81、深刻な食料事情
長老様の住まいを出ると、門番をしていた二人が居た。入って来なかったな。長老様が拒んでいたのかもしれないけど。
「ジュリちゃん! 長老様への挨拶が長すぎるぞ」
「ピードくんとサフィさんも、入ってきたら良かったのに」
「俺は、ピードじゃなくて、ピードルだ!」
(ふふっ、面白い)
「食料の倉庫は、前と同じ場所?」
「あぁ、変わってないぞ。倉庫に何の用事だ? あっ、人間の食料を持ってきたと言ってたよな? どこにあるんだよ」
ピードくんは、私が斜め掛けにしている鞄を見てる。魔法鞄だとわかってるのかな。
「私の物質スライムに預けてるよ」
「ジュリちゃんの物質スライムって、出店とかネイルとか言ってたけど、どこにいるんだ?」
「私の左手にいるよ」
「食料なんか、持ってないじゃないか」
(説明してもわからないかな)
私が歩く後ろから、スライム達もついて来てる。大人数で移動しているから、みんなが見てる。やはり、子供達の表情は暗いし、怯えてる子も少なくない。
「ここだよね。あれ?」
食料の保管庫の扉は開いていた。中を覗くと、人化したスライムが食料を取りに来ているみたい。お昼ごはんの準備だろうけど、一つの棚にしか物が置かれてない。他にも倉庫がありそうね。
「こんにちは〜。海辺の集落から配達です」
そう声をかけると、人化したスライムが驚いた顔で振り返った。いつも、ご飯を作ってくれていた人ね。私の後ろには、キングシルバーさんがいるから、驚いたのかも。あっ、黒い髪の人化したスライムが希少種だと、長老様が言ってたからかな。
「えっ? お嬢ちゃんが? えーっと……」
「私は、3年前までこの集落に居たジュリです。今は、海辺の集落にいます。途中の道が悪いから、人間が配達できないって聞いてたんですけど、他にも倉庫があるんですか?」
「ジュリちゃん? 白い髪だったから心配していたのですよ。よかったわ。成長して赤い髪になったのね」
「いえ、この髪色は、私の物質スライムの能力なんです」
「えっ? あっ、白い髪の子は、二つのギフトを得ることがあるわね。倉庫は、ここだけよ」
(ガラガラ……)
食料が不足しているどころじゃない。麦粉の袋は二つあるけど、他には何もない。
「野菜と肉と魚と麦粉は、どこに出せばいいですか?」
「この棚に置いてちょうだい。助かるわ」
(置けないよ)
「とりあえず、呼び出します。キララ、オープン!」
キララは、大きな屋台ワゴンの形で現れた。オバサンから預かったパン以外の食料が、どっさりと乗っている。
「うぉっ! ジュリちゃん、すげぇ!」
覗いていたピードくんが、大きな声で叫んだから、人化したスライムが、驚いて固まってる。
「ジュリちゃん、こんなにたくさんなの?」
「はい。この子の能力は出店だから、仕入れた品物を保管する異空間収納も使います。左側の棚が麦粉だったような気がするけど……」
「ええ、運ぶわね」
「それは、キララができるので、場所の指定だけしてください。あっ、この子はキララという名前なの」
「そ、そう? ジュリちゃんが居た頃とは、何も変えてないわ。左側のしっかりした棚に麦粉を置いていたわ。右側の棚の下には、氷魔法の魔法陣があるから、肉や魚。奥の棚やその手前の床には、野菜や果物を置いて……まぁっ!」
キララは、ワゴンの上の食料を、魔法を使って納品していく。まるで、食料が勝手に棚に吸い込まれていくように見える。
ガラガラだった倉庫は、棚の半分くらいは埋まったみたい。だけど、私が居た頃は、棚に入り切れない食料が、床にも積まれていたと思う。
「すっげ〜! 倉庫がいっぱいになった!」
(えっ? これで?)
キララのワゴンは、もう空っぽだけど、キララの持ち物が空っぽなわけではない。
「海辺の集落から預かった食料は、これだけです。あと、村長が焼いたパンもあります」
「ジュリちゃん、本当に助かるわ! 毎日、誰かがどこかの集落に買い物に行っていたの。麦粉は、一昨日に買ってきたのよ。今日は、どうしようかと困っていたの」
(昨日は?)
「そんなに食料が減るのが早いんですか? 人間の子供は、そんなに増えたのかな」
「今は、50人以上居るわ。ジュリちゃんが居た頃は、10人くらいだったかしら。大陸で起こった戦乱で、海に流されたり、大型船で小島に置き去りになる子が増えたの」
「だから、小屋が増えているんですね。そんなに大勢の世話は大変ですよね」
「お手伝いをしてくれる子も増えたから大丈夫よ。ただ、山道が悪くなってからは、食料事情が厳しくなってしまったわ」
(知らなかった……)
「だいぶ前だけど、大勢の子供が殺されたからな。たくさん居たときは、食べ物が全然なかった」
ピードくんが、会話に入ってきた。
「えっ? 殺されたって、どういうこと?」
食料が足りなくて、数を減らしたように聞こえたけど、長老様がそんなことをするはずがない。
「水浴びに行った子供達が、大陸のスライムに殺されたんだ。奴らは集落にも入ろうとしたけど、入り口がわからなくて、青い髪の子供を出せって叫んでたらしい」
「えっ……」
青い髪のピードくんは、苦しそうな表情をしていた。まさか、自分のせいだと思ってるのかな。
「青い髪の子供のことを教えないと殺すって言われて、教えても殺されたんだ。俺は、昼寝していて気づかなくて……」
彼は、ポロポロと涙を流し始めた。
「ピードくんの責任じゃないよ。襲撃して来た大陸のスライムは、全部撃退されてるはずだよ。集落から出なければ、長老様の結界があるから、安全だよ」
「長老様も同じことを言ってた。でも、大陸のスライムは人化してるから、この島のスライムが気づく前に、人間の子供を殺すんだ。昨日も来たから、スライムが買い物に行けなかったんだよ」
オバサンは、山の中には、魔物がいるという話はしていたけど、大陸のスライムがそんなに頻繁に来ているなんて、知らないんじゃないかな。
オバサンは、この集落には白い髪の男の子がいるから、集落の周りは冒険者によって、魔物を惹き寄せる香木が撒かれたと言ってた。また、スライム神のギフトを得た未熟な子供も狙ってるみたい。
香木を撒いた人間も、捕まる前に毒を飲んで死んじゃって、付近に猛毒を振り撒いた形になったんだよね。木々は枯れて、土がドロドロになって毒の沼地に変わったって。
「そっか。大陸のスライムは、どれくらいの間隔で来るの?」
そう尋ねると、ピードくんの表情に怯えが見えた。




