12、たくさんの小さなお客様がいたよ
「あれ? 私……」
ちょっと寒くなって目が覚めたの。あれから、窓を開けたまま、ベッドで眠っていたみたい。外は暗くなってる。
「ジュリ、そろそろ起きな。晩ごはんが……おやおや、これは一体どういうことなんだい?」
オバサンが、私の部屋の灯りをつけたの。
「ええっ?」
私の枕元には、たくさんの小さなお客様がいたよ。
「ジュリの知らない間に、窓から入ってきたんだね。あーあー、ベッドが砂だらけじゃないか」
オバサンは綺麗好きだから、ちょっと怒ってるかも。
「私のお友達だよ。でも、窓の高さまで飛べないと思うよ? どうやって入ってきたのかな」
窓の外を見ると、すっごく大きなスライムがいたよ。たぶん、昼間は人の姿をしてる海辺の集落に住んでるスライムだと思う。
「あぁ、犯人がいたね。海辺の集落のスライムが手引きしなきゃ、草原のスライムはここには来られないからね」
「てびき?」
「おそらく、ジュリが緑の集落で意地悪されたことを知ったから、様子を見に来たんだろうね。この集落にいるスライムは、いろいろと優れた能力があるのさ」
「ふぅん。あっ、私の物質スライムがすごく心配してたから、バレちゃったのかも」
「バレたというより、知らせたんだろう。今のジュリには、近くに友達がいてくれる方が良いだろうからね」
(嬉しいけど……)
「でも、砂だらけになるから、村長さんが困るよね」
「まぁ、どうせ、シーツは明日にならないと洗えないからね。今夜は、ジュリが平気ならこのままでも構わないよ。ジュリ、晩ごはんにするよ」
「うんっ! 今夜は、お友達が、私の部屋にお泊まりするのね。うふふっ」
晩ごはんは、ロックスさんは先に食べていたみたい。食後に、赤くて甘酸っぱい果物を食べてる。
「ジュリちゃん、こんな時間まで昼寝してたのか?」
ロックスさんは、私の方を見てる。髪を隠してないのに、もう怖くないのかな。
「うん、窓を開けて寝てたみたい。枕元に、小さなお友達がたくさん遊びに来てたよ」
「へ? 草原の小さなスライムか? どうやって侵入したんだろう」
「窓から入ってきたみたい。人化できるスライムが手伝ったみたいだよ。大きなスライムが窓の外に居たもん」
「うへぇ、俺、この集落のスライムは苦手なんだよな。人化できるスライムって、みんな異常に強いからな」
ロックスさんは、いつもと変わらないみたい。よかった。物質スライムが言ってたみたいに、驚いただけだったのね。
「漁師のお兄さんも、この集落のスライムは苦手みたいだよ。私は、ほとんど話したことないから、よくわかんないけど」
「俺は冒険者だからな。自分が倒せないほど強いスライムは、怖いんだよ。大陸にいる人化できるスライムは、ここまで強くないぜ?」
「ふぅん、大陸にも、人化できるスライムがいるのね。村長さん、知ってた?」
オバサンの方を見ると、なんだか変な顔をしたよ。
「知ってるに決まってるだろ。この島から大陸に渡るスライムもいるからね。海辺の集落は、この島のいわゆる入り口だ。だから、ここにいるスライムは、みんな門番なのさ」
「門番?」
「あぁ、スライム神の祠もあるだろ? この島には、ここの海岸からしか上陸できないから、強いスライムが守っているのさ」
「じゃあ、村長さんの物質スライムがこの島で一番強いってこと? 一番偉いんだよね?」
オバサンが村長をしてるのは、オバサンの物質スライムが、海辺の集落で一番偉いからだって聞いたよ。
「強いわけじゃないだろうけどね。私の物質スライムは二体いるし、互いに協力できる。それに種族的に、普通のスライムより上位種なんだよ。知能が高いから、非常時にはスライム神の補佐ができるからね」
「スライム神の補佐?」
「あぁ、この島に結界を張れるんだよ。【脱色】の物質スライムは、スライムからの攻撃を無効化できるからね」
(無効化? 効かなくなるの?)
「えっ!? すごいですね、村長さん!」
ロックスさんが驚いた顔をしているよ。
「私がすごいんじゃなくて、私の物質スライムがすごいんだよ。ジュリの物質スライムのような転移能力はないけどね」
「ジュリちゃんの白いテーブルも、すごいよな。スライムの加護持ちの人は、ダークスライムに遭遇しても黒色化しないだけじゃないもんな」
(黒くならないの?)
オバサンの方を見ると、大きく頷いてるよ。
「ジュリの物質スライムは、まだ子供だけどね。もう少し成長すれば、大型船を待たなくても、大陸に行けるようになるだろうね」
「ええっ? そんな長距離の転移ができるようになるんですか。速い大型船でも、ひと月は、かかりますよ」
ロックスさんが、また驚いた顔をしてるの。
「白い髪の子は、珍しいギフトを得ることが多いからね。おそらくジュリは、転移魔法を知っている異世界から来たんだよ」
「すごいな。ジュリちゃんは、前世では魔法が使える人だったのか。この世界では、たくさんの魔物もいるけど、スライムしか、転移魔法のような高度な魔法は使えないんだよ」
ロックスさんは、またまた驚いた顔をしてるよ。
「魔法が使えたのかもしれないし、そういう世界を知っていたのかもしれない。あっ、ジュリ! その白い野菜も食べな。祠を守る爺さんが、ジュリに食べさせるようにって、分けてくれたんだよ?」
(これ、気持ち悪いの)
「噛むとニュルってするから、好きじゃないの」
「紫色の野菜は好きだろ? あれと同じだよ。海辺の畑で育つと、野菜は白くなるんだ」
「同じじゃないよ。紫色のはニュルってしないもん」
「せっかく爺さんが持って来てくれたんだよ? 食べないのかい? お肌に良いんだってさ」
「うー、わかったよ」
ニュルっとする白い焼き野菜を食べたよ。味は嫌いじゃないけど、苦手だよー。
晩ごはんが終わって、部屋に戻ると、びっくりしたの。
「わぁっ! お花畑になってる!」
私が叫んじゃったから、オバサンがすぐに部屋に来たの。
「はぁ……ベッドも床も砂だらけじゃないか。ジュリ、ここで眠れるかい?」
「うんっ! 眠れるよ」
私の部屋は、お花みたいに小さなスライムでいっぱいになってたよ。
「窓を開けて寝るなら、しっかりと布団の中に入るんだよ? スライムと一緒に転がってたら、熱を出すからね」
「はーい、わかったの」
小さなスライム達は、どの子もすごく眠そうにしてる。ベッドに入ると、スライム達の眠いのが私にも移っちゃった。




