118、赤い丘の変化
キララの気球は、赤い丘の上空に転移した。
(連れて来ちゃった)
私の腕の中には、もこもこな服を着た白い髪の小さな女の子がいる。クイーンホワイトさんの分身だから、地下庭園に置いてくるつもりだったんだけどな。
「ふわしろスライムさん、私と一緒に来ちゃってもいいの? クイーンホワイトさんの分身なんだから、青い髪の人間を守ってるんだよね?」
「ぼくは、ジュリエッタといっしょがいい!」
(また、これだ……)
白い髪の小さな女の子は、また目に涙が溜まってきちゃった。ついさっきまでは、青の王国の生き残りの人達の中で、楽しそうに笑ってたのにな。
「ジュリちゃん、クイーンホワイトがジュリちゃんに託すって言ってたじゃないか。おそらく、島に戻りたいクイーンホワイトの願望も背負ってるんだよ」
黒い髪の子は、そう言いつつ、赤い丘をキョロキョロと眺めている。
(クイーンホワイトさんの願望か)
「わかったよ。まぁ、アルくんが作る新たな町には、これからも行くことになるから、しばらくは島で預かろうかな。たぶん、村長さんも喜ぶよ。かわいい生き物だって言って、メロメロになってたからね」
「あぁ、それがいい。ってか、赤い丘にはスライムが居ないみたいだぜ。先に、カールを王都の方に送り届ける方がいいかもな」
私も下を見てみる。石像は残ってるけど、確かにスライムは居ない。
クゥゥ
(あっ、お兄さん?)
知らんぷりをしてるけど、今のは、お兄さんのお腹の悲鳴だと思う。
「とりあえず、赤い丘に降りようよ。潔癖なレッドスライムは、私達がいれば、排除しようとして戻ってくるよ」
「そうだな。カールが腹減ってるみたいだから、飯にしようぜ。ジュリちゃんは、村長の弁当を受け取ってただろ」
「うん、お弁当にしようか。アルくんにも渡せば良かったかな。でも、あの人数分は、さすがに無いんだけど」
黒い髪の子と話していると、キララの気球は、スーッと降りていく。そして赤い丘を通り過ぎ、普通の草原に着地した。
◇◇◇
草原に降りると、キララは人の姿に変わった。
「キララも食べる?」
「うん、食べるよ。ネイルは、周りを警戒してて」
キララはそう言いつつ、オバサンから渡されたお弁当を全部出してる。ネイルの分も余裕でありそうだけど。
「そういえば、キララは食べる練習をしてたね」
「うん、ボクは食べられるけど、ネイルはできないよ。ネイルはまだ成長の途中だから、体内の構造変化が難しいんだ」
「へぇ、そうなんだ。あっ、お兄さんも食べて」
お兄さんに弁当を手渡すと、懐かしそうな顔をして、私の隣に座った。
「村長の弁当は、2年ぶりだな。いただくね」
「お兄さんと会うのも、2年ぶりだもんね」
私は、なぜ別れを告げずに島を出たのかを、聞きたくなった。でも、まだ9歳の私には、話してくれないかな。
「ぼくも、たべるよっ!」
「はい、ふわしろスライムさんも、どうぞ」
「うんっ」
お弁当を渡すと、仁王立ちのまま、満足げに頷いてる。だけど、弁当を食べる皆が草原に座っていることに気づくと、チラッとキララの様子を見て、草原にぺちゃっと座った。
白い髪の小さな女の子は、なぜかキララに対抗意識があるみたい。物質スライムは、人化するスライムよりも上位種だと聞いたけど、クイーンの分身とは、どちらが上位なのかわからない。
お兄さんの手元を覗きながら、白い髪の小さな女の子は、そーっと弁当の包みを開けている。以前、力加減を間違えてパンを放り投げてしまったことで、学習したようだ。
「村長のサンドか。こんなに色とりどりな物は、大陸では見ないから、懐かしいよ」
お弁当は、外で食べやすいように、たまごサンドとハムサンドのセットになっていた。緑色のレタスっぽい野菜も挟んであるから、赤黄緑が仲良く同居しているように見えた。
「村長さんは、赤の王国、黄の王国、緑の帝国が仲良くしてほしいという願いを込めて、作ってくれたのかもね」
「そうだな。俺が、物質スライムを失って島に戻った頃は、大陸はまだ小競り合いしか起こってなかったんだけどな。俺が離れている間に、状況が変わってしまったよ」
お兄さんの表情は、複雑そうに見えた。赤の王国の英雄と呼ばれていた彼が島に戻ってしまったことで、赤の王国は、人化するレッドスライムに騙されることになったのかもしれない。そんなことを、お兄さんは島でも言っていた気がする。
「お兄さん、島を出る時、どうして私にお別れを言わずに行っちゃったの?」
私はオバサンが作ってくれたサンドを食べながら、聞きたかったことを尋ねた。
お兄さんは、食べる手を止めてる。言葉を選んでいるのかな。私は、まだ9歳だけど、前世の記憶があるから、お兄さんとは感覚は同じ年齢くらいだと思う。でも、私はずっと守られていたから、誰かを守るために戦ってきたお兄さんとは、大違いだけど。
「ジュリちゃんには、別れを言いたくなかったのかもしれないな。あの頃の俺は、大陸に戻ることを迷っていた」
「私が引き止めると考えたから?」
「ジュリちゃんなら、俺を島に居させてくれると考えたからかな。俺自身の甘えを、自分で抑制する自信がなかったんだと思うよ。俺は、ガキだったからな」
お兄さんは、私に本音を言ってくれていると感じた。戦乱が起こった大陸に戻りたくなかったんだ。だけどそれは、英雄である彼にとっては、甘えであり弱さなのかな。
私は、どう返せばいいかわからなくて、二つ目の弁当の包みを、お兄さんに渡した。
「ジュリちゃんは、いつも優しいよな。まだこんなに若いのに。白い髪の転生者だからかな」
「うん、お兄さんとは、生きている場所は違うけど、長さはあまり変わらないと思うよ」
(ん? 何?)
お兄さんが私を見た顔が、いつもとは違って見えた。迷子になった小さな子供のような、弱々しい表情に見える。
やはり、お兄さんは、今でも大陸には居たくないんだ。きっと、スライム神の島で、漁師をして、みんなの世話をしている方が楽しいんだよね。
「ジュリちゃんは、やはり、王女の器に選ばれた人だな。白い髪に対する偏見がなければ、今頃は、大陸は平和だったはずだ」
「ん? 私が特別なわけじゃないと思うよ。これからは、少しずつ変わると思う。アルくんが頑張って青の王国を再建すれば、大国の力関係は、きっとバランスが良くなるよ」
「そうだな。だが、間に合うだろうか……」
お兄さんは、二つ目の弁当を食べながら、遠い目をしていた。
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