できる?」
「武器や装備などはすでに鍛冶ゴブリン達がそれなりに揃えていますので、研究局からの回復薬などがそれなりに集まればすぐにでも…」
「ルルシア…回復薬はどお?」
「傷などを治す程度のモノなら試作でそれなりの数がありますね」
「シャドー、敵の出陣時期わかる?」
「敵は一週間以内には出陣するかと…」
「なら余裕持って3日後かな……偵察に来るやつとかは隠密で対処してこちらが先に出るのは隠し通せる?」
「はい、問題ないかと…」
「んじゃその感じでやろっか。出発は3日後で、各自部下達に指示出しといてね。街の守り組もどれくらいの数を残すか話し合っといて」
「「はっ!!」」
こうして、対オーガ戦に向けた会議は終わる。
今までの中でもかなり苦労しそうな戦いの為皆の顔も真剣である。
俺も、オーガキングの強さを考えながら思案する。
さぁ………どんな戦いになるだろうか。
三日後。
ついに、我々は出陣することになった。
街の総数が1200前後に増え、こちらが用意した戦力はその半数600にものぼる。
オーガが100と考えると6倍だが、オーガの強さを考えると妥当な数だと思う。
鉄鉱山のコボルトや鍛冶ゴブリン達の働きもあり皆が鉄の武器と装備を手にしている。
これは魔物の中では相当に凄いことだろう。
そもそも鍛冶ゴブリンはなぜ鍛冶が出来るのか……鍛冶の知識がない俺には分からなかった。
俺が前世知識で教えたわけでもなく、ただ俺が必要としている事を知り鍛冶系統の進化をしたゴブリン達は、進化したと同時に鍛冶のやり方を理解したらしい。
とんでもない世界だ。
もちろん鍛冶ゴブリンも新種だ。
ゴブリンは拾った武器とかを使うこととあるがそれは拾ったものであり造ったものではない。
だが、今は自分達で鍛冶ができる。
それはとても大きな成果であった。
「陛下……出陣の声を」
セバスにそう言われて、皆を見つめる。
ゴブリン、オーク、コボルト、リザードマンを中心にした軍勢。
これが今まで作り上げてきた戦力の形である。
「オーガを打倒しに行くぞ!!!!!」
「「「「「ぉおおおおおおお!!」」」」」
凄まじい雄叫びが木霊する。
地面が揺れるほどだ。
俺はその雄叫びを感じながら振り返り向かう先を見つめる。
ここに来て一番の強敵だ。
だが、絶対に負けはしない。