14、エマージェンシー!
「…レアン様、何を勉強してるのかな。」
「なんだろうね。」
「どうでもいいな。」
あたたかな日差しが差す教室で、ベルリアは物陰からレアン様を見ていた。そして、その様子を私たちは観察している。
「私、ここ分かんなくって〜。」
「これは、この公式を使うと簡単に解けるんだよ。」
レイニーとレアン様が勉強しているのだ。そう、私たちは一昨日からテスト期間。アルベスト魔法学院に来て最初のテスト。どうせなら華々しくスタートを飾りたい。
「レイニーとレアン様って、本当にお似合いよね。」
「私もそう思った!」
ベルリアがそれに合わせて肩を落とす。なんでもない会話にさえ一喜一憂してしまうなんて。ベルリアを一生応援することを誓ったのだった。
テストは10教科。5日間に渡って行われる。私が1番得意なのは社会学だ。小さい頃から教え込まれてきた分野なので、ある程度自信がある。逆に、最も自信がないのは数学だ。あれは本当に、何を言っているか分からなくなる時がある…。
「そういえばガルムくんとアイシャも仲良しだよね。公爵家同士、波長が合うのかな。」
「波長が合うというか…婚約者だからな。」
「ええ。」
「あーそっかー…ぁぁああああ!?え!?聞いてない!」
教室中にベルリアの声が響く。いつから、どうやって、なんで、と質問が止まらない。ガルムが心底めんどくさそうな顔をした。
「なんで言ってくれなかったの!」
「…聞かれなかったから?」
またもやベルリアが落胆する。次からは報告するように言われ、適当に返事をしておいた。
でも確かに、婚約者らしいことを私たちは行なっていない。なにかやった方がいいかな。チラリとガルムの方を見ると、視線がかち合った。相変わらず綺麗な赤眼だ。
「見つめ合ってる…!」
そんなことないって。目を戻したが、いきなり顔に手が。そのまま再びガルムへ。
「アイシャ?」
「っ…!?!?」
これは完全に遊んでる。横目でベルリアの方を見ると、両手で口を隠し、目をこれでもかと言うほど輝かせていた。なんならクラスの生徒たちにも見られている。やめてやめて!注目されてる!なんとか放してもらうが、視線が痛い。ガルムは笑っていた。
そして時は流れ、テスト初日。今日から5日間はテストだ。隣にいるベルリアも憂鬱そうにため息をついている。なんだかいつもより重力が強い気がする。
今日行われる教科は魔法生物と魔法演習。ベルリアとしては魔法生物は自身の好きな教科として、良い点数を取っておきたいところ。勉強はしてきたが、やはり不安らしい。
「おはよう、2人とも。」
「おはようございます…!」
アレン様は勉強が得意だ。特に何か尖って得意というわけではなく、全ての教科がうっすらとできるタイプらしい。器用なのだろう。
実は、校外学習が終了してから飲んでいない。元々定期的に飲まなくても平気だったのだが、ガルムのはすごく美味しくて、なぜかまた飲みたくなってしまう。だから私は一昨日、ガルムを裏庭に呼び出した。
『っていうことなんだけど…。』
『…へぇ〜?』
けど、なぜかガルムは笑っていた。まさか、また何かやらなくてはならないのか。少し身構えていると、ガルムは条件があると言った。
今度のテストの全教科の合計得点で、俺に勝ったら飲んでいい、と。
ガルムと勉強したことはない。普段の小テストの成績も知らない。どのくらいなのだろうという不安はあったが、その条件に従うことにしたのだ。
特別頭がいいという訳ではないけど、私だって勉強した。だからきっと勝てるはず。
「おはよう、ガルム。」
「ん。」
ガルムだ。作り物の笑顔を向けてくるが、明らかに目が笑っていない。完全にやる気だ。どうしてそこまで飲まれたくないのだろう。意外と痛かったり、傷跡が残ったりするのかな。けどそうなのであれば言うはず。何か別の理由があるんだ。いつもみたいに遊んでいるだけなのかもしれない。
「頑張らないと…!」
「そうね。」
頭の中で、覚えるべき魔法式を繰り返し唱えた。