117、青の王国の再建計画
「ブラックさん、それは、クリアスライムが行うのでしょうか。大陸は人間の領土です。スライムが干渉しすぎることは、良くないと考えています」
ふわふわ浮かんでいる女の子……クイーンホワイトさんは、黒い髪の子の提案に、やわらかな口調でだけど、ノーを突きつけた。
「クイーンホワイト、違いますよ。奇跡を起こすのは、ジュリちゃんです」
(はい? 私?)
私は島に帰るって言ったのに、忘れちゃったのかな。
「ちょっと待って。人間を惹きつける奇跡ってことは、ダークスライムに襲われた人の浄化だよね? とんでもない数がいるよ」
「ジュリちゃん、それは奇跡じゃないよ。スライム神の島に辿り着くことができれば、黒色化を止めることができるって、この付近の多くの人間が知ってる。スライム神の存在を信じない人もね」
私だけでなくクイーンホワイトさんも、首を傾げてる。だけど、アルくんは、何かに気づいたみたい。
「ブラックさん、その奇跡は、白い髪に生まれた子の髪色を変えることですね。ただ、ヘアマニキュアは、ひと月くらいで剥がれ始めるようですよ」
(あっ、髪色か)
「それでいいんだよ。加護が長く残るのも、ありがたみがない。色が剥がれてくると、定期的に神殿に来るだろ? 遠方の人間は、必ず宿を利用する。アル、まずは神殿と宿場町から始めるのが良いと思うぜ」
「なるほど! でも、ジュリちゃんの負担になるかも」
「ジュリちゃんの物質スライムは、出店とネイルだ。島に住んで、たまに大陸に商売に来ればいいじゃないか。大陸が戦乱中でも、俺がジュリちゃんの護衛をしてやるからさ」
黒い髪の子がそう言うと、アルくんは、すっごく嬉しそうな顔をした。アルくんにとって、彼は剣術の先生だもんね。
大勢の視線が、私に集まっている。これは、断れないよね。それなら……。
「じゃあ、アルくん。ヘアマニキュアの店の区画を作ってくれる? 毎日は無理だよ。10日に一度とか、日にちを決めて、白い髪の子にヘアマニキュアをするよ。あー、珍しい髪色に悩む人も、利用できるようにしようかな。お店だから、お金をもらうけど」
「もちろんだ! あまり高いのは困るけど、無料だと逆に警戒されると思う」
「金額はわからないから、アルくんが考えて。それと、ヘアマニキュアを使えば、人化したスライムの素性を暴露できるね」
「えっ? あ、さっきの実験?」
アルくんは、実験だと思ってたのね。
「ジュリちゃん、それは良いな。人化したスライムは、ヘアマニキュアを知ると、それを利用して髪色を変え、他国へ潜入しようとするかもしれない」
漁師のお兄さんも、目を輝かせてる。
「カールさん、それ、使えますよ! スライム神の神殿で、加護は人間しか受けられないことを事前に説明しておけば、人間のフリをしたスライムに罰が下ることになります」
「あはは、そうだな。グリーンスライムが赤い髪にしようとすると、死にかけるかもしれないけどな」
お兄さんとアルくんが、楽しそうに話しているのを見て、黒い髪の子は、思いっきりドヤ顔をしてる。
「ジュリちゃん、神殿は小さくていいよな? なるべく早く建てたい」
「うん、いいと思うよ。アルくんのやることが決まったね」
「あぁ、さすらいの荒野に、小さな宿場町を作る。そして、スライム神をまつる小さな神殿を作って、ジュリちゃんが奇跡を起こす区画も用意する」
「うん、人が集まってきそうだね」
「あぁ、人が集まる町にするよ」
アルくんが力強くそう言うと、青い髪の人達の中には涙を浮かべる人もいた。青の王国の再建を夢見て、ずっと隠れ住んでいた人達だもんね。
「アル、その神殿の一部に、ジャックの役割を得たスライムの部屋を作ってやるといい。そうすれば、神殿にはダークスライムは絶対に来ない。奴らにはテリトリーがあるからな」
黒い髪の子は、グレー髪のオジサンの方を見て、そう提案を追加した。ダークスライムにナワバリ意識があるなら、アルくんが作る小さな宿場町は安全になるね。
「ブラックさん、でも、ダークスライムだったスライムを、スライム神の神殿に住まわせるのは……」
「彼は、ジャックの役割を得た。キングやクイーンを補佐する使用人というよりは、下男のようなモノだぜ。立派な部屋じゃなくて、物置小屋でいいだろ」
(なんか、ひどい)
でも、ダークスライムだったという過去は変えられないか。大陸にいる人間もスライムも、ダークスライムを恨んでるよね。
「それなら、神殿には、スライム専用の泉を作りましょう。その泉を囲う部屋を、ジャックが利用すればいいのです。体液を撒くには、多くの水の吸収が必要ですからね」
クイーンホワイトさんがそう言うと、アルくんは大きく頷いた。グレー髪のオジサンの部屋を作ることには抵抗があったみたいだけど、人間が利用しない泉の部屋なら、いいみたい。
「ふわしろスライムさんも利用するなら、地下庭園の真上がいいのかな?」
「そうですね。真上である必要はないですが、近い方が良いでしょう。すぐに悪意を吸収してしまいますからね」
アルくんは、しっかりと頷くと、青い髪の人達に視線を移した。彼らも、皆、大きく頷いている。
(もう大丈夫そうね)
「じゃあ、アルくん。私達は、赤い丘に寄って、島に帰るね。髪色を変えて欲しい日は、クリアスライムさんの分身に言ってくれたら、たぶん私に伝わるよ」
白いスライムの方を見ながらそう言うと、ピョンと飛び跳ねてくれた。
「あぁ、わかった。10日以内には、仮神殿だけでも作るよ。それに、噂も広めないと、人間は集まらないからな」
「たぶん、近くの集落の人間に言えば、すぐに広まるんじゃない? お兄さんも、赤の王国で話してくれると思うよ」
「カールさん、是非、お願いします」
アルくんは、お兄さんにも、深々と頭を下げてる。
「アル、こういう噂はすぐに広まる。昨日、ジュリちゃんが派手に軍隊を撃退したからな」
「あっ、そうでしたよね。では今日からでも、準備を始めます」
アルくんの決意表明に、お兄さんは優しい笑みを返した。
「お兄さん、赤の王国までキララが送るよ」
私がそう言うと、キララは気球の姿に変わった。私が乗り込むと、ネイルも勝手に出てきた。黒い髪の子とお兄さんも乗り込む。
「じゃあ、皆さん、またね」
「うわぁ〜ん! ジュリエッタ、ぼくをわすれてるよ」
キララの転移直前に、私の腕の中に、泣きべそをかいた白い髪の小さな女の子が、飛び込んできた。




