92、山の中の集落と不思議なイヤリング
「おー、懐かしいな」
私達は、キララの転移魔法で、山の中の集落の門の前に到着した。アルくんが懐かしいと言って、笑顔を見せている。
(あっ、門番の子たち……)
アルくんに気づいた門番の二人は、彼の元へと駆け寄り、敬意を表するように頭を下げた。
「ピードとサフィかな? 大きくなったね」
「はい! アルさま。お会いできて嬉しいです!」
(何? その態度)
ピードくんは、私には偉そうにするのにな。まぁ、青い髪のピードくんは、アルくんに仕えることになるんだと思う。水色の髪のサフィさんも、青の王国の人なのかも。
ピードくんは私と同じくらいで、サフィさんはもう少し年上に見えるけど、アルくんよりは年下かな。
「アルくん、ピードくんは、私がその名前で呼んだら、物質スライムを得たからピードルだって言うんだよ。すっごく、しつこいの」
「あはは、そうか。だが、ピードという名を使う方がいい。青の王国を再建するまではな」
「はい! わかりました!」
ピードくんは、アルくんには良い返事をするのね。サフィさんは、戸惑っているみたい。
「アルくん、二人とも剣を授かったみたいだよ。でも、剣術の練習をしないと一人前にはなれないから、しばらくは修行しないといけないよね」
「俺の剣とは違って、すぐに使えるかもしれないよ。どんな剣か、見せて」
「はい! よろこんで!」
(居酒屋みたいな返事ね)
「アルくん、とりあえず集落に入ろうよ。私は、配達があるんだからね。それに、彼らが困ってる」
オレンジ色の髪のオジサンは、さっきまでとは違って、急にイキイキとしてる。そういえば、子供好きって言ってたっけ。
茶髪のタームさんは、集落の中を珍しそうに見てる。彼がいた頃よりも、人間の子供が増えたから、見慣れない小屋も増えたのかな。
「ジュリちゃん、今日も、ありがとうね」
集落の中へ入っていくと、子供達の世話をしている人化したスライムが、話しかけてきた。
「いえ、預かってきた食料を、先に倉庫に入れますね。たぶん入り切らないと思うけど」
私は、子供達に囲まれるアルくんと分かれて、倉庫の方へと歩いていく。人間の姿をしたキララと、黒い髪の人化したスライムが、私についてきた。
「キララ、麦粉から出して。棚に収まらない分は、棚の前に積み上げればいいよ」
「はーい。ジュリちゃん、麦粉は問題ないけど、加工肉が無理かなぁ。野菜も山積みになるよ」
キララが次々と出していく。麦粉は棚が大きいから、棚の前に10袋ほど積み上げただけで収まった。赤の集落の加工肉は、オバサンが注文を間違えたのか、氷の魔法陣のある棚には、全然収まらない。
「加工肉も、とりあえず棚の前に山積みでいいよ。野菜は、まぁ、通路が狭くなってもいいから、適当に」
(わざとかな?)
倉庫に入り切らない分は、早めに食べるはずだから、オバサンは、多すぎる量を注文したのかもしれない。
「まぁまぁ、どうしましょう」
「これ以外に、海辺の村長が焼いたパンと焼き菓子も、たくさん預かってますよ。パンと焼き菓子は、食堂でいいかな?」
「ええ、長老にお願いして、氷の魔法陣を広げてもらわないといけないわね。ジュリちゃん、キララくん、たくさん、ありがとうね」
「キララは、力持ちだから大丈夫ですよ」
私がそう言うと、キララは、えへんと胸を張ってる。
(ふふっ、かわいい)
私達はそのまま、食堂へと歩いていく。
「ジュリちゃんだ! 今日は最初から白い髪だ!」
(よく覚えてるわね)
アルくんを取り囲んでいた子供達の一部が、私の方に寄ってきた。だけど、人懐っこい子は、ほんの一部みたい。まだまだ、怯えていて動かない子供の方が多いのね。
「ジュリちゃんが、海辺の村長さんが焼いたパンと焼き菓子を持って来てくれたのよ。あっ、そのテーブルの上にお願いできるかしら。あと、倉庫も入り切らないくらいパンパンになったわ」
彼女は、子供達に聞かせるためか、食事を作ってくれる人化したスライム達に、大きな声で説明した。
倉庫を見に行く子供もいる。大陸のスライムのことだけじゃなく、食料不足も心配していたのね。
キララは、指定されたテーブルの上に、パンと焼き菓子を出した。他のテーブルにも置けばいいのに……。
(崩れそう……)
あまりにも大量だから、食堂にいた子供達は大騒ぎしている。たぶん、キララは、パンも焼き菓子もたくさんあることを見せたかったのね。
私がそう考えていると、キララはニコニコしていた。当たりみたい。
「保存袋じゃなくて、普通の袋に入ってるよ」
「まぁまぁ! 長老に、パンの保管場所を作っていただかないといけないわね」
「みんなが、たくさん食べればいいんだよ。麦粉も、棚に入り切らなかったし。あと、お楽しみ会の景品はどこに出せばいいかなぁ?」
「それなら、ピードくんが準備してましたよ。ジュリちゃんが作ってくれたプールの近くに、小屋ができているわ」
「じゃあ、そこに持っていくね」
食堂を出て、プールの方へと歩いていると、長老様が突然、目の前に転移してきた。
「ジュリは、お楽しみ会には参加しないのかな?」
「あっ、イケメンさんから話を聞かれましたか」
「うむ。危険なことはせぬようにと言いたいが、ワシらは、直接の干渉はできない決まりじゃ」
長老様は、心配でたまらないという表情をしている。いつものような、のんびりとした雰囲気はない。ずっと、小刻みにプルプルと震えてる。
「キララもネイルもいるから、大丈夫です。それに、アルくんと黒い子も一緒だから」
「ふむ、そうじゃな。これをジュリに渡すようにと預かっておった。キングシルバーの分身にワシが少し手を加えた物じゃ。ポケットにでも、入れておいてくれるか」
長老様が触手を伸ばし、私に、銀色のしずく型の小さなアクセサリーのようなものを差し出した。受け取ると、形状が変わった。
「イヤリングに変わった!?」
「ほう! 面白いのぅ。身につけられるか?」
私は、右耳につけてみた。でも、全く重さを感じない。
「これで、付いてますか?」
「ふむ。耳飾りのようじゃのぅ。それだとよく聞こえるじゃろ。大陸まで離れても、キングシルバーの声が聞こえるはずじゃ」
「それは心強いです。あれ? イケメンさんは?」
集落の中には居ないように見える。
「ワシらは、大陸には干渉できぬが、スライムの棲む小島なら話は別じゃ。分身の居ない小島に分身を置いてくると言って、今朝早くに出て行ったぞ」




