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82、怯える子供たち

「たぶん、今日も来ていると思う」


 ピードくんが震える声で、そう呟いた。彼の視線の先には、怯えた表情をしたサフィさんがいる。今、彼女から何かを聞いたのね。


 チラッと、キングシルバーさんに視線を移すと、ニコニコとしているけど、これは笑顔を張り付けているだけかな。彼も何かを察知して……いや、違う。全部わかった上で、私の護衛をすると言って、ついて来たのね。


 黒い髪の人化したスライムだけでは不安だと言っていたのは、このためか。


 オバサンが把握している以上に、この島は厄介なことになってる。この集落に人間の子供を保護していることで、襲撃者が来る。大陸の人化したスライムも人間の冒険者も……。


(そりゃ、怒るよね)


 キングシルバーさんは、相手が人間なら手出しはしない。人化したスライムの場合は、わからないけど。


 だけど、この島の多くのスライムが怒ってるなら、彼の力ではなく、人間である私が、キララとネイルの力を借りて解決すべきことだと思う。



「ピードくん、とりあえず食堂に移動しよっか。海辺の集落の村長が焼いたパンも預かってきたからね」


「それがいいわ。ジュリちゃん、子供達に先にパンを食べさせてやって。私は、美味しいスープを作るわね」


「わぁっ、私も食べていい?」


「もちろんよ。ジュリちゃんは、何が好きだったかしら? あっ、お芋のスープだったかな」


(違うけど……)


「懐かしいから、何でも嬉しいですよ。キララ、クローズ」


 キララがパッと消えると、ピードくんは私の左手を覗き込んで、首を傾げている。興味津々ね。まだ、涙の跡は残ってるけど。




 食堂に移動する時には、スライム達はついて来なかった。キングシルバーさんや黒い髪の子も、ついて来ない。見張られているのかとも思ったけど、たぶん違う。スライム達がいる方が、集落にいる子供達が安心するからかな。


「あっ、あれ? 赤い髪?」


 食堂でお昼ごはんの準備をしている子供達の中に、知ってる顔があった。あまり話したことはないけど、私より年上だと思う。


「ジュリだよ。白い髪は、物質スライムの能力で変えてるの。テディくんだっけ?」


「うん、テディだよ。そっか、髪色が違うと別人みたいだけど、ジュリちゃんなんだね」


「コイツは、俺の名前を間違えるジュリだぞ。ほんと、おバカなんだから」


「ピードくんのことは、ピードくんって呼ぶようにって、長老様が言ってたんだよ」


「もう、ギフトをもらったから、ピードルでいいんだよ」


 言い合いをしていると、ピードくんは元気になってきたみたい。スライム神から剣を得ても、アルくんのように訓練しなければ使えないんだと思う。だから、不安だったのかな。みんなは、ピードくんが人化したスライムを蹴散らすと期待しているだろうし。



「テディくん、私は今、海辺の集落にいるの。食料の配達に来たんだよ。預かった食料は倉庫に入れてきたの。倉庫で会ったおばさんが、海辺の村長が焼いたパンを、先に子供達に食べさせてって言ってたよ」


「食料の配達? ジュリちゃんは飛べるの? この集落は孤立してるって聞いたよ。他の人間の集落への道は、人間には通れないって」


「私の物質スライムは、すごい子だからね。パンをどこに出せばいいかな?」


「じゃあ、このテーブルにお願いできる? 切り分けて皆に配るよ」


(切り分ける?)


「切り分けるタイプのパンじゃないけど……キララ、オープン!」


 キララを呼び出すと、すっごく可愛い屋台ワゴンの姿で現れた。まるで、クレープ屋さんみたい。屋台に乗っているのは、オバサンが焼いた大量のパンだけど。



「わぁっ! かわいい!」


 私の知らない女の子がそう叫ぶと、食堂にいた人達の視線が一気に集まった。


「可愛いワゴンだから、このままでもいいかな? みんな、海辺の集落の村長が焼いてくれたパンだよ。取りに来てくれる?」


 私がそう声をかけても、子供達は怯えているみたいで動かない。ピードくんの話を聞いたから、子供達のこの反応は理解できる。



「ジュリさん、子供達は知らない人が怖いの。大陸の人化したスライムに会った子も少なくないんです」


 別の見知らぬ女の子が、そう教えてくれた。


「緑色の髪の人化したスライムも会った?」


「いえ、赤色が多いと思います。黄色もいたかも」


(私が赤い髪だからだね)


「そっか。私の髪色が怖がらせてるのね。これは、物質スライムの能力で色を変えているだけなの。元に戻すね。ネイル!」


 ネイルは、長老様に見せた小さな魔導士の姿で現れた。並ぶと、私の肩までしかないね。



「ジュリさん、髪色を元に戻しますか?」


「うん、ネイルが出てきてくれたから、パレットを呼び出さなくてもいい?」


「はい、オレに任せてください。あっ、届かないから、ジュリさん、しゃがんでください」


「ふふっ、はぁい」


 その場でしゃがむと、ネイルは、私の頭の上に手をかざした。そして、透明な光が降り注ぐ。クリアだっけ。


 この光景を見ていた子供達が、ザワザワしてる。ピードくんは、口を大きく開けたまま、ポカンとしてるわね。



「うぉっ! 本物のジュリちゃんになった!」


「ピードくん、本物って何? 白い髪のジュリだって言ってるでしょ」


「俺は、ピードルだって言ってるだろ」


(ふふっ、まだ言ってる)



「みんな、これで怖くないかな? あっ、スライムが白い髪に染めたって思ってる? 白には染色できないよ。物質スライムのヘアマニキュアにも、白色はないもの」


 子供達が、恐る恐る近寄ってきた。


 キララのかわいい屋台ワゴンは、子供の背丈に合わせているから、小さな子でも見えるようになってる。


「届かない子は、このパンが欲しいって言ってくれたら、キララが渡すよ。あっ、ネイルも手伝ってくれるの?」


「はい、オレも手伝います」


 ネイルは、取りに来れないおとなしい子供達に、パンを抱えて持って行ってる。物質スライムは、人化できるスライムより上位種だから、人間の心の声を聞く能力があるのね。



「こんなに大きなパンを全部もらっていいの? あっ、夕食と分けて食べるのか」


(えっ……)


「これは昼ごはんだよ。倉庫に麦粉をたくさん納品したから、食べたいだけ食べて大丈夫だよ」


 私が説明しても、子供達は信じてくれない。


「ジュリちゃんが言ってることは、本当だぞ。ジュリちゃんは、俺の名前を間違えるおバカだから、嘘をつく知恵はないんだ」


(失礼ね!)


 だけど、ピードくんがそう言うと、子供達に、やっと笑顔が戻った。



皆様、いつもありがとうございます。

月曜日は、お休み。

次回は、11月25日(火)に更新予定です。


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