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85/129

85、移動した先には

「あれ? ここは?」


 キングシルバーさんの転移魔法で移動した先は、まだ山の中だった。慌ただしく出てきたけど、海辺の集落に急いで帰る用事ができたわけではないみたい。


 周りを見回していた黒い髪の人化したスライムが、好戦的な笑みを浮かべて、スッと剣を抜いた。そして、私達から離れていく。



「ジュリちゃん、アタシ達、ちょっと運動するね〜」


(運動?)


『ジュリちゃん、あの集落からイケメンさんが転移魔法を使った理由は、これだよ。長老様の結界が強いから、ボクは、集落の中から外への転移魔法は発動できないからね』


(ん? キララ、わからないよ)


『ジュリさん、オレを呼び出してください』


(ネイルを?)


 ネイルの名前を出しただけなのに、魔導士っぽいネイルが現れた。私の肩までしかないから、ちっちゃな魔導士だけど。



「ネイルも運動するの〜?」


「はい、オレがどこまでできるか、試してみたいんです」


「わかったよ〜。ジュリちゃんは、アタシの盾を使っていてね〜」


(襲撃ってこと?)


「キングシルバーの盾」


 私が小声で呟くと、左手の銀ラメのマニキュアが爪から消えた。拡張魔法が効いてないのかと思ったら、違った。


(すごっ!)


 私の周りには、大きな盾がたくさん浮かんでいる。



「おっ! ジュリちゃん、すごく拡張してるよ〜。アタシが操らなくても大丈夫だね〜」


(えっ? 困るよ)


 キングシルバーさんが好戦的な笑みを見せたとき、盾が何かを弾く音がした。


(盾が、戦ってる?)


 赤い髪がチラッと見えたから、大陸の人化するスライムの襲撃に間違いない。これまでの私なら恐怖で震えていたけど、今の私は平気みたい。


 私を狙ってきた大陸のスライムを、盾が体当たりするように殴って吹き飛ばした。



 キングシルバーさんも、手に剣を持った。


(あれ? 見える)


 襲撃者を探して周りを見回すと、木々が透き通っているように見えた。そして、あちこちに隠れている大勢の赤い髪の大陸のスライムが、黒い髪の子を避けるように動いていく。


「ジュリちゃん、ブラックはスライムだとバレてるんだよ〜。アタシはバレてないよ〜」


「えっ? そうなの? 木々が透き通って見えるけど、これって……」


「たぶんキングの誰かの能力だね〜。今までにはないチカラなら、キングライムかな〜。あっ、1連目が揃ったからかも〜」


 キングシルバーさんと話している間に、大陸のスライムがどんどん増えてきた。赤い髪だけじゃない。黄色の髪もいるし、緑色の髪もいる。


「何だか集まってきてない?」


「ふふっ、集めてるのよ〜。ブラックの方には、彼の足止め要員しか行かないから、主力はジュリちゃんの方に来るよ〜」


「集めてるの?」


「そうだよ〜。長老の集落を探している大陸のスライムが、たくさんいるからね〜。アタシ達は、理由がないと、こちらからは手出しができないの〜」


「相手がスライムでも?」


「うん〜。でも、今、ジュリちゃんが攻撃されたからね〜。思いっきり運動できるよ〜。あっ、緑色のスライムには気をつけて〜。赤いスライムと一緒に来るのは、改造スライムだよ〜。ネイル、まだ動かないでね〜。全部、長老のテリトリーに引き込むまで待つよ〜」


(改造スライム……)



 私が8歳のときに、海辺の集落に襲撃があったことを思い出した。


 緑の帝国の人間が、スライム神が与えたギフトを人間から引き剥がして、その物質スライムを粉々に砕いて、グリーンスライムに喰わせて創り出したんだよね。


 ギフトを引き剥がされた人間の深い闇が入り込んだことで、ダークスライムの特徴も持っているって、キララが言っていたっけ。


 改造スライムは、海辺の人化したスライムが苦戦するほど強いから、キングシルバーさんが討伐してくれた。あのときは、私はキララに守られて、その様子が見れなかったけど、今は隠されてない。


(私もできるかな)


 両手の爪を見てみる。周りに浮かぶキングシルバーの盾だけじゃなくて、私にも使える魔法はあるもんね。




「島にいる大陸のスライムがすべて、長老の……キングライムのテリトリーを踏んだよ。ネイル、もういいよ〜」


(テリトリーを踏んだ?)


 キングシルバーさんがそう言った直後、ネイルは、あらゆる方向に、水鉄砲のように水を飛ばした。


『あの小さい子供は、ブルースライムだ!』


(違うよ?)


『白い髪の子供を守っているのか。海辺の集落に行かせるな! 海辺の集落には、厄介なスライムがいる』


『海辺の集落にいる白い髪の子供の物質スライムは、転移魔法を使うからな。山の中にいる間に捕まえないと難しくなるぞ!』


(あれ?)


 あちこちから聞こえてくる大陸のスライムの念話。



「ジュリちゃん、アタシ、ちょっと斬ってくるね〜」


 緑色の髪のスライムがこっちに迫ってくると、キングシルバーさんは、嬉々として迎撃に行った。


 そしてネイルはまた、水鉄砲のような魔法を全方向に放ってる。ブルースライムのフリをしてるみたい。


(キララ、なんだか勘違いされてるよね?)


『うん、ネイルが、ピンクスライムの術を使ってるよ。状態異常の幻惑だね。ジュリちゃんの顔が、知らない人間の子供に見えてると思うよ』


(そうなの? ネイルすごいね)


『ネイルは真面目だからね。大陸のレッドスライムを近寄らせないようにしてる。たぶん、レッドスライムの中に、大陸の指揮官と繋がるスライムがいるんだ』


(指揮官? 見つけて捕まえるの?)


『それは迷ってるみたい。どうすれば、山の中の集落への襲撃が減るか、わからないからね』


(諦めれば減るよね)


『ん? どうすれば諦めるかわかんないから……えっ? ジュリちゃん?』


(ふふっ、罠だと思わせれば、勝ちだよ!)


 私は、トップコートの色を少しずつ変えていく。黄緑色が濃くなると、私はスライムに見えるんだもんね。



 私の作戦に気づいたキングシルバーさんは、ニヤリと笑って、合図をしてきた。


「ネイル、一斉にいくよ」


「わかりました! オレも本気を出します」


 キングシルバーさんの合図に合わせて、ネイルと一緒に魔法を使う。


 私の指先から、あらゆる方向へ、風の刃が飛んでいく。


(いっぱい当たった!)


『チッ! 騙された。白い髪の子供はグリーンスライムの擬態だ! 人間は、銀髪だけだぞ!』


『この島のグリーンスライムなら、おまえ達の方が……うぎゃ〜っ!』


 ドドドドッ!


 ネイルは、水鉄砲ではなく、機関銃のような音を立てて、私の方へ向かってきた改造スライムや赤い髪のスライムを撃ち抜いていた。



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