91、キララの練習
翌朝、私は早起きして、地底湖の水を汲みに行った。キララが、水瓶の水が少なくなったと言ったためだ。
オバサンの家に戻ってくると、黒い髪の人化するスライムが来ていた。アルくんと何かの打ち合わせをしていたみたい。
「ジュリちゃん、おはよう」
「おはよう。今日のお楽しみ会には、イケメンさんは行かないのかな?」
私がそう尋ねると、黒い髪の人化するスライムは、首を傾げている。知らないのかも。
「ジュリちゃん、イケメンさんは先に行ってるんじゃないかな? あの話は、聞いた?」
アルくんは、暗い表情をしている。ほんと、優しいよね。赤の王国の国王が殺されたことを、アルくんから私に伝えるはずだったみたいだけど、言えなかったらしい。
「うん、聞いたよ。村長さんには内緒にしておくみたいだね」
私がそう答えると、アルくんは、うつむいてしまった。
「ジュリ、私に何を内緒にするって?」
(ひゃっ!)
海の方を向いてしゃべっていたのに、朝ごはんを作ってたオバサンに、聞こえてしまったみたい。
「えーっと……」
どう答えようかと考えていると、アルくんが口を開く。
「海辺の村長ではなく、オレンジ色の髪の村長のことですよ。彼は、いろいろなことに怯えているみたいですから」
「なんだ、ジジイのことかい。子供の世話は好きみたいだけど、子供に気を遣われているなんて、情けないジジイだよ」
「俺達は、子供じゃないですよ」
アルくんが即座に反論したことで、オバサンは苦笑いを浮かべていた。オバサンからすれば、もうすぐ13歳になるアルくんも子供に見えるんだと思うよ。
「まぁ、山の中の集落の子供達よりは、アルやジュリは、大人だね。私の国では大人は15歳からなんだけどね」
「そうなんですか? 国によって成人の基準が違うのですね。青の王国では、12歳で大人です」
(アルくんは、ギリギリ大人なのね)
「そういえば、バラバラだね。緑の帝国では、帝王になれるのは18歳からだ。赤の王国は、10歳だったかね」
(私は、ギリギリ子供なのね)
「ジュリちゃんは、あと一年も経たないうちに、成人なんですか!」
「あぁ、そういうことになるね。統一すれば、わかりやすいのにねぇ。まぁ、白い髪の子は、前世の記憶が戻れば、中身はグーンと大人になる子も少なくないけどね」
アルくんが話をごまかしてくれたことで、変な方向に会話が進んだ。そんな話を聞いていると、オレンジ色の髪のオジサンと、飛行の物質スライムを持つ茶髪のタームさんが、朝食を食べに来た。
(別人みたい!)
オレンジ色の髪のオジサンは、老人っぽい雰囲気だったけど、昨日、織物の工房で受け取ってきた服を着ていると、オバサンと同じくらいの年齢に見える。
タームさんは、綺麗な服を着ているけど、見た目の印象は変わらない。
「ジジイ、似合うじゃないか。誰かわからなかったよ」
「そうか? 新しい服は、慣れないのじゃが」
「山の中の集落は、ジジイがいた頃とは違って、大勢の子供がいるんだ。大陸からの襲撃者のせいで、心に深い傷を負っている。なんとかしてやっておくれ」
「襲撃者は、スライムなのか?」
オレンジ色の髪のオジサンは、ブルっと震えた。
「安心しな。イケメンが、昨夜から山の中の集落に泊まっているよ。彼は、近くの小島に住む人間だが、強いからね。それに、大型船は来てないから、人間が襲撃してくることはないよ」
オバサンの話を聞き、彼は、ホッとしたみたい。大きなスライムを怖がる姿を見たから勘違いしていたけど、彼は人間の方が怖いのかもしれない。彼から物質スライムを引き剥がしたのは、緑の帝国の人間だ。
朝食を食べていると、オバサンが、大量のパンを出してきた。焼き菓子もあるみたい。
「ジュリ、これを持って行っておくれ。保存用の袋は使ってないから、すぐにキララに収納させてくれるかい?」
「はーい、わかったの。キララ、オープン」
呼び出すと、キララは人間のような姿で現れた。そして、大量のパンや焼き菓子を一瞬で収納すると、私の席の隣に、澄まし顔で座ってる。
「ん? キララも朝ごはんを食べるのかい?」
「ボクは、食べる必要はないけど、食べられると思う」
「人間のフリの練習かい?」
オバサンはそう言うと、キララの前にスープを置いた。キララは、スプーンの握り方を見ようと、キョロキョロしてる。それに気づいたアルくんが、スプーンを持って、スープをすくってみせた。
(あちゃ〜)
キララが勢いよくスプーンをスープ皿に突っ込んだせいで、スープが飛び散ってる。
「キララ、ゆっくりとすくうんだよ。勢いがありすぎると跳ねちゃうからね。ほっぺについてるよ。熱くない?」
「熱くないよ。ちょっと失敗したけど」
そして、スープをすくって、口の中に入れた。
(ん? 光った?)
キララの身体がピカッと光った気がした。
「へぇ、体内を改造したのかい。キララは器用だね」
「口から入ったものを消化して、エネルギーに変換する部品を追加したよ」
「ぶひん? 何のことだい?」
オバサンの質問には、キララは答えずに、スープを飲む練習をしている。
「村長さん、たぶんキララは、私の前世のロボットのつもりだからだよ。ロボットは、たくさんの部品で構成されるの」
「ふぅん、そういうことかい。キララは、ジュリの友達として成長したいみたいだね。私の物質スライムとは、全然違うよ」
(綺麗な黄金色のスライムだよね)
「それぞれ個性があるのね。キララは元気いっぱいだけど、ネイルはクールだし」
「キララは、ジュリが6歳のときの感覚を強く受けているだろうね。一方で、ネイルは、ジュリの前世の感覚の影響が強いんじゃないかい。前世のジュリは、おとなしい子だったんだろ」
「そうかな? あっ、キララはパンも食べるの?」
パンを持ったキララはコクリと頷くと、パンをちぎり……どこかに飛ばしてしまった。慌てて拾いに行ったけど。
(ふふっ、かわいい)
「力加減が難しいみたいだね。基本的に物質スライムには、手は無いからね」
オバサンはそう言いながら、キララの練習を興味深そうに眺めている。たぶんキララは、大陸では人間のフリをするつもりなんだろうな。
「そろそろ良い時間じゃないかい? 山の中の集落の子供達の食事も終わったみたいだよ」
「そう? じゃあ、行ってくるね。山の中の集落へ行く皆さん、キララに触れてください」
皆が触れると、キララは片手にパンを持ったまま、みんなを転移魔法の光で包んだ。




