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11、求め続けよう

「ガルム…。」


「あぁ?うるせえんだよ悪魔が。」

 男子生徒がガルムの胸ぐらを掴んだ。ガルムは表情を変えない。

「お前なんて人間じゃねえのに。立場を弁えろ。」

「ちょっと、そんなやつに触って大丈夫?あなたまで悪魔になっちゃうんじゃない?」

 クスクスと笑い声が起きる。ガルムが何か言い返そうと口を開いたとき、レアン様が生徒の手に触れた。普段は明るい笑顔を浮かべるが、今は様子が違う。

「手を離せ。」

「あ?」

「手を離せと言っているんだ。彼は僕の大事な友人だぞ。」

 流石に王族の命には逆らえず、顔をしかめながらもガルムは下ろされていく。レアン様が、怒っている。金色の瞳が彼らをしっかりと捉えていた。この威圧感、さすが次期国王と言われるだけはある。私まで苦しくなってしまいそうだ。

「もう行こう。彼らに付き合う必要はない。」

「ちょっと…!いいの!?先生たちに報告するわよ!」

 私たちが荷物をまとめ始めるとEクラスは途端に焦りだす。もうこの人たちに私たちの話は通じないだろう。と、いち早く立ち上がったベルリアが息を吸った。

「どうぞ報告してください。それと、これヒカミルシーの情報です。もう私たちに構わないでください…!」

 声が震えている。けど、勇気を出してくれている。握った拳に、とても力が入っていた。

「伯爵ごときが口出ししないで!」

 ベルリアのメモが踏みつけられた。汚れてしまって、もうなにも読めない。ベルリアの表情が曇った。それをいいことに女子生徒が手を振り上げる。危ない。思わず目をぎゅっとつむる。

 だが、音は鳴らなかった。


「ベルリアに触るな。」


 低く、唸るように。レアン様が受け止めている。そのままベルリアの手を離すことなく、荷物を持って早々に歩き出してしまった。私たちも小走りでついていく。振り返らずに。


 再び森に入ったとき、ベルリアの手は離された。振り向くと、いつものレアン様である。

「ごめん、握られたくなかったよね。あと親しげに呼んでしまって、申し訳ない。」

「そんなことないです!むしろ嬉しくて…これからも、呼んでいただけたら…。」

「そうか、分かったよ。」

「そういえば、あの方たちはベルリアのメモを読めなくしてしまってよかったのかしら。有益な情報もあったのに…。」

「自業自得だな。いい気味だ。」

 よくないけれど、少しだけみんなで笑ってしまう。すると、ふと森の中に、一ヶ所だけ光が差している場所が。みんなも気づいたらしく、向かってみることになった。


 この小さな区間だけ格段に明るく、太陽が見える。日当たりが良い。日が当たっているところを縁取るように花が咲き、ここだけまるで楽園のようだ。すると、ガルムがなにかを指差す。指の刺された場所には、なにやら小さな植物が。

 薄く白みがかった青に、小さく丸い葉。たった3枚しか葉をつけておらず、1枚取って香りを嗅いでみると、ほんのり甘い。


「ヒカミルシーだ…!」


 図鑑の情報とも一致するし、なによりこの数の少なさがヒカミルシーの珍しさを物語っている。

 事前に支給された瓶に詰めて、改めてみんなで観察してしまう。全員、ヒカミルシーを見たのは初めてだった。思っていたより薄い色で、ガルムが気づかなければ分からなかっただろう。光に当たって瓶の中でさえもきらめいている。

「あとはこれを持ち帰るだけだな。」

「Eクラスの子達に見つからないようにしないと…!」

「そうね。瓶はレアン様が持つのがいいと思いますよ。」

「責任重大だなぁ。」

「けど、普段背負ってる『王族』っていう責任よりは軽いはずだぞ?」

「確かにそうかもね。分かったよ。」

 その時、なにかガルムがハッとしたように立ち上がる。なんだろう。そう思って私も立ち上がるが、よく分からない。レアン様が素早く瓶をしまった。

 なにか、大きな影がこちらに来ている。そのとき、どこからか液体が飛んでくる。おもいっきり被ってしまった。この匂い、蜂蜜だ。

「アイシャ!?大丈夫?」

「ええ。」

「またあいつらかな?」

「…おい、お前ら。」

 バチバチと音がする。熊のような見た目だが私たちよりずっと大きく、なにやら身体が炎に包まれている。これは、魔法生物の教科書に載っていた、 Aランクの魔物。山の中に生息し、蜂蜜が好物だが、人間も食らうことがある。

 炎熊(えんよう)だ。


 ダラダラとよだれを垂らしながら、ただ私を見ている。これが、この課題の本質だろうか。前髪から蜂蜜が垂れた。


「来るぞ、構えろ!」

 炎熊は、すぐそこだ。

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