93、外出できない子供たちの髪色を変える
「ピードくん、景品はどこに置けばいい?」
アルくん達は、プールの近くにいた。
ピードくんとサフィさんは、複雑な表情をしていた。その近くには、10歳前後の子供達が集まっている。大きな子たちには、大陸の状況を教えたのね。
「ジュリちゃん、俺も行くぞ!」
「へ? どこに?」
「ピードはダメだ。この集落の子供達を笑顔にするのが、今のピード達の役割だぞ」
「俺達は、アルさまを守るのが役割だ!」
集まっている子たちは、青っぽい髪色の子ばかりだな。アルくんが説得中みたい。
「ピード達が、この島を離れたら、誰が小さな子供達を守るんだ?」
「スライムが守ってくれる! 俺達は……」
すると、キララがピードくんの言葉をさえぎる。
「キミたちがいると、邪魔なんだよ!」
いきなり強い口調で話した見知らぬ子に、子供達は怪訝な表情を浮かべた。キララは、長老様達の前でしか、この姿を見せてなかったからね。
「何だ? おまえ。ジュリちゃんの後ろをついて歩いてたけど、ここの子じゃないよな?」
「ボクは、キララ。ジュリちゃんを守る物質スライムだ。この集落に食料を運んできたのも、ジュリちゃんがボクの能力を使ってやったことだよ」
「騙されないぞ! 人間じゃないか。物質スライムがそんな人間みたいな姿になるわけが……えっ?」
キララは、カゴの形に変わった。そして、小舟に変わってプールに浮かんだり、気球に変わってふわふわと戻ってきたりと、次々と姿を変えて見せた。
「ピードくん、キララは、いつもはこんな意地悪なことは言わないよ。でも、アルくんが困っていたから、キララが悪役になってる」
「えっ? ジュリちゃん、俺は……」
「私からも言うよ。今のピードくん達は、大陸に行っても、私達の負担になるんだよ。今、大陸は戦乱中なの。少し前に、私のお父さんがスライムに殺されたんだ。そのスライムは、緑の帝国の人間のフリをしていたみたい。だから今日、緑の帝国に向けて、新たに進軍が始まるの」
「な? なぜ、ジュリちゃんの父さんが殺されて、進軍って、何? 全然わからないよ」
ピードくんが混乱しちゃった。
「ジュリちゃんの父親は、赤の王国の国王だからだよ。新たに就任した国王が、緑の帝国の帝王を討とうとしている。だから俺達は、大陸に行くんだ。首謀者は、人化する大陸のスライムだからね」
「えっ、でも、俺も……」
「ピードは、大陸の人化するスライムを殺せるのか? 同時に、何十体も襲いかかってくるぞ」
アルくんは、静かだけど厳しい声で、そう話した。
「俺には、無理、です。でも、アルさまにそんな危険な……」
「俺達が行かないと、大陸は滅ぶよ。大陸の狂ったスライムに踊らされて、人間達は憎悪のかたまりになっているからね。きっと、スライム神が、すべてを消し去ることになる。青の王国の再建なんて、もうできなくなるんだ!」
アルくんの強い言葉で、彼の周りに集まっていた子供達は、怯えた表情をしている。
「アルくんが、この話をしたのは、みんなのことを認めているからだよ? ちゃんと理解する能力があると認めてないなら、こんな話はしない」
「でも、ジュリちゃんは、俺と年齢が変わらないじゃないか。あっ、でも、王女さまだけど……」
キララが、また人間の姿で、私の隣に立った。
「ジュリちゃん、早く景品を置いて、大陸に行こう。もう、進軍は始まったみたいだよ」
「キララ、ここに出して。みんなに運んでもらうよ」
私がそう言った直後、キララは、ピードくんの前に、50個以上の景品をドサッと出した。
「えっ? どこから……」
(それは、私も知らないよ)
「ピード、物質スライムは成長するんだよ。キララは、おそらくこの島にいる物質スライムの中で、頂点にいる。スライムは、序列に厳しい種族だ。つまり、ジュリちゃんの物質スライムは、長老様達に次ぐ存在なんだよ」
アルくんは、ピードくん達を諭すように、優しく話した。子供達の不安を和らげたいのだと思う。
(あっ、そうだ。ネイルも出てきて)
ネイルを呼び出すと、すぐに姿を現した。当然、子供達は、驚いてる。
「オレは、ジュリさんを守る物質スライム。あらゆる魔法を借りるチカラがある。このプールは、オレの能力を、ジュリさんが使って作ったんだ」
ネイルは、キララよりも小さいけど、クールな魔導士風だから、子供達は少し怯えてるかも。
「この集落に、髪色のせいで外に出られない子がいるよね? ネイルが、髪にマニキュアをするよ。ひと月くらいなら、色が変わったままだと思う」
私がそう提案すると、サフィさんがすぐに動いた。
少し待っていると、白い髪の3歳くらいの男の子を連れて戻ってきた。その後ろから、青い髪の小さな子も来る。
「何色がいい? 赤、黄、青、緑の4色しかないけど」
「ぼく、黄のおうこくで、うまれたから、きいろがいい」
白い髪の男の子がそう言うと、ネイルは男の子の頭に手をかざし、二度、光を放った。ベースコートと黄色かな。長持ちの銀ラメは使ってない。たぶん、その方が、自然に色落ちするのかも。
そして、何人かの小さな子の髪に、ネイルがヘアマニキュアをしてくれた。髪色が変わると気分も上がるみたい。子供達は一気に元気になってる。
「ジュリちゃんが用意してくれた景品の争奪戦で、プールに浮かべた札の釣りをするぞ。みんな、プールサイドに行くんだ」
ネイルがヘアマニキュアをしている間に、アルくんがピードくん達に、言い聞かせたみたい。ピードくんは、気持ちを切り替えて、お楽しみ会の進行を始めた。
私達は、倉庫に行くフリをして、そのまま集落の門へ向かった。
(あっ、長老様たちが……)
門の前には、スライム達が何体か並んでいる。
「ジュリ、アル、気をつけて行っておいで」
「はい、連れてきた二人や、海辺の村長には、俺達の計画のことは話してません」
「うむ、承知した。海辺の村長には黙っておく方が良いじゃろ。彼女が知ると、止めるはずじゃ。彼らに話すと、伝わってしまうかのぅ」
「じゃあ、俺達は、買い物に出ていることにしてもらえますか?」
「アルくん、私は売りに行くんだよ?」
「ほほっ、そうじゃの。ジュリの商売の護衛で、アルとブラックが付き添っていることにしようかのぅ」
私達が頷くと、長老様は、優しい笑みを浮かべてくれた。
話をしている間に、キララは、気球の姿に変わった。私が乗り込むと、アルくんと黒い髪の人化したスライムだけじゃなく、ネイルまで乗ってきた。
「ネイルも乗るの?」
「はい。このままの方が、緊急時の対応ができます」
(なるほど)
「じゃあ、出発だよ!」
そう声をかけると、私達を乗せた気球は、キララの転移魔法の光に包まれた。




