120、赤の王国の城へ
「お兄さん、お城にスライムを連れていくのは、マズイかな? キララとネイルは、指輪と腕輪に戻れるけど」
「ぼくは、ジュリエッタといっしょにいるよっ」
白い髪の小さな女の子は、私の手を掴んで、お兄さんをキッと睨んでる。もこもこな白い着ぐるみ姿だから、絶対に怖くないだろうけど。
「ジュリちゃんの護衛や友達だよな? もちろん、一緒で構わない。城の中では人化を維持してもらいたいが」
黒い髪の人化したスライムは、軽く頷いた。やっぱり、行くべきだと考えてるんだね。
『私も、ジュリエッタの友達として、城に行こう。私に反逆するスライム達が、城を取り囲んでいるからな』
(赤い髪の女の子も?)
お兄さんの方を見てみると、ちょっと引きつりながらも、笑みを返してくれた。良いってことね。
「わかったよ。じゃあ、キララ」
「ジュリちゃん、このままでも大丈夫だよ。だけど、レッドスライム達を威嚇する方がいいかな」
そう言うと、キララはいつもの気球に姿を変えた。
(同じだよね?)
私が乗り込むと、すぐに白い髪の小さな女の子が飛び乗ってきた。黒い髪の子、お兄さん、赤い髪の女の子、そして最後にネイルが乗る。
「カール、新国王がジュリちゃんを呼んでるんだよね? 直接、入るけど大丈夫?」
キララは、門を通らないつもりかな。
「こんな大きな乗り物で、城の中への直接転移は、さすがにマズイかな」
「直接転移はしないよ。レッドスライムを威嚇したいからね。近くまでは転移魔法を使うよ。ジュリちゃん、いいかな?」
「キララに任せるよ。お兄さんは知らなかったことにすればいいよ」
私がそう言うと、キララの気球は、ふわりと浮かび上がった。そして、転移魔法の光に包まれた。
◇◇◇
「わっ、大きなお城!」
キララの気球は、城のすぐ近くに転移した。そしてそのまま、ゆっくりと城に近寄っていく。
「ジュリちゃんが生まれた場所だよ。赤い髪のスライムが、かなり居るようだな。城兵は気づいてないのか」
お兄さんは下を見て、ため息を吐いた。
「カール、気球から顔を出さないで。姿を見せた状態で、透過魔法を使うよ」
(キララは何を言ってるの?)
『キララさんは、そんなことが出来るのですね!』
赤い髪の女の子は、やっぱりキララに惹かれてるように見える。頬が少し赤いし、何より、話し方が女の子だよ。
キララの気球に大勢の人が気づき、大騒ぎになってきた。赤い髪の人化したスライム達も、気球を見上げている。
「ぶつからないのか?」
「お兄さん、大丈夫だよ。キララは、城壁なんて余裕ですり抜けるよ。いつも地底湖に行ってるもん」
私が話している間に、キララの気球は、門の上を飛び越えた。迎撃してきた弓矢も私達には当たらない。そして、そのまま城壁をすり抜けると、驚いて騒ぐ人達の中を通り抜けて、気球は、大きな部屋に降りた。
◇◇◇
「な、何事だ? こんな異常な魔法など……む? カールか?」
大きな部屋にいたオジサンが、お兄さんに気づいたところで、気球は消え、キララは人の姿に変わった。気球に乗っていた私達は、自動的にその部屋に立っている。
ここは、謁見の部屋だろうか。赤いじゅうたんが派手だけど、壁は白く、綺麗な絵画が飾られている。高い天井には照明器具が並んでいて、とても明るい。
鎧を身につけた兵が、部屋の中に駆け込んできた。とても素早い行動ね。私達は侵入者だもんね。
「剣を収めてください。新国王のご命令により、王女ジュリエッタ様をお連れしました」
「なっ、何? 今の乗り物は、物質スライムなのか」
「ジュリエッタ王女の物質スライムです。あぁ、オーグル様、近衛兵の中にスライムが混ざっていますが、どうなってるんですか」
お兄さんは、強い口調でオジサンを叱ってる。混ざっているというより、人間の方が少ないよ。私の目には、フルフェイスの兜から潰れた帽子が飛び出しているように見える。
「は? そんなはずは……」
オジサンは、魔道具のようなものを出してるけど、スライムを見つけられないみたい。
「鎧が魔道具の光を弾くのでしょう。兜を外せばわかるんじゃないかな。あぁ、王国魔導士の中にもいますね」
少し遅れて、魔導ローブを身につけた人達が、大きな部屋に入ってきた。普通の人間は魔法を使えないはずなのに、王国魔導士って、どういうこと?
お兄さんは、魔導士の中にスライムがいると言ったけど、全員人間だと思うよ。あっ、寄生スライムかも。
立派な椅子のある壇上に、アルくんより少し幼く見える男の子が、数人のオジサンに連れられて、現れた。
(確かに優しそうね)
「国王の御前であるぞ!」
ぶよぶよに太ったオジサンがそう叫ぶと、私達を囲んでいた兵や魔導士は、壁の方へ数歩下がった。でも、剣は抜いたままだし、魔導士はタクトのような棒を私達に向けてる。
お兄さんは、かしずいたけど、私は何もしない方がいいよね。そう考えていると、キララは頷いてくれた。
「国王の御前であるぞ!!」
ぶよぶよなオジサンは、また同じことを言ってる。私達にも、ひざまずけと言ってるみたいだけど、そんなことはできないよ。私以外はスライムだもん。この世界は、スライムが統べる世界なんだからね。
「国王ランドルフ様、ジュリエッタ王女をお連れしました。一緒にいるのは、彼女の護衛と友達です」
お兄さんは、ぶよぶよなオジサンの言葉を無視して、男の子に話しかけた。ランドルフくんなのね。赤い髪だけど、真紅ではない。色白で気の弱そうな男の子。
「カール、どの方が、俺の妹なのですか」
「あぁ、そうか。女の子が3人いますね。白い髪の9歳の……」
「ぼくは、ジュリエッタじゃないよ。ジュリエッタは、このこだよ」
白い髪の小さな女の子が、そう補足してくれた。こんなにかわいいのに、周りの人は、汚らわしいモノを見るような目をしている。白い髪に対する偏見がひどい。
「ジュリエッタ、初めまして。俺は、ランドルフです。白い髪で9歳まで生き延びることができたのは、幸運でしたね」
「国王ランドルフ様、お初にお目にかかります。私は、ジュリと申します。ジュリエッタという名前を知ったのは、母リーネルの手紙を、スライム神から渡された8歳の頃のことです」
私がそう返答すると、ランドルフくんは困った顔をしてる。王としての能力がないとは、こういうことなのね。自分で考えて対話する話術がない。
「ジュリエッタ王女、無礼ではありませんか」
ぶよぶよなオジサンが、そう反論した。




