96、ダークスライムと呼ばれるけど
「ジュリちゃん、ふわしろスライムは、青の王国の王宮で飼われていたらしい。亡き王の従魔だった種族だと思う」
アルくんが、褐色に濁ったスライムを凝視して、そう説明してくれた。
「アルくんのお爺様の従魔? でも、真っ白だったのに、どうして褐色になったのかな」
「ふわしろスライムは、人間が出すゴミを吸収するんだ。たぶん、人間の悪意や憎悪も吸収してしまう。亡き王が心の汚れを取るスライムだと言って大切にしていたと、父上から聞いたことがある。見るのは初めてだけど」
(もしかして……)
この子が、ダークスライムになってしまったのかな。身体が褐色になった後は、また、どんどん膨れていく。あのドロドロは、成れの果てなのかという気がしてきた。
『ぼく、またゴミだらけで、あたまがボーッとしてきたよー。アルフレッド、たすけてよー』
(アルフレッド?)
「ジュリちゃん、何とかできないかな」
「アルくん、えーっと?」
「ジュリさん、水がレベル5になったから、浄化できます」
(さすが、ネイルだね)
「そっか。やってみるね。ウォータースライムの浄化魔法!」
ぶくぶくと膨れ上がっていくスライムに左手を向けた。左手から放たれたキラキラとした光が、スライムに降り注ぐと、スーッと小さくなっていき、真っ白なスライムに戻った。
『わぁい! すごいね、ジュリエッタ!』
(あれ? また、名前……)
「ねぇ、どうして、私やアルくんの名前を知ってるの?」
『ん〜? わかんない。あたまのなかに、みえる』
「名前が見えるの?」
『れきしがみえるよー。ぼくたちのおせわをするにんげんが、しんじゃったから、ぼくたちは、こまってたんだ。ゴミをすっちゃうからー』
「えっ? ぼくたちってことは、真っ白なスライムは何体もいるの?」
『ぼくたちは、たぶん5つだったよー。くっついて、ひとつになれるけど、いまはできないよー』
「あと、4体いるの?」
『うんー、そうだとおもうよー』
(あれ? おかしいよね)
アルくんの12歳の誕生日に、スライム神の洞穴で、青の王国の亡き王のホログラムのような映像を見た。
あの映像の中では、亡き王が飼っていたスライムだとは言ってなかった。それどころか、亡き王は、ダークスライムを滅ぼして、人化するスライムを大陸から追い出そうとしたんだよね?
ダークスライムは人間の悪しき心から生まれたって言ってたし、討伐を失敗して、亡き王の側近達は次々とダークスライムに飲み込まれた結果、国全体が潰されることになったとか。
緑の帝国が、白い髪の人の前世の記憶を利用して、悪いことを始めたから、ダークスライムが生まれたとも言ってたっけ。
「キミたちは、ダークスライムじゃないよね? いろいろな物を吸収してしまうみたいだけど」
『ぼくたちは、ダークスライムっていわれるよー。でも、ぼくたちのおせわをしていたにんげんは、くろいスライムを、ダークスライムっていってたよー』
(黒いスライム?)
私は、悪気はないんだけど、黒い髪の人化したスライムの顔を見てしまった。
「ジュリちゃん、私はダークスライムじゃないぞ。人間がダークスライムと呼んでいるスライムは、二種類いるみたいだな」
黒い髪の子は、漁師のお兄さんの方に視線を向けた。あっ、説明しておく方がいいかな。
「お兄さん、この子は、私が6歳の頃に、私の部屋に泊まりに来ていた小川のスライムだよ。赤い子だったんだけど、大人になると黒くなったの」
「そうか。ジュリちゃんの部屋には、たくさんの友達が来ていたからな。じゃあ、俺も会ってるかもしれないな」
「カールが、小川でよくサボっていたのを見てたよ」
「いや、サボってたんじゃないぜ。あれは治療というか休憩だな」
お兄さんと黒い子が喋っていると、また、真っ白な子がどんどん褐色になっていく。
「わっ! また膨れちゃうね。アルくん、どうすれば吸収しないの?」
「俺にはわからないよ」
『ジュリエッタ、なんとかしてー。また、あたまがボーッとしてきたよー』
「えっ、大変! ウォータースライムの浄化魔法!」
私はまた、ネイルの能力を使った。だけど、何回もできないよね。マニキュアの色が少し薄くなってる。まぁ、塗り直しをすればいいんだけど。
『わぁい! ジュリエッタ、ありがとう』
そう言うと、真っ白になったスライムは、私に向かって、ぴょんと飛び跳ねてきた。
(あっ、キャッチしちゃった)
「あれ? キミの身体って、他のスライムとは違うね。弾力があるというか、ギュッと詰まってる感じがするよ。こんなに小さいのに、わりと重いのね」
『ぼくは、ふるくなってきたのかなー。いっぱいゴミをすったからかもー』
(あっ! そっか)
青の王国が滅んだのは、たぶん20年くらい前のことだから、子供のスライムに見えるけど、この子は大人だよね。
「ジュリさん、来ます!」
ネイルが、さっき赤い髪の人化したスライムがいた方向を睨んでる。
「ジュリちゃん、スライムじゃないよ。待ち伏せしていた人間が来る。どうする?」
「緑の帝国の軍隊?」
黒い髪の人化したスライムは、好戦的な笑みを浮かべている。でも、スライムは基本的に、人間に手出しをしない方が良いよね。
「ジュリちゃん、これは、俺達の問題だから……」
「違うよ。私の問題だよ」
お兄さんの言葉を遮るように否定すると、彼が少し驚いた顔をしてる。お兄さんは、7歳までの私しか知らないもんね。
『緑の帝国の軍隊、止まりなさい!』
私の言葉を、ネイルが念話に変えてくれる。
『止まらないと、壁を作るよ!』
私は、左手で真っ白なスライムを抱えて、右手を前に出した。緑色の髪色の人達が見えてきた。止まる気はなさそうね。
「イエロースライムの土魔法!」
術名を叫ぶと、右手から放たれた光が広がり、さっきキングシルバーの盾が塞いでいた場所に、巨大な土壁が出現した。
「うぉっ! 何だ? 今の白い髪の少女は?」
「土魔法を操るんだから、イエロースライムだろ。人化するイエロースライムは、まだ他にもいたのか?」
ガッガッと音がする。土壁を壊そうとしているみたい。だけど、ネイルが動いてたから、無理だと思うよ。壁で見えないけど、バタバタと人が倒れる音が聞こえる。
「何をしたの?」
「ジュリさんの術に、ピンクスライムの状態異常を重ねました。土壁を壊そうとして触れると、状態異常の睡眠を受け、深い眠りに落ちます」
「ネイル、すごいね! かしこい!」
私が褒めると、ネイルの頬が真っ赤になった。




