99、さすらいの荒野の洞窟には
キングシルバーさんとのやり取りが終わると、白い髪の少女の姿をしたクイーンホワイトさんは、私の顔をジッと見ていた。
(全部、聞いてたよね)
私の方から話しかけるべきだろうけど、キングシルバーさんが彼女の失敗を暴露しちゃったから、どう話せばいいかわからない。
だけど、彼女が悪いわけではないと思う。確かに、結果的には、彼女の分身がダークスライムを浄化できなくて、逆に喰われることになったみたいだけど、そんな予知なんて、できるわけないもの。
「あの、ふわしろスライムさんは、どこに居たのですか」
(あれ? あ、そっか)
アルくんが、彼女のことをふわしろスライムと呼んだのは、キングシルバーさんの念話が聞こえてなかったからだね。私も、キングホワイトという名前は出したけど、クイーンホワイトとは言ってない。
「アルフレッド、私は、亡き青の国王が作ってくれた洞窟内の庭園を守っていますよ」
「さすらいの荒野の洞窟ですか」
「ええ、その一部ですね。かつての王城の地下です。そこには、極秘裏に、青の国王に仕えていた人間も少しだけ暮らしていますよ」
(地下に庭園があるの?)
アルくんは、一瞬、目を見開いていたけど、何かを思い出したみたいで、うんうんと何度も頷いている。
「では、今、ジュリちゃんの腕の中で眠っている個体も、共にその場所を守っていたのですね。燃えて潰れましたが、この土壁のすぐ向こう側あたりに、地下迷宮への入り口があったはずです」
「ええ、地上への出入り口は4つあります。その4つの出入り口から、地下庭園に通じる通路は、私の分身が守っています。ダークスライムと呼ばれる存在に変わってしまいましたが」
(あっ! だから、今は合体できないのね)
真っ白なスライムが話していたことの意味が、ようやく理解できた。私だけでなく、アルくんやお兄さんも気づいたみたい。
「ジュリちゃんが抱えるふわしろスライムは、5つだと言っていたから、貴女を入れて5体ということなんですね」
「私は、その数には含まれていないでしょう。今の私は、分身ほどのチカラはありません。出入り口に通じる4つの通路と、庭園に1体がいます。庭園にいる分身は、最も能力が高い個体なので、ダークスライムにはなっていません」
クイーンホワイトさんは、ほぼすべてのチカラを、分身に割いてしまったのね。地下庭園にいる分身が、そこで暮らす青の王国の生き残りと、本体を守っているのだろう。
(ん? 弱い?)
さっき、キングシルバーさんは、この場所にクイーンホワイトさんがいれば、人化するスライムは襲ってこないと言っていたけど、限界まで分身を作ってしまったのなら、話は変わってくるかもしれない。
「ジュリさん、ジワジワと迫ってきています」
ネイルが、私の不安を確信に変えた。
「ネイル、どうしようか」
「キングシルバーが言うように、当初の作戦が良いと思います。ここで迎撃してダークスライムが出てくると、人間を盾にするでしょう」
「やっぱり、そっか。じゃあ、攻撃は最大の防御だね」
私がそう言うと、話を聞いていた黒い子がニヤニヤしてる。その顔は、キングシルバーさんみたいな戦闘狂だよ。
「ジュリちゃん、何かあったのか?」
漁師のお兄さんは、赤の軍隊の物質スライムを持つ人達に促されて、私に尋ねたみたい。キングシルバーさんとのやり取りは、聞こえなかったのね。
「お兄さん、この場所が、人化するスライムに狙われてるみたい。ジワジワと近寄って来てるんだって」
「は? 俺にも、まだわからないが」
すると、ネイルが口を開く。
「もうすぐ、短距離転移が使える場所に入ります。そうすると、一気にワープすることが可能になります」
「スライムの短距離転移ということは、海辺の集落から緑の集落くらいの距離か?」
「それよりは短いです。オレ達にバレないようにするためか、徒歩で近寄ってきていますが、キララは大陸全体にサーチ範囲を広げているので、まるわかりです」
(だから、キララは話せないのね)
「大陸全体? マジかよ」
「はい。詳細サーチと簡易サーチを組み合わせています。詳細サーチは、スライム神の島くらいの範囲です」
「キララの能力って、半端ないな。だが、話している時間は無さそうだ。ジュリちゃん、俺達はどうすればいい?」
(えっ? 私に聞くの?)
みんなの視線が、私に突き刺さる。クイーンホワイトさんも、不安そうにしてるのよね。
「赤い丘に行くよ」
「ん? なぜ赤い丘なんだ?」
「赤い丘に、人化するスライムの棲み家があるみたい。レッドスライムって、自分達の場所に他者が入ってくることを嫌うみたいだからね。ここで応戦するより、良いと思うの」
「なっ? 人化するスライムは、かなり強いぜ?」
「大丈夫だよ。ね? アルくん」
アルくんに話を振ると、彼は力強く頷いた。ずっと剣術の練習をしてきたもんね。
「カールさんも、チカラを貸してください。ブラックさんも強いですが、使える属性は多い方がいい。改造スライムには、俺の攻撃が効きません。グリーンスライムには、カールさんの方が圧倒的に強いはずです」
「そうか、わかった。俺も行く。おまえらは、軍隊を赤の王国へ戻し、人化するスライムの襲撃に備えろ」
お兄さんがそう命じると、彼らは敬意を表するように武器をガチャッと鳴らした。そして、後方で待機している赤の軍隊の方へ、駆け出した。
「爆睡中のこの子は、どうしよう」
私がそう呟くと、クイーンホワイトさんが、真っ白な子に触れた。すると、真っ白なスライムは、白い髪の人の姿に変わった。
(ちっちゃいな……)
まだ、爆睡してるけど、2〜3歳の女の子の姿に変わってる。ぼくって言ってたけど女の子なのね。
「その子は、ジュリエッタに託しました。私にできる限りのチカラを与えました。だから……」
(えっ!?)
浮かんでいたクイーンホワイトさんが、崩れ落ちそうになった。慌ててアルくんが抱きかかえたけど、地面に付いた足が、黒く変色している。
(死んじゃう……)
そう焦った瞬間、ネイルが彼女に魔法を放った。でも、あまり改善しない。
「オレの浄化では効かないです」
(あっ、そっか!)
「クリアスライムの治癒魔法!」
私がそう叫ぶと、柔らかな光が、彼女を包んだ。彼女の子供からもらった色。ネイルが使ったウォータースライムの浄化ではなく、こっちの方が効く気がする!
(効いて! お願い!)
光が収まると、彼女の足は、元の色に戻っていた。




