37、人間が創り出した改造スライム
『チッ! スライムが集まってるな。早く探せ!』
(この響きは……)
私は、いつも両手の爪にトップコートを塗ってるから、スライムの声が聞こえる。念話を人間が発することはない。少し妙な響きがあるから、大陸の方言なのかな。
「何? 今、何て言ったの〜?」
超絶すぎるイケメンは、完全に人間のフリをしてるみたい。しかも、なんだか煽ってるように聞こえた。
「ふん、人間か。島で保護している人間だな? おっと、サーチ妨害をしても無駄だ。おまえら、妙なことをすると、この島の人間をすべて殺すぞ」
「サーチ妨害をしてるのは、スライム神だと思うよ〜。この島の神さまだよ〜」
「なっ? どこから剣を出した? あぁ、そうか。スライムの加護持ちか。ふっ、その正義感が命取りになるぞ」
「ん〜? どっちの命が取られるの〜?」
(めちゃくちゃ煽ってる……)
のんびりとした話し方だけど、大陸から来たスライムの方が弱いって言ってるようなものだもんね。
「兄さん、やめとけ。人間が敵う相手じゃない」
これは、海辺のスライムの声ね。外が気になるけど、私は海岸に転がっている木箱の中に居る。キララが作った箱だけど、たぶん、海岸のあちこちに積んである木箱のフリをしてるよね。
「小舟じゃなくて転移で来たってことは、スライムだよね〜。どこから来たの〜。あっ、聞かなくてもわかる〜。薄汚れたグリーンスライムだから、緑の帝国だね〜」
「兄さん、奴らを煽るな。ただの人化するグリーンスライムではないぞ。下がっていろ」
「やだよ〜、面白そうだもん〜。アタシは強いんだからね〜。ジュリちゃんに、カッコいいって言ってもらいたいもん〜。みんなは手出ししないで〜」
(ちょ……何その理由)
ガチガチに緊張していたキララまで、ハァってため息を吐いてる。そっか、みんなが緊張してるから、こんなことを言ってるのかも。
キンッ!
(あれ?)
高い金属音が聞こえた後、何も聞こえなくなった。
『ジュリちゃん、大丈夫だよ。スライム神のバリアが変質したんだ。たぶん、非常時には、スライム神が操れるんだと思う。ジュリちゃんの通常バリアが強化されてる』
(えっ? ベースコート?)
『うん、それにキングシルバーの盾が、ボクを取り囲んでいるよ』
(今日は、銀ラメは塗ってないよ?)
『イケメンが発動したんだよ。ボク達の負担を軽減するためと、思いっきり暴れるためだと思う』
(そんなことができるの?)
『うん。キングシルバーは、ボク達のような物質スライムを生み出す親みたいなものだから、物質スライムの居場所はわかるんだよ。アルの自動結界も発動してると思う』
(アルくん? ここに居ないよ?)
『アルは、森の中で剣の訓練をしてるよ。人化できるようになったばかりのスライムが集まる集落があるんだ。いつも、そこで練習してるからね』
(でも、ええっと……)
これまでにも、大陸から人化するスライムが襲撃して来たことがあったけど、いつも、こんな風に守られていたのかな。
『今回は、相手が悪いから、キングシルバーが動いたんだよ。普段は、人化するスライムが、島に住む人間を守っているよ』
(相手が悪いって、強いってこと? 相性が悪いのかな)
『どっちもだよ。ボク達だけでは、奴らからジュリちゃんを守ることは難しかった。大陸の人化するスライムは、海辺のスライムより弱いけど、奴らは違う』
(海辺のスライムは、この島の門番なんだよね。強いから門番なんだよね?)
『うん、そうだよ。だけど、ただのスライムだ。奴らは、改造されたスライムなんだ』
(改造スライム?)
『そう。緑の帝国の人間は、むちゃくちゃなことをしている。スライム神が与えたギフトを人間から引き剥がして、その物質スライムを粉々に砕いて、グリーンスライムに喰わせたんだ。ギフトを引き剥がされた人間の、深い闇と一緒にね』
(ええ〜っ!? ひどい……じゃあ……)
『うん、だから強い兵器みたいなものかな。改造されたスライムがいるという噂は聞いていたけど、ここまで強いとは知らなかった。人間の深い闇が入り込んだことで、ダークスライムの特徴も持っているみたいだ』
(ダークスライムの特徴って、髪が黒くなるってやつ?)
『人間なら、そうなるね。スライムは、ダークスライムの体液で溶かされる。畑を守るグリーンスライムだから改造できたんだ。グリーンスライムは、異物をそのまま吸収することが得意だからね。つまり、緑の帝国だから、スライムの改造ができた』
(そんな……)
大陸では人間同士の戦乱が起こってるって聞いたけど、バカな人間が改造スライムを創り出したってことよね? 緑の帝国が大陸を支配しようと動き出してるとか、赤の王国と戦乱になってるって……。
今、漁師のお兄さんが、大陸に行ってる。赤の王国の英雄だから、行くしかないんだっけ。だけど、そんな改造スライムがいるなんて、お兄さんは知らないよね?
『ジュリちゃん、カールも改造されたスライムがいることは知ってる。カールの物質スライムは、まだ完全に復活してないから、逆に安全だとも言えるよ』
(えっ? キララ、どういうこと?)
『物質スライムが完全に復活してない状態だと、身体から引き剥がすことはできないからね。カールは、物質スライムを奪われて闇堕ちすることはない』
(ちょ、そんなことまで起こるって……)
私は、自分が考えていることが浅いんだと気付いた。前世の記憶があっても、全然役に立たない。
突然、明るくなった。
(あっ、窓を作ったの?)
『うん。でも、まだ外には出ちゃダメだ。今、キング達が確認してる』
(確認って何……あっ!)
砂浜は、あちこちが緑色に染まっていた。これは、大陸から来た改造スライムの体液?
海辺のスライム達だけでなく、白い髪の見覚えのない人化したスライムもいる。
『大陸から来たスライムが他に居ないかを確認してるんだ。大きなスライムの草原から、クリアスライムが来てるよ。完全に浄化が終わるまで、ジュリちゃんはここから出ちゃダメだって。改造されたスライムの体液を吸い込むだけでも、人間は死んじゃうからね』
(う、うん。わかった。体液って、砂浜に散らばってる緑色の物だよね?)
『そうだよ。海岸に来た改造されたスライムは、すべて殺されたからね。だけど、これでハッキリとわかった。緑の帝国にとって、ジュリちゃんとアルは、ここまでするほどの重要な人間だってことだね』