119、ジュリの母と兄弟姉妹のこと
赤い丘の近くの草原でお弁当を食べ終えた後、しばらくボーっとしていると、赤い髪の女の子が現れた。
(やっと来た)
「あっ、ジュリエッタ、かしこいこがきたよ」
私にもたれかかって、ウトウトしていた白い髪の小さな女の子は、パチンと目を開けた。
『ジュリエッタ、私を待っていたのか?』
「うん、待ってたよ。私達は、島に戻るからね。アルくんが、さすらいの荒野で、青の王国を再建しようとしてる。賢い子は、レッドスライムの王になるって言ってたよね? 青の王国の再建を、スライムが邪魔しないようにしてあげてほしいの」
『あぁ、そういうことか。私を創ったクリアスライムが懐く人間の願いなら、私はそれを叶える義務がある。私は、レッドスライムの王となることを宣言した』
「他の色の人化するスライムにも、影響力はあるのかな?」
『ジュリエッタ、私は、大陸にいる人化するスライムの中では、おそらく最強だと思う。だが、私の方針に従えないレッドスライムは、この地を離れた。私に従うレッドスライムは、人間の中に紛れ込ませている』
(ん? どういうこと?)
私が首を傾げると、お兄さんが口を開く。
「レッドスライムの王、それは、人化するレッドスライムが、二つの勢力に分かれたということか?」
『そういうことだ。私に従うレッドスライムは、人間達に紛れて、反逆するスライムから人間を守ることにした。人間には過度な干渉はできない決まりだが、これはレッドスライム内の反乱分子を始末するためのものだ』
(人間を守るの?)
「その反乱分子は、どこに行ったのだ?」
『従来からの作戦を実行すると言っていた。決別したのは、昨夜のことだ。私は、他の色の人化するスライムへの説明に回っていたが、ようやく次の段階に進める』
だから赤い丘には、人化したスライムが居ないのね。赤い髪の女の子に従うレッドスライムは、人間の街に行ってるし、反逆するレッドスライムは、ここから出て行ったってことみたい。
「賢い子さん、従来からの作戦というのは、人間の国を大国から順に潰すことなのかな?」
人の姿をしたキララがそう尋ねると、赤い髪の女の子の頬は、真っ赤になった。
『キララさん、は、はい。そうです』
(めちゃくちゃ女の子だ)
「赤の王国の城に既に潜入しているスライムは、どれくらいの数がいるかな?」
『せ、正解な数は、まだ確認できてないです。すみません』
(なんだか、別人かも)
赤い髪の女の子は、キララに惹かれてるように見える。気のせいかもしれないけど。
「ジュリちゃん、やはり、城に立ち寄ってもらえないだろうか。俺は、新国王から、王女ジュリエッタ様を連れ帰るようにと命じられている。その命令自体は、気にしなくていいんだ。俺が頭を下げればいいだけだからな。だが、城に人化したレッドスライムが潜入しているなら、追い出すために力を貸して欲しい」
お兄さんは、私の顔を真っ直ぐに見てる。だけど、何だか変ね。まわりくどい言い方というか、お兄さんらしくない。わざわざ、新国王から命じられてるなんて、言う必要ないもの。
「お兄さん、何か隠してる?」
「いや……あはは、悪い。俺の口からは話せないんだ」
(口止めされてるのね)
「カールがしゃべっちゃだめなのは、ジュリエッタのおかあさんのことだよ。リーネルは、こころがこわれてるよ。へやに、とじこもっているよ」
白い髪の小さな女の子が、お兄さんが話せないことをサラリと言っちゃった。クイーンホワイトさんの能力なのか、この子には歴史が見えるんだっけ。
「私のお母さんが、引きこもってるの? 国王であるお父さんが亡くなったからかな」
「もっとまえからだよ。ジュリエッタのおとうさんがしんでも、でてこなかったみたい」
「えっ? そうなの?」
私は、お兄さんの方に視線を向けた。口止めされているから、そうだとは言えないのだろうけど、否定はしない。
(肯定ってことよね)
『ジュリエッタの母であるリーネルが心を病んでしまったのは、彼女の子供がすべて、白い髪に生まれたからのようだ』
「なぜ、そんなことがわかるの?」
『私の中に入った残留思念の中に、ジュリエッタの兄だと思われるものがある。リーネルの一番最初の子だ。白い髪の子供に対する偏見が少ない黄の王国へ、逃がそうとしたようだ。しかし、この近くを通ったときに、殺されたらしい』
「私の兄?」
『うむ。まだ幼い頃に殺されたから、得られる情報は少ないが、母親が恋しいという気持ちは、私の中に入っている。おそらく、この地を彷徨い、母親の近くにいたのだろう。次に生まれた子は、ジュリエッタだ。赤ん坊の時に海に流された。その次も女の子のようだが、また海に流している。そして、一番最後に生まれた子は男の子だ。今、リーネルと共に隠れて生きている』
「4人も子供を産んで、全員が白い髪だなんて……」
だけど、今、末っ子と一緒に生活しているなら、なぜ心を病んでしまうのだろう。
「ジュリちゃん、城へ立ち寄ってもらえないだろうか。俺からは、何も言えない。ただ、新国王は、王女ジュリエッタ様を連れ帰ることを、強く望んでおられる」
お兄さんは、また同じことを言ってる。物質スライムを経由して、ガンガン催促されてるのかも。
「お兄さん、新国王って、私とは母親が違う兄弟姉妹ってことかな」
「あぁ、そうだ。前国王は、王妃以外に3人の妃がおられた。新国王は、赤い髪をした12歳の優しい男性だ」
(優しい?)
『ジュリエッタ、新たな国王は、王となる能力のない子供だ。大人に利用されているだけの人形だな。だから、私に従わないスライム達が、チャンスだと考えているのだ』
「なるほどね。このままだと、この国はどうなるかな?」
『難しい質問だな。私はまだ生まれたばかりだぞ? だが、ダークスライムに飲まれる未来しかないように思える』
「ダークスライムが増えるスピードが速すぎるのかな。一応、1体は、黒というかまだら模様に戻ったんだよ。島に連れてったら、スライム神からジャックという役割を与えられたんだって」
私がそう説明すると、赤い髪の女の子は、目を見開いている。
『その噂は聞いた。ジュリエッタのチカラだとは知らなかったが……そうか、スライム神の島から来たバケモノとは、ジュリエッタのことだったのか』
(バケモノ?)
「ジュリちゃん、行くなら早い方がいいよ。城の周りに、スライムが集まってる」
キララは、ここからでもサーチできるのね。




