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90、大量仕入れの理由

 海辺の集落に戻ったときには、オバサンは夕食の準備を始めていた。そういえば、昼ごはんを食べてない。


「村長さん、織物の工房の服を、キララが棚に置いたよ」


「ありがとうね。ジュリとイケメンは、昼ごはんを食べてないのかい? どこの集落の食堂も使ってないって聞いたよ」


(物質スライムの情報かな)


「うん、食べてないよ。余っている物を大量に仕入れたりしてたから、時間がなくなったの」


「そういえば大型船が来なくて、織物の工房も作った物が溜まってきて困ってるって言ってたね」


「やっぱり、それで、イケメンさんが仕入れるようにって言ったのね」


 キングシルバーさんの方を見てそう言ったけど、彼は、棚に置いた服を広げて見ている。まさか、欲しいって言うんじゃないよね?


「村長さん〜、アタシ、このシャツ欲しい〜」


(言った……)


「イケメンが着るのかい? まぁ、適当に持っていきな。ジジイの分も残しておいておくれよ。今、二人の分の昼ごはんを作ってるから、手を洗ってきな」


「うん〜、ありがとう」


 オバサンは、キングシルバーさんには弱いよね。




 遅めの昼食を食べていると、オバサンが物置きの方へ行ったとき、キングシルバーさんの雰囲気が変わった。


「ジュリちゃん、明日のお楽しみ会の途中で、抜けることはできるかな〜?」


「ん? うん。山の中の集落の子供達のお楽しみ会だからね。私は、そんなにガッツリ参加するつもりはないよ?」


 私がそう答えると、彼はコクリと頷いた。いつもの道化どうけっぽい雰囲気はない。



「今日、ジュリちゃんの買い物の邪魔をしたけどね〜。まだ、確定じゃないから話せなかったのよ〜」


「大量に仕入れさせられた件かな?」


「うん〜。何も言ってなくてゴメンね〜。でも、たくさんの仕入れをしてもらって良かったよ〜」


 話し方はあまり変わらないけど、キングシルバーさんの表情には、笑みはない。


「何かあったの?」


「何日か前に、赤の王国の国王が殺されたみたいだ」


 キングシルバーさんの話し方が変わった。


(えっ? それって……)


「私の父親ってこと? 顔も知らないけど」


 そう尋ねると、キングシルバーさんは、小さく頷いた。


(そう、なんだ……)


 私は、不思議と冷静だった。赤ん坊の私を海に捨てさせた人だから、父親だという感覚もない。



「ジュリちゃん、昨日、襲撃してきた大陸のスライム達は、さっき大陸に戻ったよ。赤の王国の国王を殺したのも、スライム達だ。だけど、人間達は、緑の帝国の仕業だと思っている」


「えっ? スライムに殺されたの?」


「うん、アタシは、奴らの話を聞いていたからね。スライム神の島の襲撃は失敗したが、大陸の方の暗殺は成功した、と話していた。明日、赤の王国は、緑の帝国に対して本格的に侵攻するみたいだね。おそらく、赤の王国の兵のフリをして、緑の帝国の帝王を殺す気じゃないかな」


「どうして、スライムが直接的に人間を……ダークスライムの影響なの?」


「アタシには、そこまではわからない。でも、大陸のスライム達が人間のリーダーを殺し始めるなんて、絶対にあってはいけないことだ。緑の帝国の帝王まで殺されたら、事なかれ主義な黄の王国の国王しか残らない。彼は、もう退任間近らしいけどね」


(オバサンのお兄さんだよね?)


 オバサンが名前を明かさないのは、黄の王国の王家の生まれだからだ。今、黄の王国の国王は、オバサンのお兄さんだと聞いている。



「イケメンさん、もしかして、私に明日、大陸に行く方がいいって言ってる? 今日、一緒に回ってくれたのって……」


「アタシは、人間に干渉しちゃいけないの〜。でも、緑の帝国の帝王までが殺されたら、大陸は、もう秩序を取り戻せないと思うよ〜」


「つまり、スライム神が動くのね」


 私がそう尋ねると、キングシルバーさんは、意味深な笑みを浮かべた。スライム神が動くとは言えないのね。でも、きっと、もうタイムリミットは近いってことだ。



「ブラックには、昨日この話をしたよ〜。たぶん、アルも聞いたと思う〜。ジュリちゃんに話すのは、アルに任せたんだけど、言えなかったみたい〜」


(アルくんは、優しいからね)


「赤の王国の国王が殺されたことは、私には言えなかったんだと思う。もう、戦乱が激化してから2年くらい経つよね。漁師のお兄さんが赤の王国に行ったのは、私が7歳の時だったから」


「カールは、新しい国王の護衛についたみたいだよ〜。だけど、新国王は、まだ若すぎるね〜」


「子供なの?」


「成人はしてるんじゃないかな〜? だけど彼には、今の赤の王国を治める能力はないと思うよ〜。スライム神の加護もないし、側近には簡単に騙されそうだね〜」


 そんな国王を、漁師のお兄さんが守るなんて、あまりにも大変すぎる。


 キングシルバーさんは、たぶん私にこれ以上のことは言えないんだと思う。大陸の状況を教えてくれたのも、昨日の襲撃者の話だと言っているけど、もっと前から知っていたんじゃないかな?


 スライム達は、人間には干渉できない。


 そういう決まりがあるから、彼のこの話も、ギリギリなのかもしれない。



「キララなら、大陸まで、どれくらいで行けるのかな?」


「アタシは、長距離転移はあまり得意じゃないから、小島をいくつか経由するかな〜。昼ごはんを食べるよりも長い時間がかかるよ〜」


「えっ? そんなに速いの? 昨日のレッドスライムは、今日、やっと着いたんだよね?」


「ふふっ、今のキララなら、アタシよりも速いと思うよ〜」


(そうなんだ!)


「イケメンさんの今日の謎行動は、すべてヒントだったのね。赤の王国の北部にある、赤の丘という場所に、レッドスライムの棲み家があるのね」


「ロバーツが、そう言ってたね〜」


「わかったよ。明日、行ってみる」


 私に与えられたスライム神のギフトが『出店』だということは、この島では有名になってる。だから、戦乱のせいで大型船が来ないから、私が売りに行くというのは筋が通ると思う。



「アタシは付き添えない決まりだから、ブラックを連れて行くんだよ〜。アルも行くって言ってたよ〜」


「もう根回しが終わってるの?」


「あれ〜? 何の話だったかな〜?」


 そのとき、オバサンが戻って来た。キングシルバーさんは、道化どうけの表情に戻っていた。


(秘密にする方がいいか)


 オバサンに話すと心配するだろう。私がお楽しみ会で遊んでいると思わせておく方がいい、とキングシルバーさんが考えていることが伝わってきた。


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