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13、それは一旦置いといて

 ハンカチで、被ってしまった蜂蜜を拭いつつ小走りで山を降りる。目の色もつく頃には戻っているはずだ。

 さあ、あと少しで転送装置に着く。と思った途端、大きな音が鳴った。

 まるで、雷が落ちたような。

「レアン…?」

 足を速める。2人はもうついているはずなのに。

「大丈夫かな…。」

「あいつは…大丈夫だろ。」


♢♢♢


「すまない。そこをどいてくれないか?」

 レアン様が笑顔でそう言う。だが、応じてはくれなさそうだ。

 私達は足止めを食らっていた。転送装置はすぐそこなのに、生徒たちが立ち塞がっている。聞けば、EクラスとDクラス、Cクラスらしい。Cクラスは既にヒカミルシーを持っていて、他2クラスは持っていない。Cクラスは運良く見つけることができたため、持っているとしてもごく少量。奪わないことを条件に、私たちの足止めに加担しているのだ。

 なんとなく、この課題が見えてきた。ヒカミルシーは少ししかない。そして各クラスひとつのグループのみが参加している。

 協力もできるし、対人戦にもなり得るのだ。


 冷静に考えれば、EクラスやDクラスは私たちと協力することが最善策。なのに歪んだ考え方で思いついていない。きっと、Bクラスにも断られたんだ。Cクラスはそれに気づいていながら加担している気がする。

「…私たちが求められていることは、下位クラスとの協力…。」

 けどあの人たちは、私のメモを踏みつけた。あれには私が図書館で調べた情報がたくさん載っていたのに。

 協力したくない。こんな人たちに渡したくない。

「ヒカミルシーを見つけたの!?すごいじゃない!さあ、それを私たちに…!」

「渡しません。」

「は?」

「これは、私たちの努力の証です。私だってたくさん調べました。レアン様が引っ張ってくださったから、何時間も登れたんです。ガルムくんの眼がなければ見落としていました。今だって、アイシャが危ないかもしれないのに…!」

 胸の奥がふつふつと熱くなって、止まらなくなって全身に流れていく。このままじゃ私の方が飲み込まれてしまいそうで、苦しくなる。

「ベルリア?大丈夫?」

「…霹靂(サンデクト)!」


バリバリバリッ!


 自分でも驚くほど大きな雷が背後に落ちる。代わりに苦しさはなくなった。魔法実践の授業では、こんなにできなかったのに。

「え…あ…。」

 急にふわりと浮いたような感覚がして、足がおぼつかなくなってしまう。レアン様に受け止められなければ倒れていただろう。焦点が合わない。ぐるぐると回っている気がする。

「もう知らねえ!(バーザー)!」

 ひとりを合図に、全員が魔法を放つ。どうしよう。ぎゅっと目をつむった。

防御(リュゲール)。」

 分厚い防御壁が展開される。レアン様だ。至って冷静に、あの人たちを見ている。ふと、視界がいきなり切り替わった。レアン様が私を抱えている。手に

「ごめんね、ちょっと我慢してくれる?飛ぶ者(バイエント)。」

 勢いよく駆け出して、空へ飛ぶ。すごい。この魔法は練習しないと使えないのに。授業でもまだ行なっていない。もちろん相手のクラスは飛べるはずもなく、魔法を撃つしかない。空で切り返すため当たらない。私もなにかしないと。けど、身体が動きづらいのだ。

 転送装置内に降り立ち、レバーが引かれる。私は座るしかできない。すぐに装置備え付けの防御魔法が展開される。魔法が撃たれるが、破れるはずがない。

「ヒカミルシーは、山の頂上に育ちやすい。小さな丸い葉なんだ。よく目を凝らしてね。」

 レアン様が情報を再び伝えていく。ようやくDクラスはメモをとり始めた。

「それと…、なんでこうなったのか、考えてみるといいよ。」

 光に包まれていく。安心からか、身体が横に傾いていく。



「ん…。」

「ベルリア!大丈夫?」

「ゆっくり起き上がって。」

 目を覚ますと、アイシャの心配そうな顔が目の前に。ここは学校の保健室。外は既に薄暗くなっている。ガルムくんから魔力枯渇だと告げられた。

 課題はクリアしたらしい。先生も認めてくれたそうな。そしてあの炎熊はボーナスポイント用だったらしい。私たちの制服は一種の魔道具のようになっていて、ある程度危険な状況に陥ると教師側に連絡が入るようになっている。万が一アイシャたちが倒れても、誰かが助けてくれたのだ。それにしても、2人だけで倒してしまうなんてすごいなぁ。

 ふと、アイシャがお茶を淹れてくれて、全員に渡る。甘く軽やかな香りだ。ひとくち飲んでみると、思わず驚いてしまった。ある程度高価な茶葉は使ったことがあるが、これはそれらを軽く超えている。

 とてもまろやかで優しいのに、奥の方には少し渋みもある。そしてなにより、魔力が満ちてくる。飲み物で魔力を補給するのは到底難しいとされているのに、確かに満ちている感覚がする。

「これは?」

「ヒカミルシー。『天使のハーブ』よ。先生がクリアの褒美だって。」

 ボーナスポイントも獲得して、ヒカミルシーのハーブティーも飲めて、結果オーライという形で、新入生校外学習は幕を閉じたのだった。

 ちなみに、ヒカミルシーを獲得できたのは私たちと、Bクラス、Cクラス、Dクラスだったらしい。

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