20、黄色い香草はツーンとするよ
「テーブル掛けを受け取りに来たよ」
オバサンは、私達を連れて、黄の集落の中を真っ直ぐに歩いて行ったよ。突き当たりにある大きな建物で、大きな声を出したの。
「海辺の村長、早かったね。まだ、まとめてないから、中に入って、軽く食事でもして待っていてくださいな」
(なんだか同じかも)
緑の集落に行ったときも、手紙の返事を書くからって言って、昼ごはんを食べて待つことになったもんね。
「じゃあ、そうさせてもらおうか。奥の食堂に居るよ」
オバサンは、私達について来なさいって言って、建物の中を進んで行ったの。たくさん扉があるのに、正しい扉がわかってるみたい。
扉を開けるたびに、部屋の匂いが変わる気がしたよ。大きな木の道具がたくさんある部屋は、ガチャガチャと音が凄かったよ。
「ジュリ、珍しいかい? ここは織物の工房なんだ。今、ジュリが着ている服も、ほとんどが黄の集落で作られた物だよ」
「えっ? 服を作る工房なの?」
「ここでは、主に布地だけを作っているんだ。テーブル掛けのような簡単な加工はしてくれるけどね。服は、別の工房で作られているよ」
「すご〜い! 布って、あんな細い糸からできるなんて、知らなかったよ。魔法みたいだね」
オバサンが私の手をつかんだよ。私が近寄っていくと思ったのかも。
「ジュリは、好奇心旺盛だから、捕まえとかないとね。食堂は、その先だ。ここの工房で働く人のための食堂だけど、誰でも黄の王国の郷土料理が食べられるんだよ」
◇◇◇
「お食事をされる方は、こちらにお並びください」
広い食堂は、木のテーブルがたくさんあって、明るい雰囲気だったよ。大きな窓の外には、金色の畑が見えるよ。
オバサンについていくと、知らないお姉さんから四角いトレイを渡されたの。
(わわっ!)
列に並んで歩いていくと、トレイの上に次々と料理が乗せられていくの。予想してたけど、どの料理も黄色っぽいよ。大皿の料理を小皿に入れてトレイに乗せる、達人のお姉さんがたくさんいるよ。
「ジュリ、席まで、ちゃんとトレイを持つんだよ?」
「はーい、わかったの」
(あれ?)
返事をしたのに、私が持っていたトレイが無くなったよ。
「子供さんの分は、席までお持ちしますよ」
達人のお姉さんが、ここにもいたの。ニコニコと優しい笑顔で、席に案内してくれるよ。
「すまないね。助かるよ」
「いえ、この集落は子供が多いので、慣れてますから」
オバサンにも、ニコニコな笑顔を向けているよ。達人のお姉さんは、なんだかすごいの。
「こちらでよろしいでしょうか」
達人のお姉さんは、私達がちょうど座れる丸いテーブルに、案内してくれたよ。
「円卓だなんて、お客さん扱いだね。まぁ、5人だから、円卓の方がいいかね」
他のテーブルは、4人席が多いみたい。やっぱり、お姉さんは達人なの。
「さて、いただこうかね」
オバサンは、みんなにフォークを配ると、料理を見て楽しそうな顔をしたよ。黄の王国の料理だから嬉しいのかな。
「すごい量ですね。俺、こんなに食べられるかな」
「アルは成長期なんだから、しっかり食べなよ。あっ、ジュリとは違って大人用の料理だね。そっちのサンドは香草が入っているから、私がもらおうかい?」
アルくんは、オバサンが指差したサンドのお皿を、テーブルに置いたよ。私のトレイには同じサンドはないみたい。
(うん?)
なぜか、お兄さんも、サンドのお皿をそぉ〜っとテーブルに置いたよ。
「カール、何だい? 私を今以上に太らせる気かい」
「この黄色い香草は、ツーンと辛いだろ。俺は苦手なんだよ」
「たまごサンドだから平気さ。ロックスも食べているじゃないか。お子ちゃまなことを言ってないで、カールも食べな」
(とっても気になるの)
チラッとアルくんの方を見てみると、やっぱりアルくんも気になってるみたい。
「村長さん、私、ちょっと食べてみたい。アルくんも気になってるみたいだよ」
「はぁ? ジュリやアルには、まだこの香草は早いだろ。まぁ、好奇心旺盛なジュリには、そう言っても通用しないか」
オバサンは、サンドを半分に切って、私とアルくんに渡してくれたよ。
「ジュリちゃん、やめておく方がいいよ? 鼻がツーンとして、悶絶するかもしれない」
「えっ! そんなに?」
漁師のお兄さんは、真顔で何度も頷いているの。でも、ロックスさんは平気な顔をして食べてる。
アルくんが口を開けたよ。パクッとかじったけど、大丈夫そうな顔をしてる。
(じゃあ、私も!)
たまごサンドをパクッと口に入れたよ。オバサンが作るサンドとは違って、酸っぱい味もするけど、平気かも。
残りのサンドも口に放り込んで、大丈夫って言おうとしたら、急に鼻がツーンってして、涙が出てきたよ。
「ほらね。ジュリ、黄色いスープを飲みな。甘いから、香草の匂いも気にならなくなるよ」
私は、慌てて黄色いスープを飲んだよ。甘くて冷たくて、すっごく美味しいの。黄色いつぶつぶが甘いみたい。
「俺は、ギリギリ食べられました。かなり鼻がツーンとするから、事前に聞いてなかったら驚いて吐いてしまったかもしれません」
(アルくんは大人なの)
「たまごサンドだと、白いソースが甘酸っぱいから、この香草が入っている方がいいと思いますけど」
(ロックスさんはすごく大人なの)
「おまえら、一体どういう口をしてるんだ? 鼻がツーンとして涙が出るだろ」
「カール、あんたの口は、ジュリと一緒だね。まぁ、香草には好き嫌いがあるだろうけどさ」
オバサンが呆れた顔をしてるよ。でも、好き嫌いがあるってことは、大人でも苦手な人もいるんだよね。
他の料理は、オバサンが作るのとは少し違うけど、びっくりするような物はなかったよ。私は、オバサンが作る料理の方が美味しいと思ったけど、達人のお姉さんに聞こえそうだから、何も言わなかったよ。
「お待たせしました。海辺の村長さん、テーブル掛けは、こちらの魔法袋にまとめておきましたよ」
食後に、シュワシュワする甘酸っぱいジュースを飲んでいると、工房の人が来て、オバサンに布袋を渡したよ。
「ちょうど良い時間だよ。今、黄の集落で不足しているものは、何かあるかい?」
オバサンはお金を払いながら、工房の人に尋ねたの。
「そうですねぇ。赤の集落経由で入らなくなった薬草かしら。ここから緑の集落にまで買いに行かないといけないと、よろず屋さんが文句を言ってましたね」
「そうかい。それなら、ジュリの出番だね」
(ん? 私の出番?)




