86、キングライムの能力
『くそっ! 罠だ! 撤退するぞ』
(まる聞こえだよね)
大陸のスライムが使う念話は、スライムの言葉が理解できる私には、まる聞こえだった。あっ、ベースコートの能力だけど。
『撤退できません! 何かにとらわれて……』
『捨てろ! 人間の子供に擬態できるスライムは、おそらくキングだ。殺されるぞ!』
(うわぁ〜、気持ち悪い)
大陸の人化したスライム達は、着ぐるみを脱ぐかのように、人間の皮を脱ぎ捨てた。いや、着ぐるみというより、捨てられた身体は、粘着剤でくっつけた皮膚を剥がしたように、ぬちゃっとしてる。人間の皮を脱ぎ捨てても、人間の姿なのね。
そして、次々と転移魔法を使って消えていった。
「ジュリちゃん、撃退成功だね〜。あはは、楽しいな〜」
戦闘狂なキングシルバーさんは、改造スライムをすべて討伐したみたい。赤いスライムは、かなりの数が逃げたけど、いいのかな?
「イケメンさん、奴らが残した分身は、どうしましょうか」
私達から離れていた黒い髪の人化したスライムも、楽しそうな顔をして、戻ってきた。
「それは、そのままでいいよ〜。キングライムのテリトリーに足を踏み入れたから、分身を捨てないと逃げられなかったのよ〜」
(長老様の能力?)
私がもらった色は、拡張とか持続の能力だけど、そういえば、長老様……キングライムってどんな能力があるのか知らないな。
「長老はね〜、樹木を司るキングなんだよ〜。テリトリーには、見えない触手が広がってるんだ〜。本当は、付近の枯れた木々や道もすぐに直せるんだよ〜」
「直すと、子供達が集落の外に出てしまうから、直さないのかな?」
私がそう尋ねると、キングシルバーさんは軽く頷いてくれた。たぶん子供達のことだけじゃないよね。これまで、山の中の集落に食料を運んできていたのは人間だ。危ないから、近寄らせないようにしていたのかな。
「奴らの分身をこのままにしておくと、小さなスライムとなって動き出しませんか?」
黒い髪の子は、まだ剣を握ってる。
「動き出さないから、大丈夫だよ〜。キングライムが、付近の養分に分解するよ〜。完全に分解されるまでは、奴らの話が聞こえるから、まだ分解しないと思うけどね〜」
キングシルバーさんがそう言ったことで、黒い髪の子は、やっと剣を鞘におさめた。
「そういえば、念話が、まる聞こえだったね」
「ジュリちゃんにも聞こえたんだね〜。あっ、そっか。ベースコートは、スライム神からもらったもんね〜」
(ん? 何?)
キングシルバーさんは、私の左横に視線を移した。そういえば、盾がまだ浮かんでる。
「ネイルは、そのまま帰るの〜?」
「あっ、いえ……」
「海辺の村長が驚くかもね〜。ネイルは、器用だよね〜。自分で自分の爪に一瞬でマニキュアを塗って、複合発動できるなんて、賢いよ〜」
(あっ、マニキュアを使ったんだ)
私の目には、ネイルは、魔導士のように魔法を発動していると映っていたけど、確かに、魔導士じゃないもんね。
「最後に使ったのは、ジュリさんの前世の知識から、創造しました。オレが使える魔法は、ジュリさんが使うマニキュアより劣るので、工夫しました。火と土と毒を練り合わせたものだから、当たったら、毒を受けるはずです」
(機関銃みたいなやつ?)
「へぇ、面白いよね〜。キングパープルの弱毒くらいの強さはあったと思うよ〜。逃げた大陸のスライム達も、途中で動けなくなる個体もいるだろうね〜」
「ネイル、すごいね」
「あはは、はい!」
(ふふっ、嬉しそう)
「ジュリちゃんが、キングライムの色を上手く利用したね〜。奴らは、キングが人間の子供に化けてるって思ったみたいだよ〜。ふふっ、しばらくは来ないはずだよ〜」
(しばらく、か)
「まだ諦めないのかな? 指揮官っぽいスライムは逃げたんですよね?」
「うん、そうだね〜。奴らの念話を聞いておくよ〜」
(ん? まだ聞こえる?)
「私にはもう聞こえないけど……」
「アタシは、聞こえるの〜。あちこちの小島に分身がいるからね〜」
「なるほど……」
「じゃ、キララにお願いして、海辺の集落に帰ろうね〜」
キングシルバーさんがそう言うと、人の姿のキララが現れた。ネイルに対抗してるのかな。
(きゃ〜、かわいい!)
キララがネイルと手を繋いだ。ネイルが少し照れてる。
「イケメンさんとブラックも、ボクに触れてください」
「はいはーい」
キングシルバーさんは、キララの肩に触れ、黒い髪の子は、キララの腕に触れてる。
空いているキララの右手を私が繋ぐと、キララは、ピカピカな笑みを浮かべた。
(かわいい!)
「では、移動しますね」
私達は、キララの転移魔法の光に包まれた。
◇◇◇
「あれ? ジュリ、ふたりだけかい? スライム神のギフトを得た子供は、4人だと聞いていたけどね」
オバサンの家の、いつもの着地点にキララが到着すると、キララとネイルを見て、オバサンが変なことを言った。
「ギフトをもらった子は、連れてきてないよ」
「じゃあ、その子たちは……あれ? ひとりはキララに似てるね。だけど、完全に人間に見えるよ?」
「キララとネイルだよ」
私がそう答えると、オバサンは目を見開いて固まってしまった。その顔を見て、キングシルバーさんは、ケラケラと笑ってる。
「ジュリ、そうか。1連目が埋まったんだね。しかし……」
オバサンは、キララとネイルから目が離せないみたい。
「村長、ボクはキララだよ!」
「えっ! 発声できているじゃないかい。物質スライムが発声するなんて、聞いたことないよ」
「村長さん、オレはネイルです。オレもキララも、人間に似せるために髪はつくっていません」
「そ、そうなのかい。ネイルは、まだ1歳だったね? こんなに成長が早い物質スライムなんて、聞いたことないよ。ほんと、聞いたことないよ」
オバサンは、聞いたことないって連呼してる。
「村長さん、キングシルバーも、ジュリちゃんの物質スライムの成長には驚いているそうです」
「ブラックは、キングシルバーと親しいのかい!?」
(目の前にいるよ?)
「親しいというか……説明が難しいです」
「村長さん〜、ブラックは、若いスライムの集落の次期村長候補だって、アルが言ってたよ〜」
「あぁ、それで、キングシルバーとも交流があるんだね。私達とは縁がないけどね」
(目の前にいるよー)
私は、キララとネイルを指輪と腕輪に戻し、山の中の集落でのことを、オバサンに話した。




