死国の冬
立ち並ぶ蜉蝣たちは、数が多すぎて
立ち並ぶその顔は、どれも同じようで
幼馴染の顔をそこに見出すことは、できなかった
『死国の冬』
春には音もなく流れていた死万十川が
軋む音を立てるように凍りついている
すべての景色は蒼ざめて
けっして降らない雪を待ち構えているようだった
死国の冬景色
降らない雪の代わりというように、白い蜉蝣が無数に舞っている
春に産まれた魂が夏には幼虫となり、秋に現世へと飛び立ち、冬にはここへ還ってくる
私は迷い込んだのだろうか
いや違う
死んだ幼馴染の尻尾を追ってここへ来た
弱々しい羽根が私を導いた
やって来た時には春だった
蒼白二色の虹がかかる
川のこちらと、向こう岸を繋ぐ
私は待っている
彼らが地上に降りて、集まるのを、ただ待っている
よそ者の私はけっして向こうには渡れない
渡っては行けない
虹を橋のようにして渡ることも
川を泳いで渡ることも
すべて不可能だとこの身で知った
時間旅行をするように
遠くの山も雪をかぶり
蒼白い
春には同じ色の小さな花で覆われるが
それでも雪景色には花とは異なる静けさがある
私がそれを眺めていると
ようやく蜉蝣たちが地上へ還ってきた
空の裂け目から降りてきて
しばらく雪のように舞っていた蜉蝣たちが
ひとり、またひとりと、対岸に降り立った
人間の顔をした虫たちは、ただじっとそこから、こちらを見つめる
表情のない顔で、ただ私が立つ岸の空虚を見つめている
みるみるうちに降り積もる雪のように、増えていく蜉蝣たちの中に、私は幼馴染の顔を探した
見つかるはずもないのに
私がここへ来てから
もう三回目の冬だ
私もいつか
あのように
来世へ旅立つため蜉蝣となって、あそこに立つなら
死ぬことなんて、怖くはないのに──
蜉蝣たちは、やがて
動きだす
前へその身をまっすぐ倒すと、氷の上へ落ちていく
ひとり、またひとりと──
体ごと氷の中へ墜落していく
彼らを食らって川面の氷が割れる
割れた氷は競り上がり、氷の城を築き上げ
静寂の世界に音が産まれる
おぎゃあ、おぎゃあとその音は、砕けるように響き渡り
緑色した水が迸る
次々と
蜉蝣の数だけの、無表情の飛び込み自殺が繰り返される
この自然現象
を何と呼ぶのか、私は知らない
来世へ旅立つための、虫たちの儀式なのか
それとも永遠に消えて無くなるための、最期の舞踏か
立ち並んでいた蜉蝣たちはきっと
生きていた時と表情が違う
どれもが半分だけ見開いた目で口を固く閉じ
死人特有の無表情で筋肉を固めているので
平等だ
美しいも醜いもない
ただにすべてが寒々しい
心の臓が
内側から凍りつくように
愛くるしかったあの桃色の笑顔はもう、どこにもなくて
見つけたとしてもわかりようがないのだろう
かっちゃん
かっちゃあああん
私とともに生きてくれると誓った
あのことばが今は意味もなく
ただ凍りつく死万十の川面に映らない景色のように
ただ時間だけが流れていく