10、ノーシグナル
「結構登ったんじゃない?」
「そうだな。」
「もうそろそろヒカミルシーがあってもいいはず…。」
クルルル…
「ふふっ、ベルリアったら。」
ヒカミルシーを探すため山に入り、かなりの時間が経った。お腹が空くのも当たり前のことなのだ。ベルリアは顔を赤く染めている。
ちなみに私はお腹の音が鳴ったことはあまりない。お腹に力を込めて音を鳴らさないようにしたり、満腹だと頭に錯覚させるからだ。私は『天使様』と考えれば音なんて止まる。
「お、みんな。とっても見晴らしがいいよ。ここで休憩にしよう。」
レアン様が手招きをして行ってみると、そこは突き出た岩場で、まるで展望台のようだった。眼下には街が広がり、天気が良いこともあって遠くまで見渡せる。事前に学校から配布された簡単な昼食を開けた。
内容としては、寮でも出るようなサンドウィッチ。ベーコン、レタス、トマトが挟まり、いつもの味だ。しかしこの景色が加わると数倍美味しく感じる。ベルリアも嬉しそうだ。
「頂上まではまだ少しあるか…。2人とも、疲れてない?」
「はい。レアン様が時折休憩を挟んでくださるおかげです。」
「私も、まだ歩けます!」
「よかった。疲れたら2人とも担いでくれるってよ。ガルムが。」
「なんで俺なんだよ。」
「あははっ。」
レアン様も冗談言うんだなぁなどと呑気なことを考えてサンドウィッチを食べていると、なにか背後に気配を感じる。でも動物ではない。なんだろう。
「あっ! Aクラス!」
「ほんと!? Aクラスよー!」
よかった。同じ学年の生徒たちだ。こちらに勢いよく走ってくる。一体、どこのクラスなのだろう。ガバッと手を掴まれ、ブンブンと振られる。
「初めまして。あなたたち Aクラスでしょ?私たちEクラスなの。会えてよかったー!」
Eクラス。学年で最もレベルの低いクラスだ。どうやらずっと私たちを探していたらしく、とても喜んでいる。
「で?ヒカミルシーは?」
「えっと…まだ持ってなくて…。」
「あら、そうなの?それじゃあまた夕暮れにここで集合ね。」
「え…?」
思わずガルムもレアン様と目を合わせている。なにか話が噛み合わない。ベルリアも頭をクエスチョンマークで埋め尽くす。
「…なんで集合なの?」
「決まってるじゃない。ヒカミルシーを渡すためよ。一応私たちも少しは探すけど、あなたたちの方が見つかる可能性は高いでしょ?」
ますます分からない。なんで AクラスがEクラスにヒカミルシーを渡さなければならないんだ?それに、なんでEクラスの他の生徒はそれを疑わないのだろう。
「なぜ、私たちがあなたたちにヒカミルシーを渡さなければならないのでしょう。」
「そんなの、私たちがEクラスだからよ。」
「そうそう。強者は弱者を助けるものだろ?」
「ヒカミルシーを手に入れないと評価が下がっちゃうらしいよ。」
「頑張ってね!応援してる!」
ひどい格差を見た。
なぜ私たちがそこまで協力しなければならないの。確かに Aクラスとして情報を共有することは分かる。私たちだって落としたいわけではない。協力することだって快く引き受けよう。けど、それでは私たちは損ばかりしている。ヒカミルシーは珍しいハーブだ。簡単に渡せない。一緒に協力して見つけたなら山分けするが、この条件では飲めない。ベルリアも同じ意見のようだ。
「ごめんなさい。ヒカミルシーは渡せないわ。あなたたちが見つけてこそ校外学習よ。」
できるだけ笑顔で、いつもの口調で言う。けど彼女たちは目を見開いた。
いきなり空気が変わり、張り詰める。
「え?渡せないの?私たちがEクラスだから?弱者には手を貸したくないって?」
「そういう意味では…」
「はぁ…『天使様』も所詮はこの程度か。」
「なんかガッカリしちゃった〜。」
「けど情報なら共有します…!」
「情報なんていらねえんだよ。あー、天使様も優しくないし、一気にやる気なくなったな。」
まずい。反感を買っている。校外学習の意義に気づかない。
このままでは『天使様』に傷がつく。私たちがヒカミルシーを採れなかった理由にされる。
「お前ら、頭沸いてんのか?俺らの成果をなにもしないお前らに渡すわけがねえんだよ。」
ガルムが怒っている。紅い瞳が鋭く彼らを刺した。