95、真っ白なスライム
「なぜ、赤の王国の人間が魔法を使うんだ……」
私達の方を見ていた赤の軍隊は、キララの気球の向こう側から放たれた爆炎が、見えたみたい。自分達の仲間が魔法を使ったと思って、混乱している。
「あれは、人化したスライムだ。ジュリちゃんが……いや、ジュリエッタ王女が防御してくれなかったら、俺達は甚大なダメージを受けたぞ」
漁師のお兄さんがそう言ってくれたことで、赤の軍隊の人達は、やっと状況が理解できたみたい。
「こんな盾の魔法なんて、水とは別の……」
私のことをスライムだと思っていた人達が、大混乱してるみたい。キングシルバーさんの盾は、さらに大きくなって、完全に人が通れる道を塞いだ。これなら、赤の軍隊は、絶対に進軍できないね。
(睨んでる……)
赤い髪の人化したスライム達は、爆炎が跳ね返されたことが悔しいみたい。すっごい顔をしてるけど、その場から動かない。盾の高さは、5メートルもないから、人化したスライムなら、飛び越えられそうだけど。
『ジュリさん、オレが麻痺毒を使っています』
(そうなんだ。ネイル、すごいね)
そう心の中で呟くと、ネイルは少し照れたみたい。魔導士のローブのフードを深く被っちゃった。
(ふふっ、かわいい)
爆炎が跳ね返っても、赤い髪の人化したスライム達にはダメージは無さそうだけど、付近のいろいろな物が燃えている。この盾が大きく広がったのは、赤の軍隊の人達を守るためね。イヤリングを通じて、キングシルバーさんが操っているのだと思う。
「ジュリちゃん、巨大な盾も、物質スライムの能力だな? その乗り物は、白いテーブルだったキララか?」
漁師のお兄さんは、私達のすぐ近くにまで近寄ってきた。2年くらい会わなかったけど、お兄さんってこんなに大人だっけ?
「うん、キララだよ。この盾や、さっき水で火消しをしたのは、もう一つの物質スライムの能力なの」
「二つ目の物質スライムを無事に得たんだな。よかったよ。盾と水を操るのか?」
「それだけじゃないよ。ネイルは、いろいろなスライムのチカラを借りることができるの」
「すごいな。ジュリちゃんの前世の知識が加わって、未知の能力が生まれたのか」
お兄さんと話している声は、近くにいる人達に聞こえるから、私のすぐ近くにいる子がネイルだとは言えないな。赤い髪の人化するスライムにも聞こえるだろうし。
ドドドドッ
(ん? 何の音?)
赤の軍隊の人達が何人も転んでる。お兄さんも、少しよろけた。キララの気球のカゴにいる私達には何も感じないけど、もしかして地震?
「うわぁっ! ダークスライムだ!」
赤の軍隊の人達が、こっちを指差して騒ぎ始めた。振り返ってみると、盾の向こう側の地面が波打ってるように見える。
(あれ? いない)
私を睨んでいた赤い髪の人化したスライムが消えてる。
「ジュリちゃん、背後の盾も長くは持たないぞ。ダークスライムは、あらゆる物を溶かす」
お兄さんは、赤の軍隊を下がらせている。
「ダークスライムって、どこにいるの?」
「あっ、そうか。ジュリちゃんは知らないんだな。スライムの形をしているわけじゃない。地面に広がっている褐色のドロドロした物が、ダークスライムだ」
(えっ? これ全部?)
「ジュリちゃん、私が減らす」
黒い髪の人化したスライムが、キララから降りようとしたけど、ネイルに捕まってる。
「お兄さん、ダークスライムって、属性は闇? どうやって攻撃してくるの?」
「属性? それはわからない。覆い被さるんだよ。ダークスライムに触れると、髪が黒くなる。俺達は大丈夫だと思うけどな」
「わかった。じゃあ、ひゃ〜」
ネバネバした物体が、盾をのぼってる。乗り越える気みたい。だけど、襲ってくる殺気みたいなものは感じない。
乗り越えてきそうなネバネバに向かって、黒い髪の人化したスライムが、黒い光を放った。ネバネバは、向こう側に飛び散ったけど、ダメージは無さそう。飛び散った場所にいるネバネバの中に落ちただけみたい。
「ジュリちゃん、私の魔法では、反転が起こる前に飛び散ってしまう」
「彼の闇魔法は、強すぎるのです。それに、スライムが放つ術は、ほとんどを吸収してしまうみたいです」
ネイルがそう分析してくれた。ということは……。
「じゃあ、私がやる。盾を消して撃ち込めばいいよね」
私がそう言うと、赤の軍隊の人達は、慌て始めた。だけど、お兄さんは、私を信じてくれてるみたい。
「ジュリちゃん、任せていいんだな?」
「できるかわからないけど、私は、ダークスライムには襲われないと思う。まずくなったら、キララが転移を使うからね。お兄さん、一応、キララに触れておいて」
「わかった。皆は、あと10メートル後退しろ!」
赤の軍隊の一部の人達は、お兄さんの近くに残ってる。他の人達は、50メートル以上後退したけど。
「じゃあ、行くよ〜」
私は、右手を盾の方に向けた。
「ブラックスライムの闇魔法!」
術名を叫ぶと、私の手から黒い光が放たれた。盾が避けるように光の通り道を開けたから、盾の一部には隙間ができた状態になってる。
ドロドロしたスライムに黒い光が当たると、白くて強い光に変わった。これが反転したってことだっけ。
白い光がドロドロにどんどん広がっていく。すると、ドロドロが、ボロボロの砂のように変わって、風に流されていく。
「ジュリちゃん、浄化魔法なのか? ダークスライムが枯れるように消えていくぞ」
「使ったのは、闇魔法だよ。黒っぽいモノに使うと、効果が反転するみたいなの」
「聖魔法ってことか? こんなことができるなら、ダークスライムは脅威ではない」
お兄さんは、消えていくダークスライムを、まだ注意深く睨んでいる。そういえば、赤い髪の人化したスライムが、盾の向こう側にいるはずだもんね。
(あれ? 白い子供のスライム?)
キョロキョロしている真っ白なスライムを見つけた。
「あっ! ふわしろスライムだ!」
アルくんも、真っ白なスライムを見つけたみたい。
「珍しい子だね。なんだか挙動不審だけど」
『ぼく、ちいさくなった。どうして? ゴミがきえたよ』
「ねぇ、キミは、どうしてここにいるの? 小さくなったってどういうこと? ゴミって何?」
私がそう尋ねると、真っ白なスライムは、驚いたように、ぴょんと飛び跳ねた。そして、こっちにポヨンポヨンと近寄ってきたけど、だんだん色が濁っていく。
『わーん! またゴミが、いっぱいだー』
盾がスッと消えた。キングシルバーさんが消したみたい。
すると、白いスライムは、一気に褐色に濁っていった。
(何? この子?)




