9、本の蟲
6限目、ロングホームルーム。特に用がなければ無くなる授業だが、なぜか今日はある。なにをするのかな。
私たち Aクラスの担任はいかにもベテランといった人で、年齢は低く見積もって60くらいだ。けど背筋はまっすぐ伸びて、ハキハキと喋ってくれる。私もいつか歳をとった時、こうだったらかっこいいなと思ってしまう。
「それでは、ロングホームルームを始める。まずはこの小冊子を見てほしい。」
そう言って、全員に小冊子が渡される。そのタイトルを見て、ざわざわと反応が湧く。
『新入生校外学習』
「アイシャ、校外学習だってよ!すごいね!」
「うん。楽しみ。」
思えば、私たちはまだ『新入生』と呼ばれていた。この行事を通してようやくアルベストの一員となり、『1年生』と呼ばれるようになるらしい。いわば、1年生になるための新入生総復習といったわけだ。
来週の金曜に行われ、ひとグループ4人。そして何よりの特徴は、班によってルートが違うことだろう。と言ってもクラスを跨げば同じルートのグループがあるので、ひとつのルートに5クラスがひとグループづつ挑むという形だ。つまり、私たちAクラスは必然的に頼られる立場になる。逆に言えばEクラスは心が軽いだろう。
「それでは校外学習での班を決めようと思うのだが、分かれることはできるか?」
いきなり私たちに話がまわってきた。私たちは全員で32人。8グループできることになる。
定員は4名。女子と男子ふたりづつ。
「ベルリア、良ければ私と組んでくれない?」
「もちろん…!」
「ありがとう。それじゃああとは男子2人なのだけど…。」
教室の後ろの方を見ると、なにやら人だかりが。レアン様を中心に形成されている。
「俺と一緒に組まないか?」
「よければ私とも…!」
「私だって!」
入れ食い状態だ。けどレアン様は人だかりをかき分けて出てしまう。
「ベルリア、申し出なくていいの?」
「え、でも…。」
「行ってきたら?」
そう言って肩を押すと、ベルリアはおずおずと進んでいく。ここで言わないと、あの子は後悔する。
「あの、よかったら一緒のグループになってくれたら嬉しいのですが…。」
「ありがとうございます。それじゃあお申し出に甘えて。ガルムも組まない?」
「ああ、分かった。」
これは予想外。一石二鳥とはこのことだろう。そして私たちはAクラスの3班となったのであった。
「僕は君と組みたかったんだよね。」
「はいはい。」
「私…ここにいていいのかな…。」
「なにを言ってるの。もちろんいていいに決まってるじゃない。」
他のグループが組み終わるまで談笑していると、先生が私たちの方に来て、プリントを配布する。3班の課題が書かれている、予定表のようなもの。
『ヒカミルシーを入手せよ。場所はヒューズニー山とする。』
「ヒカミルシーってなんだろう…。」
「私も知らないわ。」
「放課後、図書館にでも行ってみようか。」
「…ハーブだ。」
ガルムが口を割る。知ってるの?と聞き返すと、どうやら調べたことがあるらしい。
別名、『天使のハーブ』。特定の山にしか生息していない、珍しい品物。
「天使のハーブだなんて、アイシャにピッタリじゃない?」
「そうかもね。絶対見つけないと。」
そして時は流れ、私たちはヒューズニー山のふもとにいた。
「さすが高速移動装置。ちょっと魔力酔いはするけど便利ね。」
「2人とも行くよー。」
「はい!」
図書館での下調べでは、ヒカミルシーは頂上付近にあることが多い。まずは山登りというわけだ。そういえば、レイニーたちの課題は有名な超巨大迷路だった。そこから脱出できればクリアらしい。一部分の地図だけ渡されているのだとか。
前にベルリアとレアン様、後ろに私とガルムが並んで進む。
「ベルリア、頑張ってるわね。」
「俺はそれより、アイシャがヒカミルシーを取る方が滑稽だがな。」
「絶対言わないでよ?」
「はいはい。分かってますよ、天使様。」