2、ソーダ水のマナー
(はぁ…。)
心の中でため息をつきながら椅子に座る。私、結構頑張ってる。
まず昨日の夕食。仲良く話しているテーブルがあったから入れてもらったら、ものすごく気を遣われた。うちの寮はそれぞれの部屋にシャワーもあるが、地下に大浴場もあるので、そっちにも行ったのに話しかけられず。入学式でも逃げられ、教室へ向かう時もひとりだった。自己紹介がひと通り済んだ後も話しかけられず、先ほど行われた新入生講習もひとり。
待っているだけではダメだと、積極的に話しかけているはずなのに、やっぱり公爵だからかな。『天使様』も広まっているみたいだし。
(いやいや、諦めないで!まだ可能性はあるわ!)
そう思って教室を見渡す。もうすでにグループは作られつつある。自己紹介を本気で聞いていたおかげでクラス全員の名前は覚えた。私のようにひとりでいる子に話しかければいけるはず…!
ふと教室の隅の席で空を眺めている人が。確か、ガルム・ザイレアンという名前。男子だけど、今は性別なんて気にしている場合じゃない。行け、私!そう思って立ち上がるが、それと同時にガルム様は机に伏せてしまった。流石に寝ているところを起こせるほどの勇気はない。
「レイニー・ネイランドって言います。よろしくね。」
教室の中央ではレイニー様が明るく接している。あの方がよっぽど天使に近いと思うのだけど。確かレイニー様はクラスでただひとりの平民出身。けど決して気後れすることなく教室に溶け込んでいる。ほら、朗らかな笑い声が聞こえてきた。
(次は施設案内だったはず。おとなしく先生を待っていよう。)
「こんにちはっ!私、レイニー・ネイランドって言います。よろしくね。」
(え…?)
見上げると確かにレイニー様が笑顔を浮かべていた。
初めて、話しかけてくれた方。
「ええ、よろしくお願いします。私はアイシャ・セシルートと申します。」
「アイシャ、とても綺麗な髪飾りね。」
(名前で呼び捨て…!どこまで優しい方なの…!?)
「ありがとうございます。レイニー様も、素敵なリボンですね。」
「レイニー様なんてやめてよ。『レイニー』って呼んで!敬語もいらないよ。私たち、友達でしょ?」
「…分かった。」
(きゃあああ!数年ぶりに家族以外で砕けた会話をした気がする!友達だって言ってますよ!?)
そんな嬉しさで心が支配され、その後の施設案内はなにひとつ頭に入らなかった。けどレイニーは友達は多い。すぐに別の子が話しかける。
そうしてランチタイムになってしまった。今日はもう授業はない。図書館があったから、そこに行ってみるのもいいかもしれない。その前に昼食か。カフェテリアで食べるか、買ってどこか別の場所に持ち込むか。
(そうだ。レイニーと一緒に食べればいいのよ。)
「レイニー、一緒にカフェテリア行こ〜。」
「うん、いいよ!」
「私もいいかな。」
「もちろん!」
教室を出てしまった。どうしよう。誰か他に…そう思ってキョロキョロと見渡すと、最前列の最も廊下に近い席にひとり、私と同じように戸惑っている子が。あの子なら、いけるかもしれない。
「こんにちは、ベルリア様。よかったら一緒に昼食を食べない?」
よし、笑顔も動きもいつも通り。先ほどのレイニーを踏まえて、少し砕けた雰囲気で話せた。
ベルリア・ニーチェ様。伯爵家の長女で、確か動物が好きだとか言っていたはず…。長い髪をひとつに束ね、確かに賢そうな方だと思っていたのだ。
「アイシャ様…と、とても嬉しいです…!」
不安そうにしながらも、確かに歩み寄ってくれる。この方となら、仲良くできるかも。