80、対照的なキララとネイル
「ジュリの物質スライムは、どちらもまるで人間のようじゃのぅ。物質スライム特有の反応を上手く隠しておる」
長老様は、プルンと震えて、驚いているみたい。目をキラキラと輝かせて興味津々ね。
「ボクは、キララ! 長老様がジュリちゃんに渡した物質スライムだよ。髪があるとスライムだとバレるから、髪はないよ」
「オレは、ネイルです。スライム神の祠で、スライム神からジュリさんに与えられた物質スライムです。キララがサポートしてくれたので、早く成長できました。長老様、1連目の色をありがとうございます」
キララとネイルは、しっかりと挨拶している。やっぱり、キララは元気いっぱいで、ネイルはおとなしくて礼儀正しいね。
「ふむ、こんな風に覚醒した物質スライムは、初めてじゃな。物質スライムを二つを授かると相互に能力を高め合うが、まさか人間のように話して動くとは、驚きじゃ」
(私もびっくりだよ。覚醒?)
長老様は、私ではなく、銀色の髪の超絶すぎるイケメンに言ってるみたい。物質スライムを生み出すのは、キングシルバーだもんね。
「アタシも驚いてるよ〜。ジュリちゃんが6歳のときにギフトを与えられたことが、大きく影響したんだと思うよ〜。大陸の状況が悪いから、スライム神は、ギフトを授けるタイミングを早めたみたいだけどね〜」
「そうか。ワシも、6歳になったばかりのジュリを、集落から出すときには戸惑ったが、結果的には良かったのじゃな」
「そうだね〜。それに、ジュリちゃんが魔法のない世界からの転生者だったから、前世の記憶が戻っても、物質スライムの能力に制限が掛からなかったよ〜。しかもジュリちゃんは珍しい記憶を持っていたから、キララは、こんな姿になったんだ〜。ジュリちゃんの前世の世界のロボットという創造物らしいよ〜」
(創造物?)
「ふむ、レッドスライムが希少種のブラックスライムになったのも、ジュリの影響じゃな? ワシらも不思議だったが、ジュリは赤ん坊の頃から、スライムに対する抵抗がなかったからな」
「ジュリちゃんの前世の世界では、スライムはお話の中で登場するから馴染みがあったみたいだね〜。しかも、とても弱い魔物として伝えられていたから、警戒心がなかったんじゃないかな〜」
(前世の記憶はなかったよ?)
「ふぉっ? スライムが弱い魔物じゃと? 変わった世界観じゃのぅ。まぁ、ジュリの前世の記憶が戻る前のことだから、こんな話をされても、ジュリは困るじゃろ」
長老様は、私の方を向いて、優しい笑みを浮かべてくれた。私がスライム好きになったのは、長老様が優しいからだと思うよ。
「ジュリさん、マニキュアの塗り直しをしませんか? 長老様も、見たいようです」
ネイルが、私を見上げて、そう提案してきた。実体化したネイルを初めて見たから、何だか不思議な気分。
「うん、レベルが上がったもんね。でも、ブレスレットが腕輪になってるけど、いつも通りでいいの?」
「ただ塗るだけなら、オレに任せてください。ジュリさんが書いている絵は描けませんが」
絵というほどじゃないけど、今、ピンクのネイルには、3連目のオレンジ色のマニキュアで、小さなハートを書いてある。
「普通に塗るだけでいいよ」
「では、失礼します」
ネイルが私の両手を、下からすくうように持った。
(わっ!)
ネイルが触れた直後、両手の爪にベースコートが塗られたみたい。淡い光が指先を包むと、爪の色が10色に変わった。
「私が塗るより、すっごく早いし綺麗だね」
「ありがとうございます! もう少し乾いたら、トップコートを重ねます。トップコートは、長老様の色です」
ネイルがそう解説すると、長老様はワクワクし始めたみたい。プルルンと震えてる。
(わぁっ!)
黄緑色の光が指先を包んだ。派手なマニキュアの色は、少し柔らかくなったみたいに見える。
「トップコートを塗ると、統一感が出たね」
「はい。ジュリさんの意思で、トップコートは濃淡が変わります」
「そうなの?」
私は、トップコートを濃くしようと意識してみた。すると、黄緑色が強くなって、その下のマニキュアの色がわからなくなる。
(面白い!)
「ジュリちゃん、アタシも塗りたい〜」
「イケメンさんも?」
「うん〜。トップコートが強くなると、ジュリちゃんがスライムに見えるよ〜。人間に見えたりスライムに見えたりして、面白いよ〜」
(スライムに見える?)
ネイルの方を見てみると、首を横に振ってる。
「ネイル、他の人にマニキュアできる?」
「ジュリさんが他の人に塗るなら可能です。ただ、発動できる魔法の威力は、レベル1くらいまで下がります」
(できるんだ)
「イケメンさんは、何色を塗りたいの?」
「トップコートを塗りたいよ〜」
「トップコートだけ?」
「うん〜。たぶん、アタシが使う魔法も、拡張効果が発揮される気がするし、人間かスライムかわからなくなりたい〜」
(人間じゃないよね?)
スライムに物質スライムの術を被せても、スライムにしか見えない気がする。
私がそう考えていると、彼はハッとした顔をして、ガクリとうな垂れた。気づいてなかったのね。
「ふぉっほっ、キングシルバーは、ジュリを気に入っているようじゃな」
「長老〜、そのダサい種族名で呼ばないで〜。アタシは、イケメンっていう名前なのよー」
「む? キングシルバーは、種族ではなく名前ではないのか? まぁ、良い。イケメンと呼べばよいのじゃな?」
「そうそう、イケメンって呼んで〜。ジュリちゃん、この指だけでいいから、トップコートを塗って〜」
このやり取りを聞いていた、黒い髪の人化したスライムは、ぷぷっと笑っている。キングシルバーを怖がっていたけど、マシになったのかな。
イケメンさんが出した両手の親指に、トップコートを塗ってあげると、彼は、クルクルと回って踊ってる。
「ジュリちゃん、食料庫に補充して、すぐに帰る?」
(あー、これは逆ね)
彼の性格は、かなりわかってきた。
「食料の倉庫に補充してから、集落の中を見て回るよ。子供達の表情が、ちょっと気になるから。あっ、ギフトを得た子を迎えに来たんだったよね」
「じゃあ、アタシは護衛するね〜。キララ達は、このままでいいの〜? 実体化は、魔力消費が激しいかも〜」
「そうだね。キララとネイルは、戻ろうか」
「はーいっ!」
「かしこまりました」
対照的な二人は、スッと姿を消し、指輪の石とブレスレットに戻った。




