72、ヘアマニキュアリスト
「パレットの上にあるボタンは何?」
私は、ネイルが選んだマニキュアを塗った爪を乾かしながら、そう尋ねた。
『パレットの上ではないのですが、切り替えボタンです。押してもいいし、押そうと意識してもらっても、切り替わります』
(ボタンは、押すものよね)
私は、そのボタンを押してみた。すると白いパレットの上のマニキュアが消え、パレットは丸い光の集まりに変わった。
『ジュリさん、切り替わったリストをすべて表示しましょうか?』
「うん、お願い」
私がそう答えると、短いリストが現れた。マニキュアリストなら、ズラリとすっごく長いのに?
『ヘアマニキュアリスト』
【ベースコート】
●髪の表面の保護のために塗る下地。
【銀ラメ】
●ヘアマニキュアの色落ちを防ぐ。
【クリア】
●ヘアマニキュアの色を落とす。
【赤】
●鮮やかな赤色。
【黄】
●やわらかな黄色。
【青】
●爽やかな青色。
【緑】
●明るい緑色。
ヘアマニキュアリスト? 髪の保護と色落ち防止、除光液みたいなクリア、そして、3つの王国と緑の帝国の色?
『オレが1歳になったから、マニキュアの範囲が増えました。髪色を変えることができます』
「えっ! ネイル、それって凄すぎるよ。じゃあ、アルくんに使えば、もう狙われなくなるね」
『今は、まだジュリさんにしか使えません。1連目と3連目も埋まれば、他の人間にも使えるようになると思います』
「1連目はあと1つだし、2連目は全部埋まってて、3連目はえーっと、あと3つだね!」
(すごい!)
今すぐ使ってみたいけど、どうしようかな。アルくんが待ってるよね。
『ジュリさん、ベースコートだけ、ヘアマニキュアを使いますか? 山の中を歩くなら、髪が傷むことを防げます』
「うん、そうしてみる」
『では、ジュリさん、左手を上にあげて、【ヘアマニキュア】と言ってください。リストがない状態なら、パレットを呼び出してから、左手をあげてヘアマニキュアです』
「わかった。ヘアマニキュア! ベースコート?」
左手を上にあげてそう言うと、パレットの丸い光の集まりが、私の頭の上に移動した。そして、そこに、左手首のチェーンブレスレットから別の光が合流した後、光の粒のシャワーのような物が、私の頭に降り注ぐ。
私はずっと上を向いて見ていたけど、光は、目には入らない。髪だけにくっつくみたい。
「なんだか、手触りがよくなったよ」
『はい。これで髪の表面を保護できました。色を変えたいときは、この上から色のヘアマニキュアと必要に応じて銀ラメを使います』
「元に戻したいときは、クリアを使うんだね。クリアは、白いクリアスライムの色のヘアマニキュア版かな?」
『はい、そうです。白と表示するとわかりにくいので、クリアと表示しています』
(面白い!)
「ジュリ、まだ時間がかかるのかい?」
オバサンの大きな声が聞こえた。髪色を変えてみたかったけど、待たせすぎだよね。
私は、慌てて食堂へ戻った。
◇◇◇
「ジュリちゃん、あと少しだからね。疲れてない?」
「うん、大丈夫だよ」
アルくんと一緒に、アルくんが剣の訓練をしているスライムの集落へと、山の中を歩いている。あまり道がよくないから、ちょっと歩きにくい。
キララの転移魔法で移動すると楽だけど、アルくんは体力をつけたいみたいだから、私も歩くことにした。
(誕生日に登山だよ)
オバサンの弁当は、私の分もアルくんが持ってくれているみたい。キララに預ければ楽なんだけど、たぶん、アルくんが持ちたいのだと思う。
「あっ、迎えが来たよ。あの個体が迎えだなんて、珍しいな。次の村長候補だと言われている強いスライムだよ」
アルくんの視線の先には、黒い髪の人化したスライムがいた。私が気づいたことがわかると、ニッコリと笑って、手を振っている。
(あっ、そっか)
あの集落で会った大きなスライム達は、山の中の人化できるようになった若いスライムの集落で、島のことを学んでるって言ってたもんね。アルくんが訓練に行ってる集落なんだ。
「アル、お疲れ様。ジュリちゃん、9歳のお誕生日おめでとう」
「えっ? ブラックさんは、ジュリちゃんの知り合いなんですか。ジュリちゃん、いつ9歳になったの?」
アルくんは、驚いてオロオロしてる。
「うん、今朝、9歳になったって、キララが言ってたよ。この子は、ブラックさんっていうの?」
「おめでとう。ってか、ええっ? この子って……」
こんなに挙動不審なアルくんは、初めて見たかも。
「私も昨日知ったばかりなんだけど、この子は、私が6歳の頃に遊んでいた小川のスライムだったの」
「ジュリちゃんには、危ないことをすると叱られたから、オレ達の母親みたいなものだよ」
「へぇ〜、そうなんすか〜」
(あっ! 大きな鳥!)
山道で立ち話をしていたら、頭上スレスレを大きな鳥が飛んで行った。
すると、アルくんがすぐに剣を抜いてる。
「ジュリちゃん、その木のそばにいて。奴は、もう一度、来るから」
「えっ? うん」
「アルに任せるよ?」
「はい! 大丈夫です」
再び、ギューンと飛んできた大きな鳥に向かって、アルくんは、剣を振った。剣からは勢いよく風が飛び出して、鳥の翼にぶつかったみたい。
キィィィ!
(ひぇ、嫌な音)
威嚇音みたいな声を残して、大きな鳥は離れて行った。
アルくんは、黒い髪の人化したスライムの方を見てる。今の攻撃がどうだったか、聞きたいのね。
「アル、まぁまぁだったな。もう少し引きつけてから放つ方が、威力は出るよ」
「はい! ちょっと焦りました」
「ジュリちゃんがいたからだね。誰かを守ろうとすると、失敗することが多い。そういうときこそ、実力が発揮される。今のは撃退できたから、成功だよ、アル」
「はいっ!」
(アルくん、嬉しそう)
「剣から魔法が飛び出したの?」
私がそう尋ねると、アルくんは少し照れたみたい。
「魔法じゃないよ。真空波を飛ばす剣技なんだ。空を飛ぶモノが相手だと、結構使えるんだよ」
「へぇ、すごいね。アルくん」
「あはは、そうかな。スライムの集落で教わったんだよ」
アルくんは、また、黒い髪の人化したスライムの方を見てる。アルくんは、彼に褒めてもらいたいみたい。
「アルは、努力家だからね。ジュリちゃんが大陸に行くときは、アルも一緒に行くのかな?」
「はい、そのつもりです」
「そうか。あぁ、オレ達も、ジュリちゃんを護衛するから、よろしくな」
黒い髪のスライムがそう言うと、アルくんは驚いて、口をパクパクしてる。
(驚きすぎだよ?)




