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4、大型船が来たよ

 私が山の中の集落を離れてから、だいぶ時間が経ったよ。これまでに、大型船は2回来たみたい。だけど、私は今も海辺の集落にいるの。


 海辺の集落にも、だいぶ慣れてきたよ。人の姿をしたスライム達は、あまり話してくれないけど。


 大型船は、2ヶ月に一度くらいの頻度で、珊瑚礁の外にある小さな島に来るんだって。この島には、小さな島へ行く小船が繋がれた桟橋があるよ。


 お兄さんの漁船も、そこに繋いでるって言ってた。海岸からだと、海に長い道があるみたいに見えるの。漁船を見てみたいけど、危ないから桟橋には行っちゃいけないって言われてるの。


 次の大型船はもうすぐ来るけど、私は乗らない。私はまだ6歳だから、大陸に行っても生きられないからだって。



 海辺の集落には、6人の人間が住んでいるみたい。村長のオバサンがいろいろなことを決めているの。カールという漁師のお兄さんとは、あれからずっと仲良しだよ。他には、青い髪の漁師のオジサン、緑色の髪のお使い係のお兄さん、スライム神のほこらを守っている髪の毛のないお爺さん、そして私。


 でも、髪の毛のないお爺さんは、スライムだと思う。頭に無色透明な帽子を被っているように見えるもの。みんなが人間だと言うから内緒にしてるけど。



 毎日の水汲みが、私の仕事なの。オバサンがやると半日かかっちゃうけど、私の物質スライムがやると、すぐに終わるよ。


 暇な時間は、草原の小川の近くで、花のように小さなスライム達と遊んでるの。小さなスライムとは話はできないけど、何となく気持ちは伝わってくるよ。



 ◇◇◇



「ジュリ、今日は水汲みをしたら、すぐに戻ってくるんだよ。昼には、他の集落から人間が来るからね。念のために弁当も作っておこうか」


 朝ごはんを食べていると、オバサンが私の弁当を作り始めた。オバサンは、家の外では怖いけど、家の中では優しいの。


「また、ケンカが起こっちゃうの?」


「あぁ、そうなるだろうね。今日の夕方に大型船が来る。今回は赤の王国の船だから、他の集落の人間同士で奪い合いが起こるだろうよ」


(3回目の大型船だよ)


「こないだは、緑の帝国の船だったよね」


「よく覚えてるね、ジュリ。大国からの大型船には多くの品物が積まれているから、どこの港でもケンカが起こるのさ。それから、いつも言っているけど、ジュリの髪色は珍しいからね。大陸から来たスライムには、絶対に見つかってはいけないよ。スライムは小さな島からでも、ここの海岸が見えるからね」


「うん、海岸には行かない」


 オバサンは、私の髪を大きなスカーフで覆って、眉を黄土色の化粧品で描いてくれた。私と同じで、オバサンの髪色も本当は白いの。眉は化粧品で描いてるけど、髪は金ピカなスライムで金色に染めているよ。それがオバサンの物質スライムなんだって。


 私の髪も染めてくれたことがあったけど、汗や雨で色が落ちてしまうの。だからスカーフを買ってくれたみたい。



「ジュリ、海辺の集落が危険だと思ったら、上の草原で隠れているんだよ? 水汲みの途中でも構わない。今日の分の飲み水はあるからね」


「うん、わかった。じゃあ、オープン!」


 私の物質スライムは、少し前に、白いテーブルに変わったの。今は家の中だから小さいけど、お昼寝できるくらい大きなテーブルだよ。


 オバサンが、白いテーブルにお弁当を2つ置いてくれた。昼ごはんと夜ごはんかな。水汲み用のバケツを持って、私は白いテーブルに座った。



「ジュリ、知らない人と話しちゃいけない。特に、黒っぽく濁った髪色の人には、絶対に近寄っちゃいけないよ」


「はーい。じゃあ、行ってきます」


 物質スライムは、私が挨拶をするのを待ってから、ワープをしてくれるの。すっごく賢いのっ。



 ◇◇◇



『ジュリちゃん、もう大型船が小さな島に着いたみたいだよ』


「オバサンは、夕方だって言ってたよね? まだ、お昼前だよ」


『船は、海の状態に影響されるからね。すぐに、海辺の集落に人間が集まってくるよ』


「じゃあ、この草原にいる方がいいのかな。下の小川の近くに行きたいけど」


『ジュリちゃんがいつも遊んでいる友達は、小川の近くにいるからだよね。人間が草原にも入ってくるかもしれないから、呼び寄せる方がいいかな』


 物質スライムがそう言うと、上の草原にいたスライム達が、ぽよ〜んと跳ねて、次々と下の草原へ降りて行った。そして、小さなスライムを身体の中にたくさん入れて、戻ってきたよ。


 これを初めて見たときは、小さなスライムが食べられたと思って驚いたけど、食べるときは消化液を出すんだって。



 小さなスライム達は、私を見て、ぴょんぴょん飛び跳ねてる。遊ぼって言ってるのね。私が白いテーブルに座っているから、いつもみたいに膝に乗れないのかな。


 テーブルから降りて草原に座ると、小さなスライム達が私の膝に飛び乗ってきた。今日はスカートじゃないから、みんな乗るのが難しいみたい。すぐにコロコロと落ちちゃう。


(ふふっ、かわいい)



 しばらく遊んでいると、スライム達がソワソワし始めたみたい。下の草原を人間が歩いているのかな。


『ジュリちゃん、他の集落の人間達は、小さな島に向かったよ。小さな島から、ボートとそれを追いかけて小船が来たみたいだ。島に入ることをスライム神が許したから、人間だと思うけど』


「ん? 新しい人間が来たの?」


『何だか怪しい奴らだな。あっ、こっちにくる!』


 白いテーブルは、大きな白い布に変わって、私に覆い被さったの。


 スライム達も、一斉に姿を隠したみたい。だけど、私と一緒にいた小さなスライム達は、白い布の中で震えてる。




「あれ? このあたりで、何か反応があったんだけどな」


「とりあえず、ここに隠れよう。もう空腹で動けねぇ」


 白い布は、彼らには見えないみたい。早く、あっちへ行ってくれないかな。


 二人は泉に近寄っていくと、顔を隠していたフードを取って、水を飲み始めた。


(あっ! 黒い髪!)


 オバサンは、黒っぽい髪色の人には、絶対に近寄ってはいけないって言ってたけど、二人とも真っ黒な髪だよ。私は近寄ってないのに、近寄って来ちゃったよー。



「大丈夫か? ロックス」


 水を飲んでいる途中で、一人が地面に崩れるように倒れちゃった。


「心配するな、イーグル。少し休めば、大丈夫だ……」


 小さなスライム達が、あの人達が怪我してるって教えてくれた。倒れた人はお腹を押さえてるし、もうひとりは頬に血がにじんでる。


(ど、どうしよう)



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